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ここはなにかが欠けている

世界の怪剣・奇剣

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/02

タイトル元ネタが分かる方、どれだけいるのやら

魔剣。


これは、呪われているとか、そういう禍々しいものではない。

何らかの魔術効果が付与されている、そうした剣を指す。

現代技術では再現困難な、失われた技術の賜物である。


その魔剣が、今ここ、冒険者組合の倉庫に並べてあった。



発見は偶然である。

先日、もう「枯れた」と言われ調べつくされたと思われた遺跡にて、

なんと入口のすぐ近くから隠し部屋が発見されたのである。


隠し部屋が見つかった事で「まだ隠されているものがあるか?」と、

探索や発掘を得意とする大勢の冒険者が押し寄せたのだが、

そんな中見つかったのが、この場にあるいくつかの出土品。

うち魔剣は五本、小剣が三本に大剣が二本。

いずれも何らかの魔力を帯びている。


錆ひとつ浮いていない事も、遠巻きに見ている者達の期待感を上げた。

劣化していないなら、物凄い能力を秘めた魔剣なのではないか…?

いや、入口付近から出たんだぞ?案外しょぼい性能かもしれん。

倉庫には発見者の冒険者一行を含め、多数の弥次馬までが息を吞み、

これから行われる《解析》が使える魔術師の結果を待ち望んでいた。



ようやく魔術師がやってきた。皆の視線が集まる。


実のところ《解析》を使える魔術師は数少ない。

使用する局面は多そうなのだが、見た目が派手な攻撃魔術ではなく、

しかも魔術構成式は複雑で難易度が飛び抜けて高い。

体内魔素の消費量も多いとあって、人気のない魔術だった。

上手く扱えば、大金を産み出す魔術ではあるのだが。


さて、一本目の小剣に魔術師が右手をかざす。左手は紙の上だ。

術が発動したらしい。かざされている紙に文字が転写されていく。

魔術師は長く息を吐いた。《解析》が終了したらしい。

横にいる組合職員が、転写された紙を読み上げる。


「剣の銘は、特になし。製作者は不明。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 行動速度上昇、攻撃威力上昇、対象への麻痺効果、不壊」


うおおお、と声をあげる弥次馬達。興奮する発見者達。

これだけの性能、売り払うならいくらになるのか見当もつかない。


魔素回復の水薬を飲み終えた魔術師が、次の小剣に取り掛かる。

途端に静まり返る倉庫。だが中の熱気は高まるばかり。

転写が終わり、組合職員がまたそれを読み上げる。


「剣の銘は、特になし。製作者は不明。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 感覚鋭敏化、所有者の自然回復促進、対象の行動予測、不壊」


先程よりも大きな歓声が倉庫内に響く。

これは無理もない。持ち主が戦闘時に圧倒的有利に立てる代物だ。


興奮が収まらぬ間に、魔術師は三本目の小剣を《解析》し始める。

ざわざわと落ち着かない弥次馬達。期待する発見者達。


「剣の銘は、特になし。製作者は不明。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 肩凝り改善、腰痛改善、眼精疲労改善、不壊」


…微妙な空気が漂う。辺りのざわめきも熱気も静まっている。

読み上げた職員も、なんとも言えない表情を作っていた。

いや、魔術師も職員も、誰も悪くはない。ないのだが。

そして小剣の性能も、有用なもののはずなのだが。

三本目でこんな効果が付いたものが出てくるとは。


少し落ち着いた倉庫内で、まあ仕事だしと割り切った魔術師。

水薬を飲み、次の対象物である、大剣の一本目へ手を伸ばす。


弥次馬達も「まあ、当たりはずれはあるよな」と無理矢理納得し、

改めて魔術師の《解析》が終わるのを静かに待つ。

職員が読み上げる。


「剣の銘は『ああ青春の一幕よ』。製作者は『愛の伝道師』。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 どもり改善、異性に対する魅力上昇、体臭抑制、不壊」


倉庫内は冷めきった。製作者なにもんだよ。

いや、解析されたからわかっているが、それでもなにもんだよ。

告白には有用だな、大剣背負って告白する奴がいるんなら。

確かにすごいよ。すごい効果だよ。うん。だけどさぁ。


そして銘よ。

魔剣「ああ青春の一幕よ」とか恥ずかしくて使えんわ。

武器としても使えるのが救いか?所持したいかは微妙だが。

何故魔剣で作ったのか教えておくれよ『愛の伝道師』。


うおっほん、と空ぜきをする魔術師。まだ一本残っている。

そうだ、まだあるのだ。もう娯楽としてみればなんでもいい。

固唾を飲んで、皆が結果を待つ。


「剣の銘は『キミのヒミツを暴きたい』。製作者は『愛の伝道師』。

 刀身は、硬化魔鉄合金製。

 付与されている効果は、以下の通り。

 対象の弱点看破、透視効果、精力上昇、不壊」


また『愛の伝道師』だよ。

もう弥次馬達は誰も声をあげない。

魔術師も職員も、気まずさを隠さない。

発見者達も、虚無の表情で固まっている。


空気を読まず、職員は告げた。


「《解析》は以上となります。費用は契約通りお支払いください」



発見者達は、長い間もめにもめた。

どれを売り払うのか。どれを手元に残すのか。


小剣二本は、高値が付くだろうが正直持っておきたい。

三本目は、武器として使えはするものの、何か割り切れない。


そして大剣二本は、普段使いどころがない。

しかし、売れるかどうか分からない。

買い手はいるかもしれないが。有用は有用だし。


最終的に、三本目の小剣は売ることになった。買い手も即決定した。

まあ、武器としてでなく必要な人は大勢いるだろう。あの効果なら。

《解析》料金はそれなりに高額だったが、売り上げで利益も出た。


二本の大剣は、冒険者組合に寄贈。貰う組合側も微妙な表情だった。

現在は組合長室の壁に掛けられているらしい。

「対象の弱点看破」は多分、耳たぶとかうなじとかがわかる効果。

二本の小剣も、大剣目線で見ていただくと意味が分かるかと。

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