剣姫
――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。
精霊・ジンが宿っているランプを持って旅をしているアンは、プロ級の料理の腕前の木こりの娘。
今回は、ある城下町に来ていました。町では、この国のお姫様の噂などが飛び交ってました。
どうやら、この国のお姫様は生まれた時、城に仕えている魔女に「穏やかで、美しく、慎ましく、とても素敵な、優しい女性になるでしょう!」とまじないをかけてもらったそうです。
ですが、実際、姫は勝ち気で、剣好きで、運動系の娘になったそうです。
怒った王様は、その魔女を城から追い出したとのことでした。
「すごい姫だな。アンと気が合うんじゃないか?」
ジンはランプの中から声をかけてきます。
「私は、そんなお転婆じゃないよ」
「……まあ、基準は人それぞれだな」
「それより、私は森の中のお菓子の城の噂が興味あるな」
「お菓子の城!?」
アンは、どこで手に入れたのか、地域案内のパンフレットを出しました。
「近くの森の中にあるんだって。何でも、この国の隣国の王子が魔法で眠りにつかされてから、その城の者全員眠りについて、城がお菓子に変わっちゃったらしいの。……百年前に」
「百年!? 本当かよ?」
「だから、それを確かめに行こう! そんな壮大なお菓子、是非見たい!」
「実際にあったら、腐ってたりカビてないか? それに、蟻の餌食だろ」
「ジンは夢ないな」
アンはそう不服そうに言いながら、森へ向かうのでした。
森に入ったアンでしたが、すぐに迷ってしまいました。
「森ん中で迷うとか、どうしてくれるんだよ。もう日が暮れるぞ」
「まあまあ。人生色んな経験した方が良いし!」
「もう充分してる」
「落ち着いて、落ち着いて。良い解決策見つからないよ。まずは、何か腹ごしらえをしよう!」
「何でだよ!」
「お腹すいてると、イライラするでしょう?」
ジンは呆れましたが、食料になりそうなものを探し出したアンに何も言いませんでした。
アンは火を起こし、即席で雑草の雑炊を作りました。
「入ってるものが、その辺の雑草や野生キノコだとわかってるのに、すごく食欲を誘う匂いなのが恨めしい……」
「どんな食材でも、おいしく調理するっていうのが料理人でしょ! それに、ちゃんと食べれるもの選んだから」
アンが嬉しそうに笑っていると、後ろから足音がやってきました。
「こんな森の奥でおいしそうな匂いがすると思ったら……」
見ると、剣を携えた、たくましい娘が一人いました。
「女の子が森の中に一人でいるなんて危ないよ」
「迷ってしまったの。それに、一人じゃないよ。ジンもいるんだ」
娘はジンを見て首を傾げました。
「初めて見る生物だが、妖怪か何かか?」
「ジンはランプの精霊だよ」
「ほう……」
「そうそう。あと、あなたも女の子じゃない。一人で危ないでしょう?」
「私は強いから良いのだ。剣だって扱える」
「そういう点だったら、アンも、ちゃんと凶器持ってるよな」
「包丁を武器になんかしないから!」
アンはそう言ってジンを睨んでから、雑炊をよそい始めました。
「私はアン。もしよければ、一緒に食べない?」
「では、お言葉に甘えよう。私は、ローズだ。」
ローズと名乗る娘は腰を下ろします。ジンは呆れ顔になりました。
「城のお姫さんが、こんな草原に座って、雑草なんか食べてていいのかい?」
アンとローズは目を見開きました。
「お姫様!?」
「何でわかった!?」
「俺も育ち良いんでね。あんたの持つ雰囲気が王族のそれだったし、何よりその持っている剣が、そんじょそこらの娘が手に入れられるものじゃない。それに、町での王女の噂さ」
ジンの推察に、アンは感心するのでした。
「町でどんな噂が流れ出るか知らないけど………」
ローズは悔しそうな顔をしました。
「私は守られっぱなしは嫌だった。一応王族だし、一人娘だし、命が狙われることはある。だから、ある程度は自分の身は自分で守るために始めた剣術が楽しくて、気づいたらお転婆と言われるようになっていた」
アンとジンは黙って聞きます。
「よく父とケンカして、おしとやかになれ! って言われて反発したの。それで、縁談もいくつも駄目にした」
「その年で結婚?」
「政略的なもの。でも、私の相手は王になるもの。器がなければ、王にしてはいけない。だから、相手選びは慎重にならなきゃいけないの」
ローズは右手で拳を作りました。
「だから、せめて私より剣の腕が強い人って、父とまた口論になって……。それなら、自分で見つける! って家出してきたんだ。ついでに、各地の討伐や人助けを兼ねて」
