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悲痛な叫び・紫遥

「おっじゃましましたぁ~」


咲倉紀の屋敷を出て、今日も繁華街方面へと向かう。


家に帰っても特にする事ないけど、昨日の遊び疲れがまだ残ってるからとりあえず晩ご飯の材料買って昼寝でもしよっかな。


…そうえいば、あの二人大丈夫かなぁ。


ま、私には困ったときに相談に乗ってあげる事ぐらいしかできないから、温かく見守っていましょうかねぇ…。


でも、面倒な事相談されたらどうしよっかな~…。



買い物を済ませ、買ってきた物を冷蔵庫や棚に片付け、ベッドに寝転がる。


やっぱり、一人は寂しいかな…。


気付くと涙が流れていた。


多分、この静けさがそう思わせたのだろう。


咲倉紀の家は暖かくて、寂しいと言う事を忘れさせてくれて、凄く居心地がいい。


だけど、それは帰ってきたときに感じる孤独感を大きくするから、郁のところへ遊びに行くことはあまりしないようにしていたんだけど…。

どうも、あの二人と絡んでると面白いから、遊びに行っちゃうんだよね。



今まで家族との関わりがほとんど無かった有士にしてみれば、幸せな事だと思う。


いつだったか、私は、有士の寂しさと私の寂しさを、二人で上手い事無くしていけたらいいのにと考えている内に、有士の事を好きになっていた。別れはしたけど、今でも有士の事が好きなことに変わりはない。


相手が郁だから私も納得できたし、いいけど。


むしろ、有士に少し嫉妬を感じてしまう。


私だって、許されるなら咲倉紀の家にいさせてもらいたい。


でも私は、あの暖かい咲倉紀の家に居る事は、できないんだから…。


昨日の疲れもある、今も少し泣き疲れた。少し、寝よう…。



----------------------------------------



 明日は、お母さんが病院に入院する日。

 なぜなら、もうちょっとで妹が産まれるからだ。

 

お母さんと離れるのは寂しいけど、楽しみにしていた妹が生まれるんだから、ワガママ言えない。

 大好きなお母さんのお腹の中には、私の妹がいる。


 だから、私は妹の事も大好きになれる。

 お母さんは、今日も大きなお腹を触って、にっこりとしている。


 そんなお母さんの顔が、私は凄く好きだった。

 だから、私もつられて笑っている。


 それに気付いたお母さんが、私を見てまた笑ってくれる。

 まだ子供だから分からないけど…幸せって、こういうことなのかなぁ?


 でも、お母さんの表情が、なんだか変わってきた。

 汗を拭いてあげようとしたら、急に苦しそうになって息をはあはあしている。


 おかしいと思って、部屋で仕事をしていたお父さんを呼んできた。

 お父さんは、妹が生まれそうだから、紫遥も一緒に病院に行くよ、と言った。


 私は隣に住んでるお兄さんを呼んできて、お母さんを車に運ぶのを手伝ってもらった。

 救急車を呼ぶより連れて行った方が早いとお父さんが言ってて、お兄さんも同じ事を言ってた。


 車の中で、私はお母さんの顔を拭いてあげている。

 病院はそれほど遠くはなく、しかも近道があって、そこはあまり車が通らない道だから早く着くって、運転しながらお父さんは言っていた。


 はやくしないと、お母さんがすごく辛そうだよ!

 そう言いながら、お父さんに早く病院に行って、と急かしていた。


 いつもよりすごく早いスピードで、道を走っている。

 危ないなあとは思ったけど、お母さんも危ないってお父さんが言ってるから、そんなことは言ってられないと思った。


 お母さんが少し落ち着いて、私は前を向いた。

 ちょっと先の信号は、青から黄色に変わるところだった。


 お母さんの方を見ると、また苦しそうにはあはあ言っている。

 もう一度汗を拭いて上げようとすると、車が急に止まった。


 がくん、となった。お母さんは辛そうに、さっきと同じようにはあはあ言っている。

 どうしたの、と聞くと、もうちょっとで子供をはねそうになったって言った。


 はねそうになったってことは、はねてないってことだから、よかった。

 ちらっと外を見てみると、女の子がぺたん、としりもちを付いている。


 ほ、よかった…見た感じではケガしてない。

 大丈夫?ごめんね、とお父さんはその子に言い、それからもう一度車を発進させて、何とか病院に着いた。


 着いたときも、お母さんは相変わらずだった。

 それから二人は病室に入っていったけど、私はすることがなくて病院の中を歩いていた。


 こんなに広いところは学校以外では初めてだから、ちょっと不安だった。

 1時間ぐらい歩いていたら、少し疲れた。空いている椅子があったので。そこに座って休んでいた。


 そしたら、お医者さんたちが何人か、遠くの方から走ってきた。

 口々に、何かを話しながら、急いでいる様子。


 側を通ったときに担架の上に乗っていたのは、私と同じくらいの女の子だった。

 あれ?あの子さっきの…?


