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21 代官の娘

 私は代官の話を影に隠れて聞いていた。レオンがいる。可哀想に隷属されてしまっていた。

 代官を尾行してここまで付いてきたのだ。やはりこいつが黒幕だったのか!

 レオンは魔宝石を持っているはずなのに隷属されていると言うことは、魔法が使えなくなっているのだろう。マーガレットと同じやり口なのね。

 マーガレットの子が他の男の間にもいたなんて。あの女はどんだけビッチなの!

 ゴードンが結婚したくなかった理由も解るってもんよ。

 代官がレオンに自害するように言って小太刀を渡した。代官はニヤリと笑いその場から立ち去ったのだ。

――代官は相当な闇の使い手らしい。私が何とか出来そうだったけど、今はレオンを助けるのが先よ。

「レオン」

「ッ! サラ。来てくれたのか」

「今隷属を外すわ」「サラ、魔宝石を持ってきたのか」

「もう闇の隷属魔法は私も使えるようになったの。レオンが居ない間、凄く勉強したのよ。【闇の隷属解除】ハイ、これで終わり。さあここから出ましょう」

 首輪はスルリと外れた。

「サラ、僕はもう少しここに居ることにする」

「何で?!」

「ゴードンがもう直ぐここへ来る。その時に代官の罪を皆の前で晒す。そうすれば、グルになっている貴族達も一緒に拘束できるだろう。代官を騙すにはいい手だと思うんだが」

 レオンは自分で首輪に魔法を掛けてはめ直した。レオンは服を殆ど剥がれて、美しい裸体を晒している。何となく背徳的な姿だ。何で裸にされていた? 直ぐにレオンは収納から替えの服を出して着始めた。

「代官とマーガレットの子ども。始末をどうしようか」

「まずは会ってみましょう。意外と良い人かも知れないでしょう。そんな人を殺したくはないわ。もし良い人なら魔女の家に匿っておけば良いわ。あそこからは抜け出せないでしょうし」

「そうだな。先に拘束してしまおう。後で話を聞く。彼女の部屋を探ってくれ。見付けたら僕が転移して魔女の家に連れて行く。娘が居なくなれば代官は慌て出すだろう」

 そう言って、レオンは悪い笑みを浮かべた。


 私は屋敷の中を隈なく廻った。ドアを開ける必要は無い。転移でドアの向こうへ行くだけだ。少しドキドキする。もしドアの向こうに人がいたら、かち合ってしまうからだ。まあ、その時は闇の催眠でも何でも使えば良いだけだ。魔法が思い通りに使える様になって、万能感が半端ない。

 ここは随分可愛い部屋ね。ビンゴ! 女の人が椅子に腰掛けて刺繍をしている。影渡りで近づき、顔を覗いてみる。

 彼女はトカゲの顔をして居た。身体はふつうの人間だが、顔上半分がトカゲだった。髪の毛はなく鱗がビッシリとある。目は瞳孔が細長で、瞼が下からしゅるっと上がる。これは爬虫類が持っている、瞬膜と呼ばれる物だろう。

 鼻や口はふつうの人間の形をしている。この姿では女の子なら辛いはずだ。

 取り敢えずこの場所をレオンに教えなければ。直ぐにレオンに教えに行くとレオンも付いてきた。勿論レオンも影渡りは使える。闇の収斂は無理でも、レオンは闇を使い熟すのは私よりも上手になっているのだ。

