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あなたが知ってるようで知らないおとぎ話

剣姫

作者: シャム吉
掲載日:2026/06/27

――これは、あなたが知っているようで知らないおとぎ話。


挿絵(By みてみん)


 精霊・ジンが宿っているランプを持って旅をしているアンは、プロ級の料理の腕前の木こりの娘。


 今回は、ある城下町に来ていました。町では、この国のお姫様の噂などが飛び交ってました。

 どうやら、この国のお姫様は生まれた時、城に仕えている魔女に「穏やかで、美しく、慎ましく、とても素敵な、優しい女性になるでしょう!」とまじないをかけてもらったそうです。

 ですが、実際、姫は勝ち気で、剣好きで、運動系の娘になったそうです。

 怒った王様は、その魔女を城から追い出したとのことでした。


「すごい姫だな。アンと気が合うんじゃないか?」


 ジンはランプの中から声をかけてきます。


「私は、そんなお転婆じゃないよ」


「……まあ、基準は人それぞれだな」


「それより、私は森の中のお菓子の城の噂が興味あるな」


「お菓子の城!?」


 アンは、どこで手に入れたのか、地域案内のパンフレットを出しました。


「近くの森の中にあるんだって。何でも、この国の隣国の王子が魔法で眠りにつかされてから、その城の者全員眠りについて、城がお菓子に変わっちゃったらしいの。……百年前に」


「百年!? 本当かよ?」


「だから、それを確かめに行こう! そんな壮大なお菓子、是非見たい!」


「実際にあったら、腐ってたりカビてないか? それに、蟻の餌食だろ」


「ジンは夢ないな」


 アンはそう不服そうに言いながら、森へ向かうのでした。



 森に入ったアンでしたが、すぐに迷ってしまいました。


「森ん中で迷うとか、どうしてくれるんだよ。もう日が暮れるぞ」


「まあまあ。人生色んな経験した方が良いし!」


「もう充分してる」


「落ち着いて、落ち着いて。良い解決策見つからないよ。まずは、何か腹ごしらえをしよう!」


「何でだよ!」


「お腹すいてると、イライラするでしょう?」


 ジンは呆れましたが、食料になりそうなものを探し出したアンに何も言いませんでした。

 アンは火を起こし、即席で雑草の雑炊を作りました。


「入ってるものが、その辺の雑草や野生キノコだとわかってるのに、すごく食欲を誘う匂いなのが恨めしい……」


「どんな食材でも、おいしく調理するっていうのが料理人でしょ! それに、ちゃんと食べれるもの選んだから」


 アンが嬉しそうに笑っていると、後ろから足音がやってきました。


「こんな森の奥でおいしそうな匂いがすると思ったら……」


 見ると、剣を携えた、たくましい娘が一人いました。


「女の子が森の中に一人でいるなんて危ないよ」


「迷ってしまったの。それに、一人じゃないよ。ジンもいるんだ」


 娘はジンを見て首を傾げました。


「初めて見る生物だが、妖怪か何かか?」


「ジンはランプの精霊だよ」


「ほう……」


「そうそう。あと、あなたも女の子じゃない。一人で危ないでしょう?」


「私は強いから良いのだ。剣だって扱える」


「そういう点だったら、アンも、ちゃんと凶器持ってるよな」


「包丁を武器になんかしないから!」


 アンはそう言ってジンを睨んでから、雑炊をよそい始めました。


「私はアン。もしよければ、一緒に食べない?」


「では、お言葉に甘えよう。私は、ローズだ。」


 ローズと名乗る娘は腰を下ろします。ジンは呆れ顔になりました。


「城のお姫さんが、こんな草原に座って、雑草なんか食べてていいのかい?」


 アンとローズは目を見開きました。


「お姫様!?」


「何でわかった!?」


「俺も育ち良いんでね。あんたの持つ雰囲気が王族のそれだったし、何よりその持っている剣が、そんじょそこらの娘が手に入れられるものじゃない。それに、町での王女の噂さ」


 ジンの推察に、アンは感心するのでした。


「町でどんな噂が流れ出るか知らないけど………」


 ローズは悔しそうな顔をしました。


「私は守られっぱなしは嫌だった。一応王族だし、一人娘だし、命が狙われることはある。だから、ある程度は自分の身は自分で守るために始めた剣術が楽しくて、気づいたらお転婆と言われるようになっていた」


