表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2話



「ね、ね? ぜひバレー部に!」

「いやいや、君のその体格はぜひ柔道部に」

「バドミントン部のマネージャーはミス橘なんだぞう」


桜散る4月。新品のブレザーがなんとなく窮屈に感じていた入学式の翌日。オリエンテーションが終わった帰り道、下駄箱のそばで俊と怜奈を待っていた芳尚は部活の勧誘につかまっていた。もう、入る部活は決まっているんです。その一言すら言わせてもらえない勢いに芳尚はあのとか、えっととか、あいまいな言葉しか返せないでいた。


「ほら、とりあえずね! 体験でも―」

「すいませえん」


ぐいっと肩を引かれて、耳元に猫っ毛の薄茶色の髪の毛があたる。あ、と思った瞬間に芳尚は安堵をしていた。まるでヒーローが現れてくれた気分だった。


「怜奈」

「すいません先輩。こいつもう入るとこ決めてるんです」

「え? そうなの?」

「はい、バスケ部に」

「ええーやめときなよー。うちのバスケ部知らないの? すごい強豪だよ? 3年間頑張ったってベンチにすら入れないってうわさだよ」


だからこの高校に来た。心の中だけで芳尚が返事をしていると、にこりと気味の悪い笑顔を作った怜奈はこれまた気味の悪いお辞儀をして芳尚の新品ブレザーをひっぱりながらその場を離れた。


「怜奈、のびるって」

「さっさと体育館にいかないから、あんな根性なしのセンパイに絡まれんの。なにがベンチ外よ、くそったれ。あんたと一緒にすんなっつうの」


一緒にされたのは俺なんだけど、という言葉は飲み込んで芳尚はちらりと視線を落として怜奈のつむじをみた。ひとのために怒ったり泣いたりできるのは怜奈のいいところ、と向かいのじっちゃんが言っていたのを思い出す。でも、口の悪さはどうにかならないのかという言葉も一緒に。


「ねえ、俊は?」

「あのバカ、中途半端に頭いいからクラスの代表にされて仕事残ってんの。っても雑用だけどね」

「ああ」

「どうせ賢いんだったら首席で入学式の答辞くらいやれっつうの!」


そんな風に投げやりになるのは、怜奈がいちばんぎりぎりでこの橘高校に入学したからだろう。ようは、悔しいんだなと思いながらも芳尚はなにも口にしなかった。


「先に行こう」


うん、と首を縦に振っただけで芳尚は中学校のときに存在しなかった憧れの「体育館」に足をむけた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