「貴方たちはッ! くせ者ムグッ・・・・・」

 そのままレオンは転移していった。私はレオンが捕らえられていた部屋へ戻り、レオンが戻るのを待っていた。

 六時間後やっとレオンが戻ってきた。

「少し待たせてしまったね。マルス領までいって、ゴンとマツを連れていったんだ。彼等の家族も一緒に来てくれた。トカゲのお嬢さんの見張りが必要だったからね」

 そうよね、一人で置いておけば、食事の支度もままならなかったはずだもの。お嬢様育ちでは何も出来ないだろう。

「彼女は何歳くらいなのかしら」

「十八歳だそうだ。マーガレットが十四、五歳くらいの頃の子どもだろう。随分お盛んだったようだな」

「どんな人だった?」

「まあ、普通かな。外へ出られないため魔法も使ったことが無いようだ。彼女には魔力があるのに、属性を調べても居なかった。あの姿を他人に見せられなかったんだろう」

「魔女の島なら外へ出ても気にならないはず。自由にして貰った?」

「ああ、金竜が居るから島からは出られないが、他は自由にしても良いと言って置いた。後で食料を届けるよ。サラ、調達してきてくれないか?」

「分かった。それでゴードンはいつ来るの?」

「一週間以内には来るはずだ。その後式典の準備があるから、一ヶ月はここに滞在する筈なんだ。その手配を代官はしているから、暫くは忙しく走り回るだろう」

「レオンはここにずっといる?」

「ああ、偶に抜け出すけどね。君は? 宿を取っているんだろう」

「竜の巣という名前の宿よ。サラディオという名前で宿を取っているわ」

「サラディオ? 分かった明日、君の宿へ行くよ。サラはもうここには来ないで。何かあったら困るから」

 レオンは変装してくるのかしら。だったら見付からないで街を歩けるしょう。

「この屋敷の使用人に騒がれないかしら。彼等に精神魔法を掛けておいた方が良くない?」

「君は精神操作する魔法に忌避感があった筈だが・・・・・」

「そうも言っていられないと考え直したの。使い方次第で人の役にも立てるし」

「サラ、随分勉強したんだね。分かっている、それも直ぐにやっておく。君は安全なところにいて欲しい。こっちは僕に任せて」


 次の日、私を訪ねて客が来ていると宿の小間使いが知らせに来た。

 部屋に上げて貰うと、背の高い綺麗な女の人だった。レオンよね?

「あの・・・・・レオンかしら」

「ああ、どうだい? 似合っている?」

「なんか変な感じ。背が高すぎるわ。返って目立ってしまっている。男でも良かったでしょうに。何故女にしたの」

「ここは冒険者が良く泊まっている宿らしいから、君が男として泊まっているんだろう? だったら女が尋ねてきても可笑しくはないだろう」

 そう言う物だろうか? レオンの変な趣味ではないわよね。まあ、深くは考えないようにしよう。

 その夜、久し振りに*****した。レオンは何故か女の恰好の男のままだった。やはり、これはレオンの趣味なの?!

 夜明け前にレオンは宿から出て行ったが、宿の主人はニヤニヤと、意味ありげな顔で私を見ている。まあ、したわよ。それが何か? 私達は夫婦なのよ問題ある?

 レオンには大量の食料を渡しておいたから、魔女の家へ持っていったのだろう。

 領兵が物々しい格好で街を練り歩き、聞き込みをしているようだ。

「何かあったの?」

「女を探しているようなんだが、どんな女を探しているか言わないんだ。変な奴らだよ」

 代官の娘を探しているようだ。誰を探しているかなんて言えないわよね。トカゲの女性だなんて。

――レオンはまだ捕らわれている振りをしているのね。

 ゴードンがいよいよ到着したようだ。パレードみたいになっている。

 ヤーガイ国の王様が態々来るのだから当たり前のことだ。ゴードンも三十人の魔法騎士団と一緒だった。

 私が泊まっている宿の二階からその様子を見ていると、ゴードンが一瞬立ち止まり、私が居る宿の窓を仰ぎ見て私を見付けてウインクする。

――レオンはゴードンに根回ししていたのね。

 これから大掃除が始まる。私も側で見て見たかった。蚊帳の外に置かれてしまった。

 三日後、領は大騒ぎになった。代官と隣の領地を治めていた子爵が処罰されたという。

 代官と子爵が手を組んで、またぞろ謀反の計画を練っていたようだ。証拠も総て揃い、その場で処刑されるという早業だった。

 貴族達の中には代官の精神魔法で操られていた人も相当数いたようだった。彼等は文を問われないそうで良かった。

 処刑される前に何処で精神魔法を習ったかと問いただすと、先祖代々伝わる秘技だと言ったそうだ。若しかすると魔女と繋がりのある家系だったのだろうか? 今となっては分からない。

 トカゲのお嬢様は父親が処刑されたことを知っているのだろうか。

 私は迎えに来たレオンに転移で領主館へ連れて行かれた。

「サラ、これで安心して公爵夫人としてここに迎えることが出来た。後で公爵邸にも行ってみよう。君は普段そこで過ごすようになるから」

 領主館は殆ど仕事のための屋敷らしい。ここから一時間ほどの場所に住まいがあるという。全然知らないことばかりだった。


          ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「貴方には代官の屋敷を残してくれるそうです。そちらへ帰りますか?」

