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7 剣術指南の到着

 私は一ヶ月経ってもまだふらふらしていた。

「可笑しい。ちゃんと魔力は動いているのに。何故身体に力が入らないの?」

 おじいちゃん先生に魔力の動かし方を教えたけれど、これを実行している人がいたら大変だ。もし、私が教えたことが引き金になって病気になる人が出てきたら、おじいちゃん先生や、病気になった人達に顔向けできなくなる。

 悶々としていると、マンナがやってきて、剣術指南が到着したと知らせに来た。

「今頃来て、どういうつもり? 首にすると伝えて頂戴」

「でも、お嬢様、少しお話だけでも聞いてからにしてください。来て早々首だなんて言えませんよ」

「こんなに遅れてきて、何の連絡もなかったのよ。当たり前だと思うけど。まあ、会うだけ会いましょう」

 ゆっくり執務室に行き、椅子に座り込む。これだけでも大変な疲れ方だ。一体どうすれば元に戻るのだろう。考えながら、待っていると、剣術指南だという男が部屋に通されてきた。部屋の中だというのにコートを羽織ったままだった。フードまで被っている。何て礼儀知らずな人。

「初めてお目に掛かる、剣術指南を承ったゴードンと申す」

「随分遅い到着のようだけど、何か理由があったのかしら」

 少し嫌みな言い方だったが、身体が辛いのと、イライラがそう言わせていた。

「ヤーガイ国の方で、魔獣が氾濫したのだ。その対応に追われていたのでな。剣術指南は後回しにした。申し訳ない」

 何となく横柄な言い方にカチンときた。小娘相手で馬鹿にされているようだ。

「そう、だったらもう良いわ、帰って魔獣の後始末でもして頂戴。こっちは間に合っているから」

「・・・・・其方は、もしかして・・・気分を害したのか? 剣術指南は其方の父上から直接承ったのだ。父上から断りがなけれが、私は帰ることは出来ない。兎に角一度、其方の力を見て、大丈夫なら、私の方から父上に話をしよう。これでどうかな? 機嫌を直して貰えまいか?」

 もう限界だ、目の前がぐらぐら揺れて相手の言葉に対応出来ない。私はそのまま机に突っ伏してしまった。

 目が覚めるとまたベッドに寝かされていた。私は目の前が真っ暗になった。

 ――このまま動けなくなってしまうのかしら。

 自然と目から涙が溢れてきた。ヒックヒックと嗚咽を堪えて静かに泣いていると、横から声が掛かった。

「泣いているのか? なぜ泣く」

「!・・・な、っこんな処に入ってきて!マンナ!マンナ」

「はい、お嬢様。ここにおりますよ」

「この人は誰!出て行って貰って」

「申し訳ない、私がここに運んできたのだ。今暇乞いをしようとしていたところだった」

「・・・そうだったの。ありがとう。もう良いわ下がって頂戴」

「相い分かった。だが、少し聞きたいのだが、女中から魔獣を倒したと聞いたが、其方は魔力硬化症にかかっているのではないか?」

「!・・・そうかもね。でも貴方には関係ない事よ」

「いや、関係ある。私は其方の婚約者だ。このままにはしておけぬ。其方の属性は一つだけか? 増えてはおらぬか?」

 ちょっと。私の婚約者ですって! 私は男の顔をまじまじと見てしまった。始めて見たときは、フードを被って分からなかったが、彼の顔は普通の顔だ。いや、精悍で苦み走ったいい男だった。だが、額の両側に角のような物が生えていた。「鬼?」つい口から飛び出していた。

「オニ? とは何だ? 聞いたことがないな。私の姿は良く悪魔だと言われるが・・・羽根は生えていないぞ」

 彼はそう言ってフッと笑った。多分何時も言っているジョークなのだろうが、全く笑えない。

 彼の足は両方きちんとあるし、身体付きは、がっちりとしていてとても強そうだ。ストレートの黒髪を後ろで縛っている。目は緑色。声は低くて張りがある。おでこに角があっても、かなりの男前だ。確か今年で三十歳になるはずだ。

