鴻鵠の番 2 ~夢見る君は運命に気づかない~
※※ご注意※※
本作は【鴻鵠の番~この出会いは絶望でしかなかった~】の続編ではありません。
【鴻鵠の番】をベースにした、全く違うお話です。
あらかじめご了承下さい。
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「アーテルッ 私、運命の出会いをしたわっ 『鴻鵠の番』を見つけたの!」
ふわふわとした栗色のやわらかな髪に、アメジストの瞳をキラキラさせながら話し出すマリディ。
皓月のような瞳をすっ…とマリディに向けるアーテル。
彼女の言葉に、「またか…」と言いながら黒髪をかき上げ、ため息を付いている。
マリディ・ポルカ伯爵令嬢とアーテル・ノワイユ伯爵令息は初等学院からの付き合いで幼なじみだ。
一人っ子だから、何かとアーテルを頼りにしているマリディ。
そんな彼女が突然ノワイユ伯爵家に来るのは日常茶飯事。
二人の関係を使用人たちも心得ていた。
だからいつものようにアーテルの部屋に来て、『鴻鵠の番』について語っている。
「またかって何よぅ!」
マリディが頬を膨らませ不機嫌になる。
「だってそうだろ? 『私、運命の出会いをしたわっ』って言って…今回で3度目だぜ? 今流行りの恋愛小説に影響を受けまくっているのは見え見えなんだよっ」
「ち、違うもんっ そんなんじゃないわっ 金髪の巻き毛に碧眼、笑うと少し目じりが下がるのが可愛くて…彼を見た瞬間、電流が走ったような衝撃を受けたのよっ これって番の本能が感じているってことよね? ね!?」
「……」
アーテルはジト目でマリディを見つめる。
『鴻鵠の番』
遥か昔このオルーロ帝国は、獣人族が建国したと言われている。
動物の習性からか獣人同士には、運命の相手が存在する。
それが『鴻鵠の番』
鴻鵠とは白鳥の別名で、白鳥は一夫一婦制の鳥。
相手が死ぬまで添い遂げる習性がある。
『鴻鵠の番』はそこからつけられた名称だ。
そして、これは獣人族にのみ現れる現象。
だがその後、外地から人族がオルーロ帝国に流れるようになり獣人族と共存し始めると、オルーロ帝国は人族と獣人族との異種族婚を認可した。
異種族婚が増えて行った事により獣人族の血脈が薄まっていき、『鴻鵠の番』という現象も現れなくなっていった。
だから『番』と出会う事は、天文学的な確率であり、出会えば家門繁栄を齎す瑞兆とも言われている――――――…が、現在はただの伝承として語り継がれていた。
だが最近、若い令嬢の間でその『鴻鵠の番』を題材にした恋愛小説が大ヒットしている。マリディもご多分に漏れず、ハマりにハマった。
さらに自分はその遠い祖先である獣人族の血を引いていると思い込み、つい先日『番』と出会ったと言い出した。
人気小説を読んでから、今回で3度目。
先日デビュタントを済ませたばかりなのに、いつまでも夢見がちなマリディ。
だから、アーテルはまともに取り合おうとしなかった。
「…まず、一人目は男爵令息。『出会った瞬間電流が流れるような衝撃を受けたの。これって番に会ったという証拠よね?』 そう言って男爵令息と交流を持ち始めたけれど、女癖が悪くてタコ股状態だったじゃないか」
「タコ股??」
「複数の女と関係を持っていたって事。関係持つ前で良かったな」
「わ、私はそんな簡単な女じゃないわよっ く、く、口付けだってしたことないんだから!」
「わかってるよ、匂いで分かる」
「に、匂いって!? 何、変態みたいなこと言ってんのよっ でも! 会う度に迫られて…段々違和感を覚えて始めていたから…婚約話になる前に本性が知れて良かったわっ そもそも『鴻鵠の番』じゃなかっただけよ!」
「ま、それで複数の女を妊娠させ、賠償だの養育費だの問題になったよな? 父親はそんな令息を廃嫡したとか。次に…」
アーテルは指を二本出し、話を続ける。
