大人が綺麗事を言う理由
「大人が綺麗事を言う理由…ですか?」
「ああ、そうだ。今度のコラムのテーマにしようと思ってな。」
「え、でも、コラムは普段、山下の担当なんじゃ…。」
「あぁ、今回はちょっとな、お前に頼んでみたいと思ったんだよ。」
「はぁ。」
「やってくれるか?」
「…上手く出来るかはわかりませんが、とりあえずやってみます。」
「まあ。しょぼかったら別のものに差し替えるから。気負わずやってよ。」
「はい…。」
(………。)
「あ、あの!」
「なんだ。」
「その、『綺麗事』って言っても、色々ありますよね?その、大人が子供に言うものもあれば、大人同士で言うものもあれば、もっと言うと…政治家の綺麗事とか…。本当、色々…。」
「ククッ。そうだな。」
「じゃあ…、『どの』綺麗事について書けば…。」
「はははっ。それはお前に任せるよ。どれか1つに絞るもよし。まとめるもよし。…それ以外でも。」
「わかりました…。」
「楽しみにしてるから。」
#####
「はい、もしもし。斎藤です。」
「あぁ、父さん。僕だよ、修。珍しいね、父さんが電話出るって。」
「なんや、修か。母ちゃんに用事か?今ぁ、風呂入っとるわ。」
「そうなんだ。いや、別に父さんでもいいんだけど、ちょっとさ、聞きたいことがあって。」
「何や、改まって。まさか、美咲さんと別れるちゅー話じゃなかろうな。」
「いやいや、全然、そんな事ないし。うん、仲良くやってるよ。うん、子供達も元気に行ってる。大丈夫だって。でさ、そうじゃなくって、今さ、会社でアンケートみたいなものをやっててさ、色んな人に意見を聞いてるんだよ。」
「ああ、そういう事か。で、何や?何が聞きたいんや?」
「あのさ、えーと、父さんにとって、僕ら大人達が綺麗事を言う理由って、何だと思う?」
「何や、本音と建前の話か。」
「似てるけど、ちょっと違う。そうじゃなくって、なんだろな、例えば、『みんなで力を合わせれば何でも出来る』とか、『努力は必ず報われる』とかみたいな、大人の理想みたいなものさ。それを、僕達はなぜ言うのか、って言う…。」
「なんや、それ。本音と建前と何が違うんや。まぁた、小難しい事考えよって。」
「僕が考えてるんじゃなくて、会社の課題で…。」
「はぁ、そんなん、教育や、教育!日本は単一民族国家やからな、同じ思想が大切なんや。皆で同じ場所に向かって頑張らなあかん!だから同じ理念みたいなもんが必要なんや。」
「あぁ、なるほどね。」
「どうや、良いこと言ったやろ。」
「あぁ…、うん、ありがとう。あの、よかったらさ、母さんにも聞いてさ、もし、違う意見が出たら、教えてよ。」
「なんやと。俺の意見は正しくないってか?」
「いや、そんな事言ってないって。色んな意見が必要なだけだから。それだけだよ。僕も、父さんの意見はもっともだと思うよ。」
「そやろ。なら、それで出したらいいやろ。」
「…うん。そうだね。」
「ほんじゃあ、切るぞ〜。」
「うん。」
(はぁ…。)
#####
「あれっ?修?」
「え?」
「やっぱり修じゃん!オレ、ほら、中学校の時同じクラスだった。」
「え?もしかして、はやっち?」
「そうそう!はやっち!懐かし〜!昔そう呼ばれてたなぁ。」
「はやっち、スーツ着てるって事は、この辺に勤めてるの?」
「あぁ、そう。そこの斜め向かいの◯◯証券ってとこ。」
「すごいな。大企業じゃん!」
「まぁ、就活頑張ったからな〜。でも、入ってからが勝負よ!今もお得意様の所へ行って、ご機嫌取りだよ。」
「そっか。大企業も色々あるんだ。大変だね…。」
「まぁな。あ、そうだ!折角こうやって再開したんだ。二人で緊急同窓会しようぜ。」
「ははっ。緊急ってなんだよ。」
「いいじゃん。あとさ、大山のまっちゃんって覚えてる?」
「あぁ!あの身体のデカかった…。確か柔道部の。」
「そうそう!あのまっちゃんさ、料理人になっててさ、この近くで居酒屋開いてんのよ。今夜、そこ行かね?修連れて行ったら、きっとびっくりするぜ。」
「ははっ。楽しみだな。じゃあ、また。仕事、頑張って。」
「おう!」
「らっしゃいませ〜!!!」
「よう、まっちゃん!また飲みに来たぜ。」
「おう、隼人!いつもありがとな!ゆっくりしてけよ。」
「ふふふ。今日は、特別客もいるぜ!」
「特別客?」
「…ども。」
「…………え?あーーーーー!!!もしかして、修??だよな???」
「うん、そう。久しぶり。お店やってるって、はやっちに聞いて。庶民的でいい雰囲気のお店だね。おじゃまします。」
「なんだよ!かしこまって。美味いもんいっぱいあるから、今日は楽しんでってよ。」
「うん、ありがとう。」
「まっちゃんもはやっちも、すごい立派になってるな。すごいや。」
「なんだよ、修だって、出版社だろ?オレ、書き物なんて昔から苦手で、知ってるだろ?オレの悲惨な読書感想文。」
「ははっ。懐かしいな。でも読書感想文とライターは違うよ。」
「いや、オレにとっては、どっちも一緒だね。修は才能活かしててすごいよ。」
「や…でも今はちょっと、行き詰まってるかな…。」
「なんだよ〜!そんな時は酒だよ!ここ美味い日本酒あるんだぜ。飲もうぜ!お〜い、すみませ〜ん!」
「本当だ。あっさりして飲みやすい。美味しい。」
