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3話

オレンジ色の約束3



芳尚と怜凪が体育館に入ると、目の前に大きな列が出来ていた。みな、まだ気なれない大きめの制服を着ているあたり、みんな1年生なんだろうと芳尚はぼうっと思っていた。すぐにうしろから怜凪に急かされて、体育館のなかに入る。すぐにエンジ色のジャージを着た先輩らしきひとが、走り寄ってきた。


「バスケ部入部希望?」

「はい」

「じゃ、これに名前とクラス、出身中学とやりたいポジションを書いて」


無造作に渡された真っ白な紙。すぐにその人が去ろうとするところを怜凪が呼び止めた。


「すみません」


いつもよりもすこし声のトーンが高い。怜凪のよそ行き用の声だ。


「わたし、マネージャー志望なんですけど」

「え? ああ、ごめん。うちは女子のマネージャー取らないんだ」


ごめんねえ、と新入部員の紙を回収しながらその先輩は言った。あ、と芳尚が思うころには怜凪のよそ行き用の声は外れていた。代わりに戦闘開始のスイッチが押される音を、芳尚だけが聞いた。


「なんでですか? わたし、どうしても男バスのマネージャーがやりたくてここに入学したんです」

「えー?」


まさか、反論が飛んでくるとは思っていなかったのだろう、面倒くさそうにした先輩が初めて顔をあげて、怜凪を認識した。そして、すこし驚いた表情を作る。小柄ではかなげなこの少女のような怜凪からまさかあんなに力強い声と言葉が出るとは到底思えなかったのだろう。慣れっこの芳尚はとなりでただ、何も言わずにぼうっと(ほかの人にはみえるように)立っていた。心の中では、面倒なことになる前に俊が来てくれないかと、それしか考えていなかった。芳尚には怜凪は止められない。


「なんで、ダメなんですか?」

「なんでって言われても、だめなもんはだめだしなあー」


困ったように笑いながら、先輩が怜凪の上目遣いにすこし揺らいだのを芳尚はもちろん怜凪が見逃すはずなかった。ああ、路線変更だな。


「お願いします、せんぱいっ。私ほんと、一生懸命頑張りますから!」


怜凪のよく通る声は、声量がなくても十分に聞こえてくる。体育館のなかの新入部員がちらほらと怜凪の方を気にし始めていた。小さくて小柄で髪の毛が綺麗でひとみの大きい可憐な少女。口の悪さと度胸だけは、男顔負けだがいまはそんなところお首にも出していない。要領の良い怜凪らしい振る舞いだ、と芳尚はなかば呆れ、なかば感心しながらその光景を見守った。


「いやあ、でもねぇー」

「佐々木、集計終わったか?」


怜凪の攻撃を受けていた先輩が、名前を呼ばれたのだろうすごいスピードで振り返り同時に返事をした。


「はい! すみません関さん、まだ終わってなくて」

「先生が急げってさ、ちょっとまいてくんね?」

「はい!」


佐々木と言われた先輩は、怜凪のことを丸投げして自分の実務に戻ろうとした。怜凪は、標的を変えたのだろう、関にターゲットを絞り直して自分の任務遂行を果たそうとした。

となりの生徒が関さんだ、関さんだと憧れの意を込めて呟いているのが芳尚には聞こえた。そんなに身長はないみたいだがすごい選手なのかもしれない。


「すみません、せんぱい」

「ん? あれ、女子?」

「はい、私マネージャー希望したんですけど、いまそこのせんぱいに断られちゃって」

「ああー、うちでは女子マネージャーは募集してないからね」

「なんでですか? 私じゃだめですか?」

「いや、君がとかじゃなくてさ。先生の意向なんだ」

「じゃあ、先生に会わせてください」


にこり、とちっとも笑っていない笑顔を怜凪は少しも崩さなかった。関はきょとんとしたまま怜凪を見つめ、そして、ついに吹き出した。

怜凪も、いきなり笑い出した関をみてきょとんとする。くりっとした瞳がくるくる回りだしそうな目だ。


「そんなこと言ったマネージャーは君で二人目だよ。じゃ、こっち来て」

「え、あ、はい」


怜凪も予想外の展開だったのだろう、追い出されるか断られるか。もともと女子禁制だと知っていてここまで来たのだ。あまりにうまくことが進んだために、自分でも驚いているのだろう。ひとりぽつん、と置いていかれた芳尚は、とりあえず俊が来る前に大ごとにならなくて良かったと、胸をなでおろしたのだった。




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