魂のルール
side 翼
「いや・・・マジかよ・・・・・・。」
俺は、『羽根付き』の力の凄まじさに絶句していた。先程の二人も凄かったが、他の人も凄かったんだ。俺は、高速で洋服が出来上がっていく様子をジッと見つめていた。それで、全員分の服が出来上がったときに気が付いたんだ。
「傷が・・・無くなっている・・・・・・。」
全ての人の傷がなくなっていた。いや、こう書くと唯の治療とかのように聴こえるかな。・・・正しくは、再生していたとでも言うべきか。
欠損していた部位でさえ、何事も無かったかのように元通りになっていた。どうやら、俺が洋服に夢中になっている間に何人かの治癒能力を持つ『羽根付き』が全員を治して回っていたようだ。流石に、ガリガリに痩せている体はどうにもならないみたいだけど、体に無数に付いていた痛ましい傷が全て消え去っているのには驚いた。
「これが、『羽根付き』の力か・・・。」
『そうだよ。これが、君たちの力だ。』
「俺たちの力・・・か。」
『うん。皆に服も着て貰ったし、今度こそ君の力について話が出来るね。』
「よろしく。」
『先ずは、誰か一人を見つめてくれ。』
そう言われて、俺はさっき奴隷商人を殺した、漆黒の翼を持つ男性に視線を合わせた。
『そして、『視たい』と念じるんだ。』
(・・・視たい)
すると、俺の視界に何かが表示された。
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・名前『無し』
・性別 男
・属性 闇
・能力 重力操作(リミッター付き)
・ルール 【能力を発動する毎に魂が摩耗する】
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「・・・何だこれ?」
『見えたかい?君の能力はルールの改変だからね。対象の持つ情報を見れるようになっている。・・・そして、これがこの世界の『羽根付き』の持つルールさ。』
「魂の・・・摩耗・・・・・・だと?」
『生物は、肉体が死んでも魂が無事ならば何度でも転生出来る。魂というのはそう簡単には傷つかない物だし、普通なら、何度死んでも新しい人生を謳歌出来るようになっている。でもね、ヤツが何をしたいのか分からないが、これは明らかに神の領域を超えた所業だよ。魂がすり減るルールを生物に掛けるなんて、禁忌もいいところだ。』
しかも・・・とグノーは続けた。
『それを、僕の世界から連れ去った人の子に掛けるなんてね。・・・・・・喧嘩を売っているなんてレベルの話じゃないんだよ。』
俺は、背中に寒気を感じた。グノーの言葉には、紛れもない殺意が混じっていたからだ。俺に対して向けられた訳ではないのに、冷や汗が止まらない。体が震えてくる。
『おっと、ゴメンね。僕の殺気は人間には強すぎる。辛い思いをさせた。』
俺の状態に気が付いたグノーが殺気を抑えてくれなければ、恐怖で失神していたかも知れない・・・。
『兎に角、君にはこのルールを改変出来るまでレベルを上げて欲しい。』
「れ、レベル・・・・・・?」
『今の君の能力じゃ、魂に直接かけられたルールは変更出来ないんだよ。能力をどんどん使って、翼を展開出来るようになればこのルールも変更出来る筈だ。』
「分かった。・・・ところで・・・。」
『君は、ヤツが誘拐してきた存在じゃない。僕が直接連れてきた存在だ。だから、君はいくら能力を使っても魂を削られる事はないよ。』
「そうか。よかった。何もデメリットはないんだな?」
『ああ。』
俺も、アイツを救うまで死ぬ訳にはいかないんだ。もし能力を使うと魂が減るのなら、極力使用しないようにするつもりだった。だが、デメリットがないというのなら、積極的に使用していこう。
と、そこまで考えたところで、黒い翼の男がやってきた。
「頼みがある。他の奴らも救ってやってくれないか。」
何と、『牧場』という場所に、他にも転生者がいるというのだ。