「だろ?料理も美味いぜ。おすすめはコレとコレと…。」
「なんか、不思議な気分だな。大人になってこうやってはやっちとお酒飲むなんて。しかも、まっちゃんの店でって。」
「なぁ〜。大人になったよな、オレら。」
「もう37かぁ。早いね。」
「昔はさぁ〜、『子供は夢を持て〜!!夢を叶える努力をしよう!!』みたいな感じにセンコーとか言ってたけどさぁ、大人になるとさ、それだけじゃどうしようも無い事も出てくるって、わかってくるよなぁ。」
「まぁ、みんな自分の人生を歩んで行くよね。」
「そう。同じ努力をしてもさ、上手くいく奴は上手くいく。だけど…どうしても競争社会だからさ。こぼれる奴も出てくるさ。妬み僻みもあるし。でも、オレは負けず嫌いだから、ぜってー同期には負けたくないけど。」
「なんで先生達は、そろって夢を見させたがったんだろうね。現実は教えずに、夢ばかり。」
「なー!オレは、子供のうちから現実を教える方がいいと思うぜ。「世の中嫌なこともある」なんて、抽象的な言い方だけで終わらすんじゃなくてさ、もっと具体的な事例を上げてさ、それに対して、どう解決していくのがいいかっていう。そう、サバイバル能力を今の子供は育てた方が良い!」
「なるほど、サバイバル能力か。そうだよね。」
「だろー!わかるだろ?オレの言いたいこと!綺麗事なんかじゃ世の中やってけねーよ!」
「………。」
#####
「ただいま〜。」
「おかえり!緊急同期会、楽しかった〜?」
「あぁ、うん、なんか、みんな変わってないなぁって。や、立場とか仕事とかはもちろん変わってるんだけど…。」
「ふふ。なんだか、充実した飲み会だったみたいね。良かった。」
「うん…。あの、ところでさ…」
「ん?」
「ちょっと変な事聞いて良い?」
「変な事?良いけど?なに?」
「それが…。」
「え?なんで大人が綺麗事を言うかって?」
「そう。」
「何?それ?子供に対してって事?」
「まぁ、人によって色々だとは思うけど、何か思いつく事ある?」
「ん〜…、そうねぇ…。」
「や、そんな深刻に捉えなくてもいいんだけど、仕事でちょっと意見を集めてて。もし、何か新しい意見が聞けたらなぁ、と思って。」
「あー…。」
(………。)
「…懺…悔…とか?」
「懺悔?」
「そう。過去の自分に対しての懺悔よ。」
「どういう事だ?」
「えぇっと、なんだろ、ほら、誰しも過去にはさ、誰かを傷つけたり、バカにしたりとか多少なりともあるじゃない?」
「うん。」
「子供の時なんて、特にね。周りの影響も考えず、ポンポン言っちゃったり、しちゃったり。」
「うん。」
「それがさ、大人になるにつれて、その事実が効いてくるのよ。例えば、30歳で結婚してなかったら、やばくない?なんて若い頃に言ってたとするじゃない。」
「うん。」
「そうすると、実際自分が30に近づくにつれて、昔の言葉がどんどん自分に刺さってくるのよ。」
「わかるよ。」
「それと同じで、昔、子供の時や若い頃に笑って言ってた何気ない言葉達が、実際、自分が子供を持ってから、刺さってきたりするのよ。」
「……。」
「あの子、なんか暗いよね〜。とか、なんかおしゃべりでムカつくとか、さ。」
「あぁ…。」
「繊細な子供を産んで初めて気づくのよ。あぁ、あの子は暗かったんじゃなくて、学校っていう集団の中に必死に溶け込もうと、戦っていたんだって。それをただ『暗いね』で片付けてた自分は、なんて愚かな子供だったんだろう、って思うわけ。」
「…。」
「だから、私が自分の子供達に綺麗事を言うのは、自分の懺悔であり、未来の子供達に私と同じ様な想いをしてもらいたくなくて、やってるのよ。」
「そうか…。」
「でもさ、私はただ綺麗事を言えばそれでいい、とは思ってないわよ。綺麗事の裏にある理由も、ちゃんと子供達に伝えてる。なぜこの綺麗事が必要なのか、って。今は理解は出来ないかもしれないけれど、伝え続けるわよ。人には色んな背景がある、って事。」
「……すごいな、君は。」
「ふふ。見直した?」
「あぁ。俺も、もっと子供達に向き合わなきゃな…。」
「仕事頑張ってもらってるんだから、パパは遊び担当で良いわよ。あと、美味しいご飯に、家族を連れて行ってもらえれば。」
「ははっ。そうか。それなら出来るな。」
「ふふっ。」
「で、たまにこうやって、夫婦で会話出来たら嬉しい。」
「わかった。ありがとう。」
「いいえ〜。ちょっとでも参考になったかしら?」
「あぁ。すごくなったよ。」
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「あの、五十嵐さん。」
「ん?お前か。なんだ?」
「以前おっしゃっていたコラムの件なんですが。」
「おう、出来たのか?」
「いえ、あの、まだなんですけれど、ちょっと相談があって。」
「なんだよ。」
「その…コラムを、ちょっと連載にして頂く事は、可能でしょうか?」
「連載?どれくらいだよ?」
「…。最低でも5回くらいは…。」
「ふ、はははっ。すごい自信だな。なんだよ、良いもんが書けそうなのかよ?」
「あの…はいっ。」
「ふーん。ま、とりあえず初稿寄こせよ。」
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




