✧ご機嫌なケンちゃん
※くろくまくん、誤字脱字報告ありがとうございます。
他の箇所も修正しました。
2025/12/22
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「お~い、シュートなに泣いてんだ?」
「ケンちゃん!」
「お兄ちゃん!」
ケンちゃんがにこにこ顔でイートイン・コーナーにやってきた。
「ユウちゃん仕事お疲れ~!腹減ったろう。今日は俺の驕りだ。肉まん3個と、シュートの好きなおでんは、ちくわとはんぺん、ユウちゃんは大根とつみれだったな」
「え、ケンちゃんなんで?」
「ふふん、俺だってたまには奢るよ」
とケンちゃんはおでんが入った皿2つと、肉まんをトレーに載せて俺たちのテーブルに置いてくれた。
「ほれシュート、もう泣くな、飯食えよ!」
ケンちゃんは泣いてるシュートの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「ケンちゃん……」
「腹減ったろう。冷めないうちにおでん食べろ!」
「うん……」
シュートは泣き止んで、おでんの匂いをワンコみたいにクンクン嗅いだ。
ケンちゃんはさっきからニヤついてる。
みっちゃんは怪しんだ。
「どうしたのお兄ちゃん、今日はずい分気前いいじゃない?」
「へへ、ちょっとな」
確かにおかしい、なんだか意味深なケンちゃんだ。
とはいえ俺はシュートが泣き止んでくれたのでホッと安堵した。
「サンキュー、ケンちゃん。ほらシュート鼻水!」
と背広のポケットからティッシュを取り出して、シュートの鼻を片方ずつ詰まんでかませる。
シュートの耳がキーンと痛くなるのを防ぐためだ。
鼻をかんだシュートは、赤鼻のトナカイみたいに鼻先が真っ赤になった。思わず俺は笑った。
「シュート、パパ、お茶汲んでくるから手を洗ってきなさい」
「うん」
✧ ✧
イートイン・コーナーにはお茶や水が無料で飲める給茶機も設置してある。
シュートはここのコンビニ来ると、必ずほうじ茶を飲んだ。ほうじ茶の香ばしい香りがいんだと。俺はきまって緑茶だ。
そういえば東京のコンビニは『給茶機がない!』って出張した同僚が嘆いてたな。
田舎だからイートイン・コーナーのスペースがあるせいかケンちゃん家のコンビニは何でも揃っている。
これでベッドがあれば寝泊まりだってできるぞ。
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俺とシュートはケンちゃんからもらった、肉まんとおでんを食べた。
「熱いからヤケドすんなよ」
「うん、おいしいね」
シュートはフーフーと頬を膨らませて、アツアツのはんぺんを食べる。肉まんも小さな口でモグモグ食べる。
ようやくシュートの顔にいつもの笑顔が戻ってきた。
俺も腹が空いていたので、ケンちゃんからもらった肉まん2個とおでんだけではもの足りず、カップラーメンと五目おにぎり、珈琲マシーンでホットコーヒーも買った。
既にみっちゃんは休憩時間が過ぎたので、レジに戻っていた。
イートイン・コーナーは分煙室で、ケンちゃんは隣に座って煙草をモクモクと上手そうに吸いながら俺に聞いた。
「なあユウちゃん、さっきの手作りケーキの件さあ、シュートは小っちゃい星のクッキーを飾りたいんだろう?」
「そうだよ、な、シュート」
「うん、ボクおほしさま、かざりたいの!」
シュートはカップに入ったチョコソフトまで、ケンちゃんが奢ってくれたのでご機嫌だ。
「なら、とっておきのケーキを俺がみつくろってきてやるよ」
「え、本当?」
「え、ホント?」
シュートが口にクリームをつけたまんま、俺の言葉を反復した。
「ああ、イブは俺がケーキ持ってくるから、ユウちゃん家でクリスマス会しようや、夜7時頃どうだい? みっつも誘う!」
──!? え、ケーキのあてがあるのか?