「二人目は子爵令息。例によって『出会った瞬間電流が~』とか言ってたけれど、金遣いが荒く、ギャンブルにつぎ込んでいたんだろ? マリディもあいつに、金貸してくれ~っていくらか頼まれていたんじゃないの?」
「た、確かに最初は少額だったから渡してしまっていたけど…会う度にお金を貸して欲しいって言われて…段々違和感を覚え始めていたから…婚約話になる前に本性が知れて良かったわ。そもそも『鴻鵠の番』じゃなかっただけよ!!」
マリディは同じ言い訳を繰り返す。
「で、結局貸した金は返ってこなかったんだろ? 騙されたなんて親に話せなかったんだよな?」
「しょ、少額で2回だけだったから…いいのよっ お小遣い程度ですんだし…っ」
痛いところ疲れたようで、マリディは拗ねたようにそっぽを向いた。
「そしてその子爵令息は、債権者に追いかけられる羽目に。子爵家当主も令息を廃嫡にした…と。そんな苦い経験を踏まえての3人目って事か」
「こ、今度こそ本当よっ 本物の『鴻鵠の番』だわっ」
「…今度はどんなヤツ?」
アーテルはテーブルの上に置いてあるお菓子をつまみ、口に頬張る。
「彼の名前はガイス。ハーディ伯爵家の次男なの。婿養子に来てもらって、将来は我がポルカ伯爵家を二人で守っていけたらいいな〜って思っているの。来週、王家主催の晩餐会があるでしょ? きっと彼も出席されるわっ」
「婿養子って…まだまともに会話をしたことがないだろ? 気が早すぎんだよっ」
「…そ、そうだけどっ きっと彼も私と出会えば電流が走って、『番』だって気づいてくれるわっ」
「んなわけあるかっ にぶちんのくせにっ」
「痛っ な、何すんのよぉっ に、鈍いってどういう意味?!」
アーテルがマリディにデコピンをした。
「…俺も次男だっつーの…」
「え? 何て?」
ボソリと呟いたアーテルの言葉は、マリディの耳には届かなかったようだ。
「ど・う・せ! きっとそいつも『番』じゃないよっ すぐに分かるさ…」
マリディの言葉には反応せず、アーテルは意味ありげに、ふっ…と笑った。
そんなアーテルの様子には気づかず、マリディはおでこを摩りながら、一人でぷりぷり怒っていた。
◇
「どうしたんだっ、マリディ!」
「…ア、アーテルぅぅぅ…」
突然、マリディがノワイユ家を訪れた。
見るからに落ち込んでおり、大きなアメジストの瞳は涙で濡れている。
「…ガ…ガイスは私の『鴻鵠の番』ではなかったわ…彼…い、違法薬物を使用していて…昨日警邏隊に逮捕…されたようなの…彼こそが私の運命だと思ったのに…グスッ…」
肩を震わせながら泣いているマリディを、アーテルはそっと自分に引き寄せた。
「泣くなよ…マリディ。結局ガイスは君の運命の人じゃなかっただけだ。晩餐会で会わずにすんで良かったよ。いつか君だけの『番』は必ず見つかるさ」
「……そうかしら…アーテルがそう言うならきっと間違いないわね…」
いつもの可愛らしい笑顔を見せるマリディ。
(そう、君はそれでいい…
君は何も気づかなくていんだよ。
一人目の男爵令息に女をあてがったのは俺だ。
二人目の子爵令息をギャンブルにハマらせ借金地獄に陥らせたのも俺。
そして三人目の伯爵令息をヤク中に仕立て上げたのも当然俺だ。
だって…君の『鴻鵠の番』は俺なのだから…
初めて君に会った時から、俺は気づいたよ。
君は獣人の血を受け継いでいると思い込んでいるようだけど、完全に人族の血の方が濃い。
だって俺に全く気づかないどころが、明後日の方向に運命を探し求めているのだから…
純真で素直で単純で…少しお花畑な愛しい君。
俺が君の本当の運命の相手である事に気づく日は来るのかな?
まぁ、俺だけが分かっていればいいんだけどね。
…どちらかが死ぬまで、この運命から逃れる事はできないのだから―――――…)
口角を上げたアーテルの口から、牙が出ている事にマリディは気づかない。
獲物を狙うかのように自分を見つめる獣の瞳にマリディは気づかない。
アーテルだけが知っていればいい…
【終】




