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ここはなにかが欠けている

世界の怪剣・奇剣

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/02

タイトル元ネタが分かる方、どれだけいるのやら

魔剣。


これは、呪われているとか、そういう禍々しいものではない。

何らかの魔術効果が付与されている、そうした剣を指す。

現代技術では再現困難な、失われた技術の賜物である。


その魔剣が、今ここ、冒険者組合の倉庫に並べてあった。


◆


発見は偶然である。

先日、もう「枯れた」と言われ調べつくされたと思われた遺跡にて、

なんと入口のすぐ近くから隠し部屋が発見されたのである。


隠し部屋が見つかった事で「まだ隠されているものがあるか?」と、

探索や発掘を得意とする大勢の冒険者が押し寄せたのだが、

そんな中見つかったのが、この場にあるいくつかの出土品。

うち魔剣は五本、小剣が三本に大剣が二本。

いずれも何らかの魔力を帯びている。


錆ひとつ浮いていない事も、遠巻きに見ている者達の期待感を上げた。

劣化していないなら、物凄い能力を秘めた魔剣なのではないか…?

いや、入口付近から出たんだぞ?案外しょぼい性能かもしれん。

倉庫には発見者の冒険者一行を含め、多数の弥次馬までが息を吞み、

これから行われる《解析》が使える魔術師の結果を待ち望んでいた。


◆


ようやく魔術師がやってきた。皆の視線が集まる。


実のところ《解析》を使える魔術師は数少ない。

使用する局面は多そうなのだが、見た目が派手な攻撃魔術ではなく、

しかも魔術構成式は複雑で難易度が飛び抜けて高い。

体内魔素の消費量も多いとあって、人気のない魔術だった。

上手く扱えば、大金を産み出す魔術ではあるのだが。


さて、一本目の小剣に魔術師が右手をかざす。左手は紙の上だ。

術が発動したらしい。かざされている紙に文字が転写されていく。

魔術師は長く息を吐いた。《解析》が終了したらしい。

横にいる組合職員が、転写された紙を読み上げる。


「剣の銘は、特になし。製作者は不明。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 行動速度上昇、攻撃威力上昇、対象への麻痺効果、不壊」


うおおお、と声をあげる弥次馬達。興奮する発見者達。

これだけの性能、売り払うならいくらになるのか見当もつかない。


魔素回復の水薬を飲み終えた魔術師が、次の小剣に取り掛かる。

途端に静まり返る倉庫。だが中の熱気は高まるばかり。

転写が終わり、組合職員がまたそれを読み上げる。


「剣の銘は、特になし。製作者は不明。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 感覚鋭敏化、所有者の自然回復促進、対象の行動予測、不壊」


先程よりも大きな歓声が倉庫内に響く。

これは無理もない。持ち主が戦闘時に圧倒的有利に立てる代物だ。


興奮が収まらぬ間に、魔術師は三本目の小剣を《解析》し始める。

ざわざわと落ち着かない弥次馬達。期待する発見者達。


「剣の銘は、特になし。製作者は不明。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 肩凝り改善、腰痛改善、眼精疲労改善、不壊」


…微妙な空気が漂う。辺りのざわめきも熱気も静まっている。

読み上げた職員も、なんとも言えない表情を作っていた。

いや、魔術師も職員も、誰も悪くはない。ないのだが。

そして小剣の性能も、有用なもののはずなのだが。

三本目でこんな効果が付いたものが出てくるとは。


少し落ち着いた倉庫内で、まあ仕事だしと割り切った魔術師。

水薬を飲み、次の対象物である、大剣の一本目へ手を伸ばす。


弥次馬達も「まあ、当たりはずれはあるよな」と無理矢理納得し、

改めて魔術師の《解析》が終わるのを静かに待つ。

職員が読み上げる。


「剣の銘は『ああ青春の一幕よ』。製作者は『愛の伝道師』。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 どもり改善、異性に対する魅力上昇、体臭抑制、不壊」


倉庫内は冷めきった。製作者なにもんだよ。

いや、解析されたからわかっているが、それでもなにもんだよ。

告白には有用だな、大剣背負って告白する奴がいるんなら。

確かにすごいよ。すごい効果だよ。うん。だけどさぁ。


そして銘よ。

魔剣「ああ青春の一幕よ」とか恥ずかしくて使えんわ。

武器としても使えるのが救いか?所持したいかは微妙だが。

何故魔剣で作ったのか教えておくれよ『愛の伝道師』。


うおっほん、と空ぜきをする魔術師。まだ一本残っている。

そうだ、まだあるのだ。もう娯楽としてみればなんでもいい。

固唾を飲んで、皆が結果を待つ。


「剣の銘は『キミのヒミツを暴きたい』。製作者は『愛の伝道師』。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 対象の弱点看破、透視効果、精力上昇、不壊」


また『愛の伝道師』だよ。

もう弥次馬達は誰も声をあげない。

魔術師も職員も、気まずさを隠さない。

発見者達も、虚無の表情で固まっている。


空気を読まず、職員は告げた。


「《解析》は以上となります。費用は契約通りお支払いください」


◆


発見者達は、長い間もめにもめた。

どれを売り払うのか。どれを手元に残すのか。


小剣二本は、高値が付くだろうが正直持っておきたい。

三本目は、武器として使えはするものの、何か割り切れない。


そして大剣二本は、普段使いどころがない。

しかし、売れるかどうか分からない。

買い手はいるかもしれないが。有用は有用だし。


最終的に、三本目の小剣は売ることになった。買い手も即決定した。

まあ、武器としてでなく必要な人は大勢いるだろう。あの効果なら。

《解析》料金はそれなりに高額だったが、売り上げで利益も出た。


二本の大剣は、冒険者組合に寄贈。貰う組合側も微妙な表情だった。

現在は組合長室の壁に掛けられているらしい。

「対象の弱点看破」は多分、耳たぶとかうなじとかがわかる効果。

二本の小剣も、大剣目線で見ていただくと意味が分かるかと。

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