 私は「かっこいい」と思ってしまった。昔から男臭い人に惹かれる方だった。そんな人は私のような不細工には縁がなかったが、異世界に来て、婚約者になることが出来たのだ。ただただぼーっとして見つめる私に、何か勘違いしたのか、彼は、静かに立ち上がって

「・・・・・私は帰った方が良さそうだ」

 と言って、部屋から出て行ってしまった。

 私は慌ててベッドから転げ落ちるように這い出て彼の後を追った。

「ゴードンさん!待って。行かないで。お願い!」

 ゴードンはビクリとして振り返り、倒れ込んだ私を軽々と抱えてくれた。

「ゴードンさん、貴方は私の理想の人です。だから行かないで」

 私は、私の態度を勘違いして、ゴードンが傷ついていると思い必死に訴えた。彼はきょとんとして、それから大声で笑い

「まさか、私が君のような人の理想だと? 気を遣うにしても面白い言い方だ。私は傷ついて等いないぞ。何時も皆の反応には慣れているからな」

 笑い方までかっこいい。私はべったりと張り付いて彼の匂いを吸い込んだ。

 ――匂いまで理想的。何て幸運なんだろう。こんな人の奥さんになれるなんて。

「お嬢様、寝間着のままで!何てはしたない。離れてください」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 彼はとても背が高かった。父が言っていたとおりだった。二メートル近い背丈。私が大きくなっても十分釣り合いが取れるだろう。今は五十センチ近く隔たりがりがあるが、大丈夫直ぐに大きくなってみせる。

 でも先に身体を治さなければならない。ゴードンが言うには、属性を増やして魔法を使えば身体に籠もった魔力が抜けると言うことだった。

「もし其方が火魔法を覚えたければ、私が教えてやれるぞ」

 属性は増やしたくないので、彼からの有り難い申し出は断った。属性をこれ以上増やせば、また器用貧乏に逆戻りになって仕舞う。火魔法は魅力的だったが・・・・・・。

 彼が属性を聞いてきたので、光だと言っておく。だから光魔法を使って魔力を放出してみた。今まで使えなかったハイヒールやエクストラヒールを使っやっと私の身体から魔力が抜けたのだ。その先のパーフェクトヒールまでやってみたがレベルが足りないのか出来なかった。

 使い切ってから私はガックリしてしまった。

「闇の収斂の魔法が出来なかった!」

 また魔獣を倒さなければならない。今度はもっと沢山倒さなければならないだろう。魔力の受け皿が大きくなったのだ。

 ゴードンのお陰で、魔力硬化症にならずに済んだが、彼が側で監視しているせいで、闇魔法を試すことが出来なかった。どうにも上手くいかない。

「魔力の放出の仕方をおじいちゃん先生に教えてあげないといけない。」

 私はおじいちゃん先生に手紙を書いた。

 直ぐに返信が来て、とても感謝された。そして小包に、おじいちゃん先生が作った魔法鞄が三つ、入れられて送られてきたのだ。

 そして手紙には、空間魔法のもう一つの使い方が書かれていた。『空歩』という余り使えない魔法だが、何かの足しにはなるだろうと言うことだった。

 コッソリ試してみたが、本当に使い処のない魔法だった。三十センチほど浮かんで空間を歩き回るだけの魔法だ。早くは歩けないし、影渡りの方が使いやすい。何かの役に立つのだろうか?

 魔法鞄の一つはゴードンにあげよう。確か彼は持っていなかったはず。もし持っていたとしても、何個でもあっても良いはずだ。魔力硬化症を治す解決策を教えてくれたのだから。

 私の身体に力が入るようになってゴードンは鬼になった。剣術を教えに来たのだから、しっかり鍛えると言って、スパルタ教師になってしまったのだ。

 一方的に私が惚れているのは明らかだ。彼は大人の男だ。小娘の、更に子どもは相手にされない。私が良い雰囲気に持ち込もうとしても、全く気が付いていない。スパルタ訓練は男に訓練するのと何ら変わりなく進められていくのだ。