ローズはそこまで話して、ため息をつきました。
「その口論風景想像つくな……」
「お姫様も色々なんだね。ストーカーカエル王子の時は両想いだったし、シーラのところは玉の輿だったし……」
「いや、あれらの方が特殊じゃないか?」
ジンはそれらの思い出したのか、呆れていました。
「何も持っていないのに、“姫”というだけで大切にされているから、それに報いるよう、民が安心して暮らせる王を見つけたい。……本当は、私が王となり、民を守りたいがな」
ローズは悲しそうでした。
「……そういえば、そなた達はなぜ森で迷っていたのだ?」
「あっ、私達、お菓子のお城を見にきたんです!」
「そこなら知っている。丁度、これから行くところだ。まず、その城の者達を助けたいと思っていたのだ」
「本当ですか!? じゃあ、連れて行って!」
「そなたは、なぜそこに?」
ノリノリなアンに、ローズは首を傾げました。
「私は、料理修行の旅をしているの。得意分野じゃないけど、お菓子とか…しかもそれがお城とか、ぜひ見ておきたかったの!」
「それで、森の中をさまよっていたのか。大した心意気だ!」
「ありがとう!」
「なあ、アン」
ジンが声をかけてきました。
「いつもなら、敬語使うのに、今回のお姫様には馴れ馴れしいんだな?」
「あっ、つい……」
「良い良い。その方が、私には嬉しいよ、アン」
「うん!……よろしくね、ローズ!」
二人は本当に、気が合うようでした。
ローズが連れてきたところには、本当にお菓子の城がありました。アンは感動します。
城に入ろうとするローズの前に、いきなり魔女が現れました。
「ローズ姫、お元気そうで……」
「そなたは、私の城に仕えていた魔女……」
「私は、元々この城の妃。そして、我が息子……王子を眠らせ、この城に誰も近づけさせないため、そなたの城で見張っていたのさ。この城の時は、誰にも動かせさせない!」
魔女は竜に化け、火を吹きました。ローズは軽い身のこなしで避けます。アンも慌てて逃げました。
次に竜は踏み潰そうと暴れます。ローズは剣に手をかけますが、抜きません。
「訳を! どうか訳を聞かせてくれないか!?」
「何!?」
竜は動きを止めました。
「あまり、人を傷つけたくないんだ」
「お城も焼けたり、壊れちゃいます!」
アンも言いました。
魔女は竜の姿から戻り、ポツポツと訳を話始めした。
「百年前、王子は不治の病になったのだ。でも、当時から研究されていた病で、未来には薬ができるかもしれない。だから、時を止めたのだ……」
「それなら、旅をするついでに、薬も探してきますよ。私の国は、あまり薬は発展しているところではありませんが、世界のどこかではもう完成しているかもしれない」
ローズの言葉に、魔女はその場で泣き崩れました。
「頼みます……。私は、この魔法のため、この地から離れられません……。お願いします」
「ああ。どうせ、家出ついでだし」
「すごい、ついでだな……」
ジンはボソリと言いました。
魔女は消え、アンとローズが身支度を整えます。
「じゃあ行こう、ローズ!」
「よろしくな、アン!」
「ちょっと待て!」
並んで歩き出した二人に、ジンがランプの中からツッコミを入れました。
「いつから、一緒に旅する流れになった!? 約束もしてないだろ!?」
「私は強いから役に立つぞ」
「友達も旅するのに、一緒に行かないわけないでしょう?」
二人の感性はズレていると、ジンは改めて思いました。
「私も連れてって下さい!」
突然の知らぬ声に見ると、いつのまにか後ろにシロネコが現れました。
「私はこの城の王子の心・アクアと申します。先ほどから拝見していて、あなたに惚れました。私も連れてって下さい!」
シロネコは、真っ直ぐローズを見つめます。
「えー……。私はどちらかと言うと、犬派なんだが……」
「そう言われても、勝手についてきます」
「そもそも、王子って眠っているのだろう?」
「はい、体は動きません。しかし、私も母である魔女の血を引いています。精神を切り離し、このシロネコの姿に変化しました。私も、人に頼ってばかりにはなりたくないのです!」
「良いよー。一緒に行こう!」
そう言ったのはアンでした。ジンはやれやれといった様子でしたが、反論しませんでした。ローズも微笑んでうなずきます。
「ありがとうございます!!」
こうして、アンの旅に、家出ついでに薬を探す姫・ローズと、眠ったままの王子の心が入ったシロネコ・アクアが同行することになりました。
4人は、次の国へ向かうのでした。




