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タコ。

一部過激表現がありますが、作者の心の叫びではないので、念のため。痛い、痛いやめてゴミこっち投げないで!

何とかHRに間に合い、適当に座る。と言っても、新学期なので俺たち以外は全員席を確保していて、他に空いている席がなかったからそこに座っただけだ。


黒板には、『明日席替えをするから、適当に座っておくこと』と書かれていた。当然の事ながら、教卓の真ん前の2つだった…。ま、一日くらいどうってことはないけどな~。


その後すぐに去年と同じ担任が来てHRもすぐ終わり、体育館に向かう。退屈な時間になることは明らかで、制服の下にこっそりとウォークマンとイヤホンをセットしておく。


別にこっそりしなくても、大音量で聞いたりしなければ平気という、結構大雑把なとこのある学校なので、気にはしないのだが。


いつもこういう時は眠りこけている俺なのだが、今日は違う。なぜなら、昨日新しいCDを買って、それにハマってしまったからだ。昨日のうちに録音しておいて正解だったぜ。


「行こ、有士」

「おー」


春休み中に行われた各部活の大会等の表彰が、壇上で行われている。

そんな中で俺はウォークマンを聞きながらボケ~としていた。

イヤホンからは、同じ曲がリピートで再生されている。


【変わらぬ時~を~、あなたと過ごす時間を~、大切~にし~たい~、世界が終わるまで~…繋いだ指~先~、ぬくもり~を感じ~て~、幸せ~を欲~し~がる~、私は~ワガ~ママ~かな~…】


歌詞も気に入ったが、曲が格好良くてたまらん。ちなみに俺は流行の音楽とかあまり聞かない。とゆーか嫌い。ポップスはまだいいのだが、ラップとかスカとか超嫌い。DJ系も超嫌い。あんなの音楽じゃない。あれ歌ってゆーか歌じゃねーし、しゃべってるだけだし、地声だし、歌詞が無意味にしか思えない。歌にしてもヘタクソすぎだし。叫ぶだけで脳がないものもある。あれでプロとかゆーなら誰でもプロになれるっちゅーの。それに、そういったジャンルはジャパニーズがやってはいけない。海外の、ジャパニーズよりもその分野で卓越したセンスを持つ人たちにのみ許されるものなのだ!誰にもできないことをやってこそ、プロと言えるハズだ。あれが認められているこの世界がおかしい。女性シンガーにおいても、レベルの格差が激しい。聴き入ることのできる人もいれば、聴くに堪えないほど愚かな歌声のもいる。レコード会社は一体何を考えてデビューさせているのだろう。見た目がいいからCDも売れるなんてゆーのなら、水商売やった方が十分儲かる。・・・辛口な自分が、ここにいる。


それはさておき…。

ほんといい曲だな、これ。

シビレルデスヨ…。


実はバラードバージョンも同時発売したのだが、金が回らなくて買えていない。

何で一枚のCDにしなかったのか不思議でならない。


とある音楽雑誌には、「全く別のモノとして聞くべきであろう」とか書いてあった。ま、ミュージシャンのこだわりなぞ知らんけど。


「ね、何聞いてるの?」


郁が小声で話しかけてきた。


「聞きたいのか?」

「うん…ひまなんですもにょろぺ~ん」

「語尾まじでちゃんとお願いします」


ほんと暇そうな顔してる。

別に貸してやっても構わないのだが…。



少しからかってみる

素直に貸す



って、今度は二択!?

まあ、あえて選ぶとするならば。


…少しからかってみるか。俺の小悪魔ちゃんがそう言った。


「いいぞ」

「ホント?ありがと」

「だだし、ほっぺにちゅう1回」

「へ?」

「しかも今だ」

「え…ちゅうって…きす?ほっぺに?…って、今?」

「そうだ」


みるみるうちに郁の顔が赤くなっていく。

頭から湯気でも出そうな勢いだ。

腕がゆらゆらしてる。

・・・おいおい、いくらなんでもこの反応はないだろう。


「おい、郁。冗談だ、真に受けるな」

「…へ?」

「ほれ、貸してやるから。しばらくしたら返せよな」


 ウォークマンを郁の制服のポケットに入れてやる。


「あ、ありがと」


やや複雑な顔をして、そう言った。

しょっちゅう貸してるから、郁も使い慣れているだろう。


正面に向き直るが、椅子には浅く座り腕を組んで下を向く。寝に入る体勢だ。聞き慣れた先生のナレーションは、『学校長挨拶、校長先生、お願いします』と言った。よし、いい感じで眠気誘発トークが始まるぞ。