 影のあるかっこいいゴードンが偶に憂い顔で佇んでいることがある。私はその姿に見とれていた。

『何て素敵なの。まるでお伽の国の生きもののようだ』

 だが、ゴードンは私には全然興味が無いようだった。

 ク、もう少し可愛い服・・・いや大人っぽい服を着てみようかしら。でもまだ一部分が成長出来ていない。私の栄養は、総て背丈に持って行かれるようだった。身体は少年そのものだ。

「いつになったらここが膨らむの?」

 以前は、身体はチビだったが唯一胸だけは自慢できたのに。サラはどうやら、貧乳の家系のようだ。がっかりだよ。

 父はロリコン趣味だ。きっとサラの母親は少女の体型だったに違いない。

 以前の世界で私の唯一の楽しみは、オシ活。大好きな声優や、俳優。特に30代に差し掛かった男の人に、魅力を感じていた。自分がその人とデートする夢を見て、つまらない人生を何とか生きていたのだ。推しのものは何でも買った。狭い部屋の中は推しのグッズで溢れていた。お金が許す限りではあるが。今、目の前に私の推しがいるのだ。すべてをなげうって尽くしても後悔はしないだろう。父の粘着質や、頑固さは私にも通じていたのかも知れない。

 私は好みの彼をうっとりと眺めている。と、彼が一生懸命に何かを言っている。全然聞いていなかったことにハッとした。

「ごめんなさい。貴方に見とれて聞いていなかった。もう一度言ってくれないかしら」

 彼は呆れたようにフーッとため息を吐いて、もう一度繰り返してくれた。

「私の領地で氾濫した魔獣が、この領地に逃れてきた、と言ったのだ。君が倒した魔獣のことを聞いていたのだ。何の魔獣か教えて欲しい」

「魔獣の名前は詳しく知らないわ。派手な色のトカゲと、派手な色の鳥だった。その鳥を二羽私が仕留めて、それで可笑しくなったの」

「ニードルリザードとポイズンドードーか。よく倒せたな。ドードーは毒を吹き出すことがあるんだ」

「ええ!毒を吹き出すの? そんなことは無かったけど、それで何か問題でもあるのかしら?」

「私が倒してくると言ったのだ。このままでは君の領地の人に危害が及ぶだろう。だから私が行って、壊滅してくる」

「え!ダメよ!危ないわ。毒を吹き出してくるんでしょ。貴方に何かあったらどうするのよ」

「何を言っている? 私には毒など効かないのだ。私達は、長年毒に晒されて生きてきた。そのせいで毒に耐性が出来たんだ。問題ない」

 毒に耐性が出来た? そんなこともあるの?

「では、私も毒に耐性が出来ると言う事?・・・頑張れば?」

「頑張るとか、そう言う問題ではない。直ぐには無理だ。君が我が領地に来て十年もすればそうなるかも知れないが・・・」

「じゃぁ、今から行きます。直ぐに行きます。私と直ぐに結婚しましょう」

「・・・・・君はまだ子どもだ。然も、結婚して嫁ぐのは私の方だ。何か勘違いしていないか?」

 あ、そうだった。彼はお婿さんに来てくれることになっていたんだ。何とか早く一緒になりたいと思いすぎて、チョットがっつきすぎだった。

「ウッホン。そうね毒が効かないんだったら。お願いしようかしら」

「任された。共は足手纏いになるから要らない。私一人でこのまま行くことにする。一週間ほどで終わると思う。丁度君に貰った魔法バックがある。食糧を持って行けるから助かったよ」

 そう言って、あっさりと屋敷から立ち去った。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 なんか調子が狂う。サラディアーヌと居ると何時もの周りの反応と違い過ぎるのだ。特殊な性癖でもあるのだろうか? まさかな、まだ子どもだ。

 私達は気味悪がれるか、畏怖の念に気押されて怖がられるかのどちらかだった。この角のせいなのは分かっている。

 我が一族は魔女の呪いに侵されて、様々な奇形が生れてくる。私は幸い角だけだったが、中にはまるで魔獣のような容姿の者が生れるのだ。そんな子どもは闇に屠られてきた。私は幸運な方なのだ。

