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『宿舎』での出来事

side183番(黒鵜宗二くろうそうじ



 ・・・全く、酷い目にあったよ。丸一日以上高速回転するボールの中でアッチにぶつかったりコッチにぶつかったりするのは辛いなんてものじゃ無かった。アレは拷問だよ。・・・誰一人吐かなかったのが不思議なくらいだ。もしかしたら誰かが何らかの能力で酔いを軽減してくれていたのかもね。幸い、”風操作”が出来る何人かの人が僕たち一人一人にも風の膜を張ってくれたから、人と人がぶつかって怪我をする事態にはならなかったんだけど、008番にはもうちょっと考えて行動してもらいたいよね。


 彼が無茶したせいで、彼以外の殆どの人がダウンして、体調が回復するまでに丸一日を有した。憎き『牧場』の近くの森で、僕の能力で作ったオリハルコン製のシェルターの中で休んだんだ。どうやら、回復系の能力でも、こういう状態異常は治せないようだね。


 ・・・しかし、人生って本当に分からないよね。もう駄目だって諦めた時に、救ってくれる人が現れるなんて奇跡だよ。僕は国王に買われることが既に決定していたし、他の人は戦争に連れて行かれるか性奴隷として扱われるか・・・それとも、鉱山で働かせられるか。そういう人生しかないって思っていたし。


 うん、今回『牧場』に囚われている人を救出出来たら、この少年に話してみよう。僕は、この世界の全ての『羽根付き』を救いたい。だから、彼には協力して貰わないと。






 とうとうこの日がやってきた。皆は一昨日の地獄のせいで最悪だった体調を完全に回復して、『牧場』の全体を見渡せる丘の上に集まっている。相変わらず『羽根付き』が酷い仕打ちを受けているのが見える。・・・本当は今すぐにでも突入して助けてあげたいところだけど、僕一人が暴走したら、他の人間が助からない可能性がある。よく見ると、他にも何人かが手をギュッと握って唇を噛み締めて我慢しているのが分かる。・・・待っててくれ、絶対に、誰一人減らすことなく助けて見せるから。


 『牧場』は、全部で5つのエリアに分けられる。『繁殖場』、『懲罰場』、『羽小屋』、『戦闘訓練場』、そして『宿舎』だ。『繁殖場』では、僕たちは新しい『羽根付き』を生む為に、強制的に子作りさせられる。『懲罰場』は、早い話が『調教師』達のストレス発散の拷問部屋だ。『羽小屋』とは僕たち『羽根付き』を閉じ込めて置くための牢屋。『戦闘訓練場』は、戦争に使える能力を持った『羽根付き』を訓練・・・という名目で痛ぶる場所。そして、『宿舎』は『調教師』達が住んでいる場所だ。


 突入作戦はいたってシンプルで、この5つのエリアに同時に突撃し、『羽根付き』を救出。人質にでも取られたら厄介だから、全てを同時に攻略する。邪魔する奴は皆殺し。もしも『羽根付き』が首輪の力によって操られ襲ってきた場合、可哀想だけど四肢を砕き動けなくした後で少年の元に運んで行き、首輪を外して貰い、その後回復。僕たちは全部で60人。コレを5つのグループに分けて突入しようって少年は提案してきた。


 僕は、『宿舎』エリアの担当にしてもらった。・・・あそこが、一番人が多いからね。今までの恨みを晴らすには丁度いい場所だったのさ。


 僕の”オリハルコン作成”で全員に鎧を作る。・・・正直、一昨日作った洋服だけでも防御力は抜群なんだけどね。顔とかは守れないから、鎧を作ったんだ。





 『宿舎』エリアに到着した。そこには、貴族の屋敷かと思うほどに巨大で・・・そして、装飾過多で悪趣味な建物が建っていた。・・・僕たちは『宿舎』エリアに入ったのは始めてだったので、しばし呆然と見つめてしまった。・・・僕たちが、あの動物小屋よりも酷い環境で過ごしていたのに、コイツらはこんな所で暮らしていたのかと思うと、胸の奥にフツフツと暗い感情が芽生えてくる。今すぐにでも引き裂いて、潰して、焼き払いたいところだけど、他のエリアに行った皆からの連絡を待つしかない。


 今にも暴走しそうな仲間を抑えて、数分たった頃、漸く作戦開始の連絡が”念話テレパシー”の能力を持つ仲間から入った。


「待ってたよ・・・!さぁ、行こうか皆!」


『殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!!』


 僕達の叫びに驚いたのだろう。建物から人が出てきた。そして、全身を銀色の鎧に包んだ正体不明の集団が向かってくるのを見て、焦ったように魔術を行使する。


「”焼き尽くせ”!」


 という呪文と共に、巨大な火の玉が此方に向かって飛んでくる。その火の玉は、僕たちに命中し、周囲を炎の渦に巻き込んだが・・・僕たちには、暑さすら感じさせることは出来なかった。


「そんな物が効くと思うのかい?」


 オリハルコンで作った槍を飛ばし、その男を串刺しにする。


「ガフッ・・・!」


「突入しろ!」


「殺せ!」


「報いを!」


「今までの恨みを晴らせ!」


 その男が倒れると同時に、僕は叫ぶ。皆、バラバラになって建物の中に入っていった。


 ・・・そういえば、僕の能力は、便宜上”オリハルコン作成”と呼んでいるけど、本当はオリハルコンなのかどうか分からないんだ。最初にこの能力で作ったのがオリハルコンに酷似していたからこの名前が付けられただけ。この世界の本当のオリハルコンは、ただ世界一硬い金属っていうだけの代物で、特殊な力は何一つ持っていない。・・・でも、僕の作る金属は、僕が思った通りの性質を持って生まれてくる。例えば、今僕たちが着ている鎧には、”炎属性耐性”、”氷属性耐性”、”斬撃耐性”、”打撃耐性”が付いているし、ゴムのように伸び縮みするのにオリハルコンと同じ硬度の金属というのも作れる。・・・正直、訳が分からないけど。本当は、”僕の想像した金属を作る”能力じゃないかと思うんだよね。


 ドン!


 という音と共に建物の一角が吹き飛んだ。皆派手にやっているようだ。僕も頑張らないと。


「冗談じゃねぇ!何で『羽根付き』が反乱を起こすんだよ!?俺達は逃げさせてもらうぜ!」


 という声と共に、建物の2階の窓が割られ、そこから男が数人飛び出してきた。どうやら飛行の魔術を使っているようだ。


「逃すと思っているのか?」


 僕は空中に10本程の槍を作り、それを発射する。


「ガ・・・!」


「あ、アアアアアぁぁあ!」


 腹に突き刺さった者もいれば、足や腕が吹き飛んだ者もいる。だが、全員が生きて墜落してきた。


 ・・・当然だけどね。わざと殺さないように撃ったんだから。


「おやおや、自称『人類』様は随分と弱いんだね。僕たちを首輪で拘束していた時にはあんなに恐ろしいと感じていたのに、今は恐怖を感じない。」


 短剣を作成し、それを手に近づく。怯えた彼らが後ずさろうとするが、怪我と地面に叩きつけられた衝撃で満足に動く事が出来ないようだ。


「出来るだけ酷く殺してやるよ。」


 ・・・それから十数分後、作戦終了の”念話テレパシー”が届いたとき、そこには赤黒いナニカが散乱していた。


「僕は・・・僕たちは自由になったんだ。」


 この時、やっと本当に自由になったのだと・・・そう実感出来るようになったのだ。


ちょっとグロい?っていうか暗い。どうしてこうなったんだろう?当初はもっと明るめの話になるはずだったのに。

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