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19 ルーベンス領

 ダンカンに風の初級魔法を教え、使ってみさせた。

 問題なく魔法は発動できた。その後また鑑定士を呼んで鑑定して貰ったが、やはり色は無色のままだった。

「何度やっても変わりません。私は鑑定士を辞めないとダメでしょうか?」

「いや、貴方の鑑定は正しい。自信を持ちたまえ。また十日後に来て鑑定をして貰う。新しい属性の研究に付き合ってくれ」

 鑑定士は自信を取り戻したようだ。目を輝かして、意気揚々と帰っていった。

何度か鑑定を掛けたが、魔力には色が付かず、ダンカンは総ての属性を使える様になって仕舞った。総てに親和性があり発現出来てしまえる希有な属性。

「ダンカンは凄いね。総てが使える特別な魔法使いになれるみたいよ」

「僕って凄いの? サラは僕が魔法を使うと嬉しい?」

「そうよ、貴方は特別な子どもよ。将来はゴードンよりも凄い王様になれるわ」

 ダンカンは得意げに小鼻を膨らませて胸を張っている。幼少期の嫌な記憶が段々無くなっていって居るようだ。良かった。

「ダンカンは無属性というよりは全属性と呼んだ方が良さそうだ。魔力器管事態が総てに柔軟に対応出来ている。羨ましいな。僕もダンカンのようになれない物か・・・・・」

 レオンの研究はまだまだ続きそうだ。

 ダンカンに落ち着きが見られ、メイドともふつうに接することが出来る様になった。ダンカンと離れることは寂しいが、私達の領地へ行かねばならない。

「直ぐに逢いに来るから。寂しくは無いわ。一杯勉強しておくのよ。今度会いに来たら凄い魔法が使えるかどうか確かめるからね」

「うん、僕頑張る!」


 王宮を離れ誰も居な居場所から私達は転移をして魔女の家に来た。

 久し振りの魔女の家だ。森の境目に金竜が来て「キュウルルウルル」と啼いている。急いでキンちゃんに挨拶をしに行った。キンちゃんの子どもも来ている。

「チョット大きくなったねキンボウ」

「キンボウ? 君に子どもの名付けは任せられないな。僕が名前を付けることにする」

「え、だったら、今日から・・・・・する?」

「ああ、魔力器を消して試してみよう。万が一呪いを持って生れてきても、姿を変える術を教えれば済むようになった。ダンカンのお陰だ。長い間研究しても分からなかったのに」

 何となく、()()も研究の対象になって、甘いムードにはなれそうに無い。レオンったら、生真面目に取り組みすぎだ。

 ゴン達がいないので、総て自分達でしなければならない。食事は王宮から出来合いのものを沢山持たせて貰ったので、心配は無いが、掃除や細々としたことはしなくてはならない。

「何か考えなければならないだろうな。ここに来て貰える人を探さないと」

「信用のおける人は中々居ないわ。このままでも私は一向に構わないのよ」

「いや、これからは公爵夫人として、仕事が山積みになる。ここを掃除する時間も惜しくなる」

 私達はその夜から本当の夫婦になれた。レオンは魔力庫を消し、真面目な顔で事に当たった。

 数日魔女の家で過ごし、私を置いて先にルーベンス領へレオンは転移していった。

「ルーベンス領は今は冬だ。雪が降っているかも知れない。彼方の状況が落ち着いたら迎えに来る」

 レオンはまだルーベンス領には信用のおける人がいないだろうと考えているようだった。あそこはマーガレットの実家だ。ツェッペリン公爵の家臣がそのまま残っているのだ。そんなところへはサラを連れていけないというのだ。

 でも、レオンは大丈夫なの? 少し不安だ。

 私は闇の収斂をして一週間過ごした。今まで収斂をすると魔宝石が二〇個以上も出来ていたが、今回は20個しか出来ていない。きっと少なくなった数個は結界の維持に使われているのだろう。

「こんなに魔力を使う結界は、一年は持たないのでは?」

 何かもう少し魔力を節約できない物か。書庫に籠もってレオンが迎えに来るまで魔道具の本を読みふけることになった。

 森には人間が入れない結界が張られている。規模が大きすぎて魔力が多く取られているようだ。

 レオンが張った結界は空属性のようだ。闇に変えればもう少し節約できないだろうか。小島には魔獣が入れないように闇の結界が張られていた。百年経っても魔力が持った結界だ。もしかすれば、闇の方が効率が良いのでは無いだろうか。私の結界も殆ど魔力を消費しない。闇の結界は、周りから魔力を吸い取って利用しているのだ。

 精神魔法の本を読んでいると面白い記述を見付けた。

「人の精神に介入して忌避感を与える精神魔法」

 これはごく少量の魔力しか使わない。何となくここに居たくない感じにさせる魔法だ。以前の世界で、若者にしか聞こえないモスキート音の事を思い出した。あんな感じなのか?