一応郁の方を確認すると、既に曲に聞き入っていた。

再び正面を向き、郁のさっきの反応を思い出す。


茹でダコ…。

そんな単語がちょうど合ってる気がする。


それにしても、あんなに真っ赤になるなんてな、かわいい奴だ。

腕もゆらゆらさせて、愛らしいったらありゃしない。


ゆらゆら…。


そう言えば、朝も何度か転けそうになってたな…。しかも『犠式』なしで力を使うとはなんたる無謀さだろうか。


『犠式』…か。


思えば不思議だな…。


言葉の意味からしたら、『犠』牲を以て『式』を為す、と言ったところなんだろうけど良く分からん。いつからか使えるようになっていたこの力だけど、郁の父・・・憲吾さん(と呼べと本人に言われている)が言うには、郁と同じ頃に使えるようになっていたらしい。

初めは気づかず、無意識に使っていて倒れたことが多々あった。それで憲吾さんに話したら、『それは、神と天使が、強い想いを持った人だけに与えてくれる不思議な力なんだ。間違った使い方をすれば、有士君みたいに倒れたり、時には力自体を失ってしまう事もある。ひどい場合には死んでしまうこともあるんだ』と言った。

そして『犠式』を教えてもらい、それから倒れることはなくなったのだが…。


『犠式』を行わないと体にちょっとした異変が起こる、という理屈が分からない。憲吾さんの話を全て信じるとすれば、神や天使のやることだし、とても人間では計り知れない理由があるのかもしれない。


…それに、何で憲吾さんは『犠式』のことを知っていたんだろう、と考えると、やはり俺が憲吾さんに教わったように、誰かに『犠式』を教わったとしか考えられない。まあ、それが誰から教わったとかは別に気にもならないけど。


それにしても。


…強い想い、か…。


この力が使えるようになった原因は、分かっている。

…郁を、子供ながらに本気で守りたい、救いたいと思ったからだ。


そう、俺の顔の真横にいるこの郁を…って、真横!?


がたがたん!


一瞬どたついて、それでもすぐに状況を確認する。

人はまばらに散っている。もう始業式終わったのか。早…。


「ねー?」

「?何だ、郁」

「半目開けたまま思考に耽るの、有士の悪い癖だよ。何考えてたのかは知らないけどさぁ」

「ジャイアントお世話」

「校長先生の話が短くて良かったよ。あれ以上長かったら、有士、絶対深みにはまってた。そんな顔してたよ」

「そーか。気にせんけどな。しかしあの校長の話が短いとはね…いつも30分以上はくだらなかったのにな」

「…もしかして有士、校長先生が替わったの、知らないの…?」

「何だ、校長替わったのか。今度の校長は生徒に人気が出るな」

「え?何で?」

「話の短い校長は生徒にとって楽でいい。教師たちにとってもな。それだけ」

「全くもう…はい、これ。ありがとね」


郁が、俺にウォークマン手渡す。


「ああ、どうだった?曲は」


受け取り、感想を聞く。

が、いい加減体育館にいる訳にもいかないので、さっさと教室に戻るべく歩き始めた。


「有士、私が持ってないほう買ったんだね。こっちも結構いいね」

「お前もしかして、バラードの方持ってんのか?」

「持ってるよー」


教室に向かう途中で、そう言った。


「んじゃあ帰りに取り行くわ。貸してくれ」

「別にいいけど…ニヤソ」


一瞬物騒な顔をした。


「や、別に今日じゃなくても後でいいんだ」


さっきの顔は何か企んでいる。そんな気がしてならない。


「いいよ」

「ホントか?」

「うん…ほっぺにちゅう1回で」


今度は俺が赤くなる番だった。

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