 魔の森は年々拡大していき。最早作物が取れる土地は僅かしか残っていない。だが、数年前に北の国に王女が嫁ぎ、僅かな土地を分けたときがあった。 その土地は何もなかったように豊かに復活したのだ。

 他にも他所に嫁いだ王族からは奇形は生れていないことが判明している。本当にヤーガイ王国の土地に居る王族だけに呪いが掛かっているのだ。

 我が国は融和政策に望みを託すことにした。国土は目減りするが、周りからの援助で国民は生きながらえることが出来るだろう。そして王族の血は薄まるだろうが、穢れること無く受け継がれることになる。

 サラディアーヌとは年が離れすぎているが、彼女の父親がそれでも良いと言ったそうだ。もっと年が近い王族も居たのだが、王子は久し振りに生れた、まともな見た目の子どもだ。他国の臣下に落すなど考えられないだろう。

 不思議なことにヤーガイの臣下、他の貴族が他所へ嫁いでも受け渡された土地はそのままの状態だったのだ。王族以外では効果が無いことが判明したのだ。魔女の呪いは、ピンポイントで王族に狙い澄まされている。どうあっても王族を滅ぼしたいのだろう。

 呪いは特に男に強く表れる。年を経るごとに強く表れるようになって仕舞った。若い王族の男は三人しか残っていない。後は生れて直ぐに処分されてしまった。婚約者候補になれる男子は外戚の私と十四歳の第一王子、乳飲み子の第二王子だけになって仕舞ったのだ。

 隣国、アスレート国からの、この申し出は喉から手が出る程に欲しい縁組みだった。

 問題は男でなければダメなことだ。跡継ぎが女子という珍しい領地だった為だ。この領地は狭い土地だが、我が国と隣接している。我が国の領地を差し出せば、豊かな土地によみがえるだろう。そこは、元は豊かで広大な耕作地だったのだから。

 私には婚約者がいた。彼女も王族の末端にいる。女性なのに強い呪いに侵されている。呪いに侵された者同士、気楽に一緒に居られる相手だった。

 二人の間には子どもを作ることは適わないだろうから、結婚を急ぐ必要も無い、長年取り交わした相手だった。

 魔獣を倒すのに国中を廻っている間に年月がいつの間にか過ぎて居た。

 そして今回の縁組みに私が選ばれてしまったのだ。彼女を待たせてしまった結果、彼女には結婚相手が居ないという事態になって仕舞った。もう彼女は三十歳だ。彼女には済まないことをしてしまった。

 私には使命が科されることになった。王族の血を絶やさぬ事と、国を復活させること。そしていつの日か呪いを解除する方法を見付けることだ。

 サラディアーヌは可愛い子供だが、余りにも幼い。私は彼女を、女性としてみることが出来ない。

 だが、子どもを作り育んでいく事になる。身勝手なのは分かっているが、ヤーガイ国が生き延びるにはこれしか方法はない。元々王族には自由などはないのだから。

 まずは、この地に入り込んだ魔獣を退治して、憂いをなくそう。そして、心置きなくヤーガイ国へ帰ろう。少しでも国の魔獣を減らさなければならない。

 サラディアーヌの剣術はもう少しで、剣豪の域に達する。あの年齢、そして女なのに、凄い才能の持ち主だ。鍛えれば鍛えるほど伸びていく。面白くなってついやり過ぎてしまった。これ以上は必要無いだろう。彼女の父上との約束も果した。

「しかし、サラディアーヌはどんな方法でドードーを倒したのだ? 彼女の属性は光だと聞いた。光は戦いに向かない属性だ。」

 毒を吐かなかったと言ったが、魔力を浴びるほど近づくには苦労した筈なのだが。

 ドードーは、近付けば鋭い爪で蹴ってくるのだ。あの魔獣を倒すには、私のように、風の魔法や火の魔法で離れた処から首や足を狙うしかないのに。

 そう言えば弓も使えると言っていたな。弓矢で倒したのか? だがどうやって魔力を浴びたのだ?

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