 もう一つは認識阻害。これも面白い、目の前にある物が分からなくなる魔法だった。

 レオンが来たら相談してみよう。今変えてしまって、レオンが入れなくなったら大変だ。

 キンちゃんと一緒に森を見廻ったりキンボウと戯れたりして三週間が経ったがまだレオンは来なかった。

「何かあったの? 少しでも帰って来るかと思ったのに」

 心配になって、森の北側にキンちゃんと一緒にゆっくり見回りに行って見た。一週間ほどで森の結界まで来たが通り抜けられない。魔道具を調整して結界を解けば何とかなるかも知れないが、また張り直さなければならないだろう。レオンは転移でしか入れないようにしたようだ。これでは私は、まるで籠の中の鳥では無いか。私は閉じ込められていることに苛立ちを感じた。

「私も転移が使えれば良かったのに・・・・・私の親和性の二番目が空属性だったわ。何とかなるかも知れない」

遠くまでは無理でも、目の前の結界の外へ行ければ良いのだ。一メートルだけでも転移出来れば結界を通り抜けることが出来る。

「どうせやることも無いんだし、この際空間魔法のレベル上げをしてみよう」


       ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 レオンは、公爵領を立て直すにはどうするかと悩んでいた。

 この公爵領の周りには、五つの男爵領と1つの子爵領があり、子爵には絶対服従の体制を取っているようだった。公爵がそれを束ねているはずだったが、殆ど独立して自分達の領を運営しているようだった。それ自体は問題では無いが、公爵の威厳が全く通じない。

「今まで一体どのような運営の仕方をしていたのだ。これでは子爵の独立国家では無いか」

 税だけは納めているが後のことは全くこちらの言うことを聞かない者達ばかりだった。このままでも領は運営できるだろうが、上意下達が出来ないのでは、公爵はお飾りでしかない。

 ゴードンには、ツェッペリン公爵の家臣ばかりが残っている領地だから気を付けろとは言われたが、確かに、やり辛さはあるな。

 他にもゴードンには、

「これは、レオンを繋ぎ止めるための処置ではない。目の届かぬ領地の問題をお前に肩代わりして貰うためなのだ。王といえども万能ではない。常に眼を光らせていなければ国はたちどころに瓦解してしまうのだ。どうか力を貸して欲しい。この通りだ」そう言ってゴードンは頭を下げた。

 彼一人に重責を押し付けようとしていた自分が恥ずかしくなった。レオンは精一杯、国の為にここを立て直そうと決めたのだ。

 魔法騎士を護衛として付けてくれる予定だ。あと二ヶ月もすればゴードンと一緒にここへ到着する予定だった。レオンは本来なら彼等と一緒にここへ来る予定だったが、サラと過ごす時間が欲しかったし、これ以上ゴードンの処にサラを置いておきたくなかったのもある。転移が使える自分が先に行って領を視察すると、ゴードンには言っておいた。

 この現状を見て余りのひどさに頭を抱える事になったのだ。

 ここを任せていた代官は辞めて貰った。不正をして、私腹を肥やしていた。隠す事もせず、平気な顔をして僕に意見を言いながら精神魔法を使おうとしてきた。精神魔法が使える珍しい闇の使い手だった。マーガレットとの繋がりがあったのだろうか。僕に精神魔法が効かないと分ると闇の影に隠れて素早く逃げて行方知れずになっている。捕らえて、何処で精神魔法を覚えたのか問いただしかったが、逃げ足が速く一歩及ばなかった。

 貴族達は、他国の侵入の危険が無いせいか緩みきっている。王都にいる貴族達よりも贅沢で、毎夜夜会を開き領民の生活など気に掛けていない。

 広い領地を見廻りながら、領民の生活を観察してみると、税に苦しんでいるようだ。サラのお陰で土地が元に戻っているはずなのに、帳簿を見ると未だに大量の食料を輸入して、開墾はしていないようだ。若しかすると、まだ、土地が復活したことを分かっていないかも知れない。貴族達は自分