✧みっちゃんとシュートの涙
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「ユウさん、こめんなさい。私、お菓子作りってしたことないの!」
「はい?」
翌日、俺が保育園からシュートを迎えにいった帰り、いつものようにコンビニのイートイン・コーナーに立ち寄った途端、みっちゃんが足早に開口一番、俺に言った。
「昨日シュート君の星型ケーキの件、お兄ちゃんから聞きました。申し訳ないけど私、これまで料理ってほとんどしたことなくって……」
「え、そうなの?」
俺はわが耳を疑った。
「でもみっちゃん、いつもコンビニの唐揚げやコロッケとか作ってるよね?」
「あ、唐揚げとかは工場で軽く揚げたものを、冷凍で店に届くから溶かすだけだもん、誰でもできるの」
「あ、そうなの。へええ……」
──コンビニってそうだったのか。
まったく知らなんだ。
「ほんとに、ほんとにごめんなさい」
みっちゃんは俺に両手を合わせて目を瞑って謝った。
みっちゃんのこんな辛そうな姿を俺、初めて見た気がする。
たちまちヤバイなあと俺は慌てた──。
「やだな、みっちゃんが謝る必要ないよ。俺が勝手にみっちゃんなら作れると思い込んだのが悪いんだから。本当に済まなかったね……」
と否定しつつも俺の声は若干トーンダウン気味だ。
このコンビニで常にテキパキと、何でも対応していたみっちゃんだから、ケーキ作りもお茶の子さいさいだと、勝手に思い込んでいた。
『みっつは猛者女だ!結婚したら旦那は尻に敷かれる』
とケンちゃんはいったけど、目の前のみっちゃんは酷く儚げに見えて、俺は何故か胸がキュンとなった。
しかし、弱ったな──。
正直、俺は手作りケーキの当てが外れて困惑していた。
「⋯⋯⋯⋯」
ふと、俺とみっちゃんの会話を聞いていたシュートが、俺の手を離して俯きだした。
シュートの様子がおかしい、とみっちゃんは気がつき息子の前にしゃがみこんだ。
みっちゃんはシュートの頭を撫でながら、息子と同目線で話した。
「シュート君、ほんとうにごめんね、私、料理はほとんどお母さん任せだったの。だからお菓子は作れないんだ。クリスマスケーキはとてもじゃないけど無理なのね、どうか許してね〜」
と非常に申し訳なさそうに、みっちゃんはシュートに謝った。
流石に俺はいたたまれなくなる。
「いいよ、みっちゃん、君はちっとも悪くない、お願いだから何度も謝らないで!」
「でも……ユウさん、シュート君が手作りのケーキを楽しみにしていたのでしょう」
「うん、まあ。でも大丈夫だよ、なあシュート?」
「みっちゃん……えっえっ⋯⋯ボクこそ……ごめんなさ⋯⋯」
シュートが突然、泣き声で呟いた。
「シュート君?」
「うっ、みっちゃん、ボクのせいだ。ボクがみっちゃんをこまらせた、うう、うっ……」
シュートの眼から大粒の涙が溢れて泣きだした。
「どしたシュート!」
「シュート君、どうしたの?」
「うわああん、ボクがいけないんだ、ひっく、ボクのせいでみっちゃんがパパにおこられた」
──え、何だと?
俺はシュートの言葉にぎょっとした。
「おい、シュート、パパはみっちゃんを怒ってないよ!」
「そうよ、シュート君、私ちっとも怒られてないわよ!」
「だって、だって、みっちゃんが、とてもかなしいかおしてるよお……わあ〜ん!」
シュートは更に、コンビニ中に轟くようにギャン泣きした。
コンビニ内に数人いた客たちが、何事が起きたんだと言わんばかりに俺たちをジロジロ注目した。
──おいシュート、急にどうした!
いつもの姑息な嘘泣きじゃないぞ!
まさかシュートがこんなに泣くなんて!と俺は動揺した。
そんな親の心知らずか、シュートはお構いなしに小さな手で目をごしごし擦って、ひっくひっくと泣きやまなかった。
その間、みっちゃんは何度も怒られてないと、俺を庇って諭してくれる。
「パパは怒ってないよお、シュート君のせいじゃないよお、私は大丈夫だから、ねえ、シュート君は優しい、とってもいい子ね~」
とみっちゃんの眼にもいつしか涙が潤んでいた。
幼児の優しさに同情してくれたのかもしれない。
きっとみっちゃんは、良いお母さんになれそうだなと俺は思った。
みっちゃんはシュートの小さい体を優しく抱きしめてくれた。




