✧シュートの気持ち
※ 2025/12/24 一部修正済み
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シュートは俺の親から少し早いクリスマスプレゼントのお絵かきボードを買ってもらって、楽しそうに絵を描いていた。
青いプラスチックの縁取りに、専用のペン差しとフック付きゴムバンドがついている。幼児が使用してもペンは失くさない。
「パパ、みて!おえかきボード、このボタンおすと、すぐにきえちゃう!」
シュートは新しいおもちゃに興奮気味だ。
「あとボードくろいから、おほしさまがキラキラひかる!リサちゃんは、ひからなかった」
「おお、それは凄いなあ、最新式なんだろう」
「うん、みて、こうやってかくんだよ」
と先週までは手作りケーキに腹を立てて、俺と口を聞いてくれなかったが、今はすっかり機嫌がなおったのか、お絵かきボードの説明を楽しそうにしてくれた。
シュートは絵を描くのが好きだった。
前は画用紙にクレヨンで猫や犬、鳥の動物、植物、昆虫をよく書いていたが、最近は空の星ばかり描いている。
星形に目と口をいれて星がまるで生物みたいに、にこにこ笑っている。
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夕飯は母さんが作ってくれた五目御飯と唐揚げと漬物を食べた。シュートは野菜嫌いなのに大根の漬物も嫌がらずに食べた。
「パパ、おばあちゃんのダイコン、あまくておいしいね!」だと。
甘いと野菜も食べるんか。
デザートは必ずプリン。シュートはプリンが大好きだ。
たどたどしくカップのプリンをスプーンで剝くって、モグモグと頬ばる。
「口の回りが汚れてるぞ」
とシュートのほっぺにカラメルがついていたので、俺はウェットティッシュで拭きとった。
俺はプリンを食べるシュートを見つめながら聞いた。
「シュート、クリスマスケーキだけど、やっぱり手作りがいいのか?」
「うん」
シュートはプリンを食べながらコクリと頷いた。
「なんで手作りのケーキがいいんだ?」
「う~んと、それはねぇ~」
シュートは薄い眉毛をへの字にして俺をじいいっと見つめた。
あ?
その時、俺は自分からシュートに聞いたのに、前にケンちゃんがもらした言葉。
『手作りのケーキが欲しいんじゃなくて、ママが欲しいんじゃないの?」
とシュートがいったらどうしよう?と一瞬、頭をかすめた。
──俺にとってもシュートにとっても、雪奈のかわりなんてどこにもいない。
だがシュートの口からは思いがけない言葉が出てきた。
「パパ、手づくりケーキがいいのは、ボク、さぶらいじゅがしたかったの」
「は?」
「だからあ、さぶらいじゅ」
──なんだ、さぶらいじゅって?
「ボクね、パパを、あっとおどろかせたかったの!」
「驚く?──あ、サプライズのことか!」
「そう、サブライジュ!」シュートは笑顔でいった。
ようやく俺は分かった。
だけど、サプライズと手作りケーキの関連がよくわからん。
そもそも、サプライズってどっからそんな言葉を、5歳の幼児が覚えてくるんだよ!
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つまりシュートの話はこうだった──。
イブの水曜日、保育園では家族に送るクリスマスプレゼントで、手作りクッキーを先生と園児で作るんだと。もちろん園児は火の扱いは禁止だから、クッキー下地で好きな型を園児がくりぬいた後、調理師さんが焼いてくれるそうな。焼いて冷ましたクッキーに幼児がお絵かきをするんだって。
──へええ、今の保育園て菓子まで幼児が作るんか?
なかなか凝ってるなと、俺はびっくりした。
「そんでねパパ、りさちゃんときなちゃんは、おおきいクッキーはママたちにあげるの。ほかに、ちいさいクッキーもつくるの」
「ふうん、なんで?」
「うん、ボクもわかんないから、きなちゃんに『なんで?』ってきいたの!」
「それで?」
「きなちゃん『このクッキーはママたちにプレゼントして、ちいさいのはケーキにかざる』って!」
「ああ、小さいのはケーキ用のクッキーか」
「そう、クッキーにおめめや、おはな、おくちをえんぴつでかくんだよ」
「クッキーに鉛筆?」
「うん、えんぴつもチョコやイチゴがあって、とてもあまいの」
「へえ……」
「なめるとおいしいよ」
──あ、あれか、食用のフードペンて奴か。
ようやくおれは納得した。
元々俺は甘党でないから、子どもの時も母さんに『誕生日ケーキいらないから、その分プレゼントはゲームに奮発して!』と頼んだくらいだ。
クリスマスも実家では毎年ケーキなしで、唐揚げやピザばかり食っていたな。
思えば、大人になってから俺がケーキを食べるようになったのは、雪奈が作ってくれた手作りケーキぐらいだった。
「だからねパパ、ボクもきなちゃんたちみたいに、ちいさいクッキーつくりたいの!」
「ああ、だから手作りなのか?」
「うん、コンビニのは、のっけれないでしょう」
「そうか?コンビニのケーキだって、チョコの文字飾りや、サンタさんの飾りをどかしてクッキー載せればいいじゃない」
「ダメだよパパ!そんなことしたら、サンタさんたち、かわいそうでしょ!」
シュートが大きく口を尖らせた。
「あ、そう……」俺は面食らった。
──ん?何でサンタがかわいそうなんだ?
どうも時々、幼児の気持ちが理解出来ない。
やはり父親だけでは子育ては難しいんかな?
俺は悶々とした。
「パパ、ぼくのクッキーはおほしさまなの。だからホシのケーキにしたいの。手づくりがいいの」
なるほどなあ、星形のケーキか。
だからシュートは手作りに拘ってたんだな。
う~ん、これは困ったな。
星形で上に何も載ってないケーキなんて注文しないと作れないだろう。
もうイブまで日にちがない。手作りはともかく今からケーキ屋に特注予約しても間に合わないな。
どうしようか……と俺はしばし考えた。
いつしかシュートは俺の膝上に乗っかって、真下からじっと俺を見つめている。
シュートの髪の毛はひよこみたいに、キラキラと陽光に輝いていた。小さい体がそわそわしてなんとなく俺に肩車して欲しいようなそぶりだ。
肩車か。
「あ、そうだ!」
思わず俺は大きくパン!と手を叩いた。
「わ、パパ、どしたの?」びっくりするシュート。
「シュート、みっちゃんだよ。みっちゃんに頼もう!」
「みっちゃん? みっちゃんがほしのケーキつくれるの?」
シュートも目を星のように輝かせた!
「ああ、あの娘なら、ケーキくらい簡単につくれるだろう!」
俺はシュートを抱っこしたまま、机のスマホを手にして、すぐにケンちゃんにメールを送った。
みっちゃんのメールアドレスは知らないから、ケンちゃん経由でケーキを作ってもらうよう頼んだ。
──そうだ、みっちゃんだよ!
突然ケーキのお願いなんて聞いてくれるか分からないが、その時、俺の脳内はなぜか、みっちゃんしか思い浮かばなかった。