「私に? 父は不正をしてあの屋敷を建てたのでしょう。私が貰うことは出来ません。もし許してくれるのなら、このままこの森にいたいです」

 トカゲ・・・彼女はマリーナという名前だ。マリーナは普通のおっとりしたお嬢様だった。幼い時から屋敷の中から外へは出して貰えず、物心がつくと自分の見目形が余りにも人とは違うことに気が付く。そして自ら外へ出ることはしなくなった。何時も刺繍をしたり本を読んだりして窓から外を眺める生活だったようだ。偶に尋ねてくる父親とも殆ど話す事も無かった。極少人数の使用人は、気味悪がって彼女には近づかない。

「ここに居れば他人にこの姿を見せて怖がられることがありません。外にも自由に出て行くことが出来ます。キンちゃんとも親しくなりました。ここに居たいです」

 私はレオンに目配せをして別室へ彼を引っ張っていった。

「レオン、変身の仕方を教えましょう」

「・・・・・ダメだ。この方法は秘密にしておかなければ危険だ」

「彼女の苦しみは分かるでしょう? 女性にとってはとても辛いことだわ。彼女なら犯罪に繋がるようなことはしないはず。ねえ、レオン」

 結局彼女に変身の方法を教えることになった。だが、彼女は中々出来ない。

「何故出来ないのかしら」

「彼女は人との関わりが少なかったせいだろう。どんな姿になれば良いかイメージ出来ないのかも」

 私達がコソコソ話し合っていると突然、

「出来ました!」

 振り返って彼女を見るとそこにはマツの姿を真似たマリーナが立っていた。

「マリーナ! 男の姿になっている。女の子になった方がいいわ」

「そ、そうね。でもそうなるとサラさんの姿になって仕舞いそうで。何となくいけないことに思えるのです・・・・・」

 マリーナはレオンを見てポッと頬を赤らめた。ああ、恋をしてしまった?

 レオンは綺麗な顔をして居るものね。でも、初恋は実らないものなのよ。

「マリーナ、良いわよ私を真似てみて。顔の上だけ真似るようにすれば同じにはならないから」

「・・・・・ハイ、ありがとうサラさん」

 マリーナが変身した姿は私とは似ていない。髪の色と目だけが似ているだけだった。これなら私が二人居るようにはならないだろう。

「よく出来たわね。姿を変えれば魔法は使えないけど」

「魔法は使えなくても構いません。私はこれからこの姿で生活します」

「マリーナ。見た目が変わったのだ。代官の屋敷へ帰りたくなったか?」

「・・・・・私があの屋敷を維持していく自信がありません。ここの管理をさせて貰えませんか? ここなら何とか生きていけます。きちんと管理いたします。どうかお願い!」

 ここにはゴンの奥様と息子が居る。マツも居るが、そろそろマルス領へ返してやらなければダメだろう。マツの恋人が待っているのだそうだ。

「あっしらはずっとここに居てもかまいやせんぜ。マリーナ様のお世話をさせて貰いながらここで狩りをしますんで。偶に北の領地へ行ければもっと良いんですがね」

 ここからは一週間ほどでルーベンス領へ征く事が出来る。食料の買い出しなどはそちらの方が近いのだ。だが、結界があるせいで通り抜けられない。結界を張り直す必要が出てきた。

 私の提案で、結界が張り直された。ゴン達には気持ち悪い気分を我慢すれば抜けられると教えてある。

 レオンは、時空間魔法を鞄に付与して、時間遅延の魔法鞄をゴンにもたせてやった。私からは結界の魔道具をゴンに与えた。レオンに作り方を教わったのだ。闇の結界は魔力効率が良いから長く使えるだろう。

「こんな凄いもの受け取れませんぜ」

「食料を仕入れに行って貰いのだ、受取って欲しい。私達はこれからはここに中々来る事が出来なくなるのだ」

 マツをマルス領へ届け私達はルーベンス領へ帰った。


 これから私は公爵夫人として様々な行事や屋敷の管理をしなければならない。そして子どもを産む。子どもが出来たようなのだ。レオンにその事を継げると、神妙な顔をして緊張している。

 そんなに心配しなくても私は全く構わないのに。例えマリーナのような子どもでも一生懸命育ててみせる。前世では経験できなかった結婚生活や子育ては、未知の分野だが、今から凄く楽しみだ。

 サラに憑依できて幸せだ。サラ、貴方の身体を私にくれてありがとう。

 これからも精一杯生きていきます。





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