 アンとジンは黙って聞きます。


「よく父とケンカして、おしとやかになれ! って言われて反発したの。それで、縁談もいくつも駄目にした」


「その年で結婚?」


「政略的なもの。でも、私の相手は王になるもの。器がなければ、王にしてはいけない。だから、相手選びは慎重にならなきゃいけないの」


 ローズは右手で拳を作りました。


「だから、せめて私より剣の腕が強い人って、父とまた口論になって……。それなら、自分で見つける! って家出してきたんだ。ついでに、各地の討伐や人助けを兼ねて」


 ローズはそこまで話して、ため息をつきました。


「その口論風景想像つくな……」


「お姫様も色々なんだね。ストーカーカエル王子の時は両想いだったし、シーラのところは玉の輿だったし……」


「いや、あれらの方が特殊じゃないか?」


 ジンはそれらの思い出したのか、呆れていました。


「何も持っていないのに、“姫”というだけで大切にされているから、それに報いるよう、民が安心して暮らせる王を見つけたい。……本当は、私が王となり、民を守りたいがな」


 ローズは悲しそうでした。


「……そういえば、そなた達はなぜ森で迷っていたのだ?」


「あっ、私達、お菓子のお城を見にきたんです!」


「そこなら知っている。丁度、これから行くところだ。まず、その城の者達を助けたいと思っていたのだ」


「本当ですか!? じゃあ、連れて行って!」


「そなたは、なぜそこに?」


 ノリノリなアンに、ローズは首を傾げました。


「私は、料理修行の旅をしているの。得意分野じゃないけど、お菓子とか…しかもそれがお城とか、ぜひ見ておきたかったの!」


「それで、森の中をさまよっていたのか。大した心意気だ!」


「ありがとう!」


「なあ、アン」


 ジンが声をかけてきました。


「いつもなら、敬語使うのに、今回のお姫様には馴れ馴れしいんだな?」


「あっ、つい……」


「良い良い。その方が、私には嬉しいよ、アン」


「うん!……よろしくね、ローズ!」


 二人は本当に、気が合うようでした。



 ローズが連れてきたところには、本当にお菓子の城がありました。アンは感動します。


 城に入ろうとするローズの前に、いきなり魔女が現れました。


「ローズ姫、お元気そうで……」


「そなたは、私の城に仕えていた魔女……」


「私は、元々この城の妃。そして、我が息子……王子を眠らせ、この城に誰も近づけさせないため、そなたの城で見張っていたのさ。この城の時は、誰にも動かせさせない!」


 魔女は竜に化け、火を吹きました。ローズは軽い身のこなしで避けます。アンも慌てて逃げました。

 次に竜は踏み潰そうと暴れます。ローズは剣に手をかけますが、抜きません。


「訳を! どうか訳を聞かせてくれないか!?」


「何!?」


 竜は動きを止めました。


「あまり、人を傷つけたくないんだ」


「お城も焼けたり、壊れちゃいます!」


 アンも言いました。

 魔女は竜の姿から戻り、ポツポツと訳を話始めした。


「百年前、王子は不治の病になったのだ。でも、当時から研究されていた病で、未来には薬ができるかもしれない。だから、時を止めたのだ……」


「それなら、旅をするついでに、薬も探してきますよ。私の国は、あまり薬は発展しているところではありませんが、世界のどこかではもう完成しているかもしれない」


 ローズの言葉に、魔女はその場で泣き崩れました。


「頼みます……。私は、この魔法のため、この地から離れられません……。お願いします」


「ああ。どうせ、家出ついでだし」


「すごい、ついでだな……」


 ジンはボソリと言いました。


 魔女は消え、アンとローズが身支度を整えます。


「じゃあ行こう、ローズ!」


「よろしくな、アン!」


「ちょっと待て!」


 並んで歩き出した二人に、ジンがランプの中からツッコミを入れました。


「いつから、一緒に旅する流れになった!? 約束もしてないだろ!?」


「私は強いから役に立つぞ」


「友達も旅するのに、一緒に行かないわけないでしょう?」


 二人の感性はズレていると、ジンは改めて思いました。


「私も連れてって下さい!」


 突然の知らぬ声に見ると、いつのまにか後ろにシロネコが現れました。


「私はこの城の王子の心・アクアと申します。先ほどから拝見していて、あなたに惚れました。私も連れてって下さい!」


 シロネコは、真っ直ぐローズを見つめます。


「えー……。私はどちらかと言うと、犬派なんだが……」


「そう言われても、勝手についてきます」


「そもそも、王子って眠っているのだろう?」


「はい、体は動きません。しかし、私も母である魔女の血を引いています。精神を切り離し、このシロネコの姿に変化しました。私も、人に頼ってばかりにはなりたくないのです!」


「良いよー。一緒に行こう!」


 そう言ったのはアンでした。ジンはやれやれといった様子でしたが、反論しませんでした。ローズも微笑んでうなずきます。


「ありがとうございます!!」


 こうして、アンの旅に、家出ついでに薬を探す姫・ローズと、眠ったままの王子の心が入ったシロネコ・アクアが同行することになりました。


 4人は、次の国へ向かうのでした。

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