 ばたばたと通り過ぎた後、お父さんが私を捜しに来て、妹が生まれた、と言った。

 でも、お母さんも妹も疲れてるから、今日は帰ろうと言った。


 私はうなずき、お父さんと一緒に帰った。



次の日、私が学校に行くと、隣のクラスの女の子が事故にあったって聞いた。ケガはない、と聞いたので、昨日お父さんがぶつけちゃいそうになった子だろう。名前を先生に聞いたら、私も知っている子だった。

 

学校が終わって、お父さんと一緒にお母さんと妹のお見舞いに行った。行く途中の道で、昨日の信号で車が止まった。


 お父さんにその子のことを言うと、先にその子のお見舞いに行こう、お父さんはごめんなさいを言いにね、と言った。私も、それがいいと思った。



『咲倉紀 郁』


 先生から聞いた名前の通りだったので、ノックをして病室に入った。


 白い病室に、色々なお花がとってもきれい。

 あとでお父さんに頼んで、お母さんと妹のために同じようなお花を買ってもらおう。


 部屋には、ベッドの上に昨日の女の子、その近くには男の人と女の人がいた。多分、女の子の両親なんだろう。

 私は、お母さんの方に、持っていた果物のバスケットを渡した。


 その人は、嬉しそうにありがとうと言って頭を撫でてくれた。

 …気持ちいい。お母さんにも撫でてもらおうかな。それとも、私がお母さんを撫でてあげようかな。うん、そうしよう!


 お父さんは、その二人に昨日のことを説明していた。車の中で、お父さんは、怒られちゃうかもねって言ってたけど、怒られているようには見えなかった。

 男の人は、この子も、生まれてきた子も無事なら、それでいいです、少し間違えば二人とも死んでしまっていたのですから、と言っていた。


 記憶喪失、と言う言葉も聞こえた。どうやら、あのときのショックで記憶が飛んでいってしまったようです、と女の人は言ってた。

 …お父さんは怒られずに済んだみたい。


 用事が済んだので、今度はお母さんと妹のお見舞いへと行くことにした。

 妹には遠目から会えたけど、お母さんには会えないって言われた。


 どうして?ってお父さんに聞いたら、





 

 今日の朝、私が学校に行ってる間に死んでしまったって言った。

  

 妹を産むときに、すごくがんばりすぎたって。紫遥があんなにも楽しみにしていた妹だから、どうしても産みたかったって、お母さん、最期にお父さんに言ったらしい。


 …ばかだよ、お母さん!!


 わたしは、病院内にもかかわらず、大声で叫んでいた。


 私は妹も楽しみにしていたけど、お母さんのことがすごくすごく好きなのに。


 私は、妹よりもお母さんがいた方がいいのに!!


 なんで、なんでなの!!??


 お母さんを死なせた妹なんて、好きになれるわけないよ!!!!


 全部、お父さんが悪いんだ!あんなに危ない運転して、お母さんずっと辛かったのに!


 それで急に止まるから、お母さん余計に苦しそうだった!


 あの郁って女の子が記憶をなくしたの、お父さんのせいなのに!!!!


 だったら、お父さんがあの子みたいになればいいのに!!!!


 なんで私までこんな嫌な目に遭うの!!??




 ただただ、悲しくて。感情のままに、叫んでいた。


 …もう最後の方は何を言ってるのかわからなくなっていた。


 誰に言っているのかすら。


 お父さんにしがみつきながら、ただお母さん、お母さん、と泣いていた。


 お父さんも、悲しそうに泣いていた。


 気付いた。


 お父さんも、悲しくないわけがない。お母さんのこと大好きだったのに。


 お母さんが大好きだから、結婚して、一緒にいたのに。


 今度は、お父さんを傷つけてしまったことが悲しくて、思い切り泣いた。


 お父さんごめんなさい、ごめんなさいと。




 次の日、お父さんは言った。


 紫遥が妹のこと好きになれないなら、親戚の人に預かってもらうこともできるんだぞって。


 私は、考えた。


 お母さんは、私のために妹を産んでくれたんだから…、私がお母さんの代わりになるって、決めた。


 そうお父さんに言ったら、またお父さんは泣き出した。ごめんな、ありがとうって…。

 

 それにつられて、私もまた泣いていた…。




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