変わり始めること
翌日。
郁は吹奏楽部の練習で先に学校へ行っていた。
圭君は調子が良くないとかで、休むか遅刻してくると言っていた。
そんなわけで、今日は途中で会った紫遥と登校してるのだが…。
「どうした紫遥。いつもの元気がないように見えるのは俺の気のせいか?」
「ん、ちょっと夢見が悪くて…」
「その割に寝不足には見えないが…?」
「夢見が悪かっただけで、何も寝てないとは行ってないでしょ」
「そりゃそうだ」
「16時間は寝てたわ」
寝過ぎだっつーの。
「お前朝は早いんじゃなかったか?」
「毎朝7時起き」
…普通じゃないのか?
「ってゆーか、それじゃ寝たの午後三時ぐらいか?」
「多分…。気付いたら朝だった」
「はぁ…ま、夢なぞそんな気にするモンじゃないぞ。今を生きろ」
「ん、そうだね」
それから何故か無言のまま、学校へ着いた…。
昼休み。学食戦争へいざ参る。
学食の同志、紫遥の姿が見あたらないが、先に行ってるだろう。席奪い取ってやる。
チャイムと同時に教室を出るために扉をがらっと開けた。
「あら、有士様。どうなされたのですか?」
「…何でいるんすか」
「あー沙紀さんだ。どったの?」
「はい、仕事に余裕ができましたので、お弁当を作って参りました」
「それはありがたいですけど、別に扉の真ん前にいなくてもいいじゃないですか」
「偶然ですわ」
さいでっか…。
「でも、家は平気?」
「はい。しかし、侍従が一人増えて私と仕事を分担してやることになったんです。私は厨房・お二人の御世話をメインに、新しい方は清掃や買い出しがメインになりました。当然、郁様と有士様のお世話もさせますよ」
「と言うことは、俺たちにもう一人お付きのメイドができた…ってことか」
「そっか、有士の世話も増えたから、沙紀さん一人じゃ大変だもんね」
「はい。ちなみに旦那様が面談で一発でOKを出されました」
って、面談は憲吾さん自らやるんかいな。ま、家主だし当然と言えば当然なのだろうけど。
「ってことは、父さんの知ってる人なんだ。一発OKなんて滅多に出さないのに」
「はい。郁様と有士様もご存じの方ですよ」
「へぇ、誰?」
「それは帰宅してからのお楽しみです♪」
弁当箱を2つ俺に手渡して、颯爽と廊下の向こうへ消えていった。
「ほんじゃ、食べよっか」
「お前は気にならないのか?新しいメイドのこと」
「別にー?どうせ帰れば会えるんだし。それより今はお昼ご飯よ!私のお腹の中のランゲルハンヌ島の小人さんたちが救いを求めているの」
「一体どこの小人さんだ…」
「ここ!」
びっと、お腹の辺りを指さした。
「聞いた俺が悪かった…ほれ」
片方の弁当箱を渡す。
早速開けると、美味そうな彩りの弁当が現れた。
「いたどぅあきましゅ~」
「…いただきます」
不明な言葉に流されることもなく、昼休みは過ぎていった…。
「有士、帰ろ」
「応」
授業も滞りなく寝てやり過ごし、いつの間にやら放課後になっていた。
生徒玄関で靴を履き替えると、特に用事もないので二人して咲倉紀の屋敷へ帰る。
「でも、誰なんだろうね、新しいメイドさんって」
「帰ればすぐに会える。つーか郁が昼飯優先してろくに話題にならなかったろーに」
「う~、何か気になって仕方ない~」
「ちょっとぐらい辛抱しろ」
「やー」
「やー、じゃなくて…」
なんでこう突発的になるかなぁ…。
「ごめん有、私先に行ってるね」
「ああ?」
「ラシエルに捧ぐ…ケテル、ホドにより、そなたを使役せん…」
ぶわあっと風が舞い、郁の身体は中空高速であっという間に見えなくなった。
あ、パンツ…とおもったら中身は短パン装備だった。
ラシエル…竜巻とサイクロンの天使。
よく使いこなせるな。まぁ、アフを使いこなせるくらいだから朝飯前って感じか。
つーか、まーた不必要に力使って…。
ま、俺はゆっくり行こうかね…。