やはり、今日のケンちゃんはどこかおかしい。
「それは助かるけど、コンビニどうすんの? イブなんてクリスマスの販売で忙しいだろう?」
「いいのいいの、その日はいつもより多めに、バイト募集したから。年末年始は時給増やしてすぐ集まったよ」
「へえ、それは太っ腹だな。でもケンちゃん、なんかいいことあった?」
「あ~どうしようかな~?」
──なんだケンちゃん、さっきから言いたくてしょうがない顔、バレバレだぜ。
これ絶対、何かあったよ。
もしかして万馬券当たったとか?
あ、でも有馬記念は今週末だったか。
「何だよケンちゃん、もったいぶらずに教えろよ!」
俺は不満げにコーヒーのほろ苦い香りをかぎながら一口、二口飲んだ。
「わかった、ユウちゃんちょっと耳貸して!」
「ん?」
ケンちゃんは俺に近づいて小声で囁いた。
「実はさ。応募してたWEB小説が発表されて、俺の作品が大賞になったんだよ。そんでもって賞金300万円が振り込まれる!」
「ええ300!オッ、ゲホッゲホッ!」
俺は驚いて、口に含んでいたコーヒーが変なとこに入ってむせてしまった!
「おい、大丈夫かよ!」
ケンちゃんは慌てて俺の背中を擦る。
「ゴホッ、ありがと。ケンちゃん、凄いじゃん!おめでとう!」
「いやあ~あははは、ありがとう、まあそれほどでもないけどな」
といいながらもケンちゃんは満面の笑みだ。
「いやあ、おどろいたな……」
俺は目を丸くした。
──いやいや、すげえよ。300万だろう!
こいつ、いつもスマホ片手にポチポチ楽しそうに打ってて、それで300万かよ?
はたから見ると暇そうに店長してる、このダサいケンちゃんが300万の男?
ひええ〜作家さまかい?
俺はまじまじとケンちゃんを凝視した。
厚い眼鏡の黒縁メガネで、コンビニ制服は太めの体形でピチピチとどう見ても垢抜けないが、そのふくよかさも、いつもとは違って神々しく見えてくるから不思議なものだ。
──あ、そういえば今日は髭をそってる!
いつもは無精髭で暑苦しかったのに。
「前から小説書いてるって、すげーなーと思ったけど、マジで作家なんだな」
改めて俺はケンちゃんを尊敬の眼差しで見つめた。
「あはは、いやあ〜褒め慣れてないから、こそばゆいねぇ。まあ俺には最高のクリスマス・プレゼントになっただよ。ダメ元で応募してたし、すっかり忘れてたんだ。そしたら一昨日出版社からメールが来てさ、大賞だって!来年は書籍化もしてくれるんだと!」
「書籍化、すげえ!印税生活できんじゃないの?」
「あはは、やめてんユウちゃん!まだまだ副業なんよ」
俺が騒ぐたびに、ケンちゃんは満面の笑みで小声はどこへやら、大声で自慢気に話しだす。
「コミック含めてまだ4冊目だしさ、印税なんてほど遠いのよ!」
「既に4冊も?ほけ〜!」
俺がびっくりすると、ケンちゃんは余程嬉しいのか
「そんなあ、大したことないぜ〜!」
と照れ臭そうにバシバシと俺の背中を何度も叩く。
──痛っ!痛いよ、ケンちゃん!
すっげえハイテンション。
「はん、300万じゃ肉まんとおでんだとちと不満だがな」
俺は少し小憎らしくなってちくりと皮肉った
「いやあ、本当はユウちゃんと祝宴したいところだが、シュートもいるしなあ、ワハハ!」
──ち、皮肉も通じない。
「ケンおにいちゃん、ゴホンをだすの?」
シュートは俺たちの話を聞いていたのか、チョコソフトを口の回り一杯つけて聞いた。
「おお、シュートそうだよ!だからユウちゃん、イブは久々にワインでも開けようぜ!」
「いいよ、大賞祝いに親父からもらった、とっておきのシャトー・タルボを開けてやるよ!」
「おお、いいねえ!」
そんな俺とケンちゃんが盛り上がってる様子を、みっちゃんは少しだけ、哀しげに見つめていた。
※ 大賞300万は超羨ましい。(((;ꏿ_ꏿ;)))




