✧ママが欲しいんじゃないの?
※ 2025/12/25 一部追加修正しました。
☆ ☆ ☆ ☆
「ユウちゃん、それって手作りのケーキが欲しいんじゃなくて、本当はママが欲しいんじゃないの?」
「ママ?」
「ああ、そうだと思うよ、シュートも保育園に入って物心ついてきたろう」
「そういえば最近は、口答えするし生意気になってきた!」
「だろう、5歳ともなれば周りの園児がさ、母親と送り迎えしているのを見て羨ましいんじゃないかね?」
「母親がいなくても俺が迎えにいってるじゃないか!」
「まあ、そうだけど。やっぱさ、子どもは母親なんじゃない」
コンビニの店長が、悟ったように煙草をモクモクとふかしながらいった。
この店長はオレの幼馴染のケンちゃん。
地元の中学時代からの付き合いだ。
どちらかといえば真面目な性格の俺と飄々としたのんびり屋のケンちゃん。
俺ら性格が正反対だが、なぜか馬が合っている。
「まあ……確かに、そうかもしれんがな……」
「あれだろう、雪奈ちゃんが亡くなってもう4年だろう。そろそろさ、再婚とか考えてもいんじゃない?」
「は、何言ってんの、ケンちゃんがそれゆう?」
そう、ケンちゃんは俺と同級生だがまだ未婚者だ。
「俺はまあ、独り身だしさ、気楽だし。でもユウちゃんはシュートがちっこいから、色々と大変だろう?」
「……」
俺はその質問には答えずに缶ビールをグイッと一気に飲んだ。
☆ ☆
オレの名前は未来雄三。
長男なのになぜか雄三だ。父さんがつけた。理由はしらん。
地元の家電メーカーのサラリーマンでもうすぐ28になる。
このコンビニ店は、シュートの保育園と自宅のマンションの中間くらいにあった。
俺の会社は本社が地方ということもあり、少子高齢化に伴い子育て支援を推進していた。おかけで妻が事故で亡くなってから、片親になった幼児がいるからと、残業もほとんどない部署に異動してくれた。
平日、仕事が終わると保育園のシュートを迎えにいってから、ケンちゃんのコンビニに立ち寄ることが多くなった。
田舎のコンビニのせいかイートイン・コーナーが広くてシュートと夕食をよくした。
ケンちゃんはこのビルのオーナーの息子だから家賃は実質タダ同然だ。
おかげで月々の本社に計上する、売上ノルマは達成しているという。
コンビニといってもガチガチのフランチャイズ店ではなく、地元の雑貨店からコンビニに拡大した本社なので、ノルマもそこまで厳しくないんだろうと俺は想像していた。
だってケンちゃんていっつも暇そうで、スマホばかり見てなんかポチポチ打ってるし。
学生気分の抜けない感覚っていうか、まったりと店長してんだもの。
おまけに副業は一応小説家なんだと。
髭ぼうぼうで黒縁メガネでダサい身なりだが、これでも最近はWEB小説が書籍やコミック化して売れ始めてるんだ~と1人でニタニタほくそ笑んでいた。
俺が驚いて「読ませろ!」といってもケンちゃんは恥ずいからと頬を染めた。
ああ~てめえは女子かよ!
ケンちゃんは頑なにペンネームを教えてくれない。
なんでも異世界のバトルファンタジーを書いてるそうな。
何だよ、異世界って、ファンタジーって!どうでもいいがすげえな、おい!
俺は大学卒業してから直ぐ結婚した。
これまで家庭のために仕事と子育てに悪戦苦闘していたから、漫画や小説など読む暇などなかった。
ケンちゃんのダサい風貌も相まって、いっちゃあ悪いが、ケンちゃんはいつもお気楽そうでいい気なもんだと、内心軽んじている自分がいた。なおかつ好きなことをして生きているケンちゃんが、羨ましいとも感じた。
そういえば高校時代、気付くと授業中もシコシコ漫画とか小説をよく書いてたっけ。
まあ、元々親が地元のビルを何個も所有している、金持ちのお坊ちゃまだからな。
まったくいいご身分だぜ。
実質コンビニ店はケンちゃんの妹、みっちゃんと、バイトの高校生2人とで切り盛りをしている。
ケンちゃんは客とトラブルがあった時だけ、カウンターに出て来る。
この妹のみっちゃんがとにかくよく気が付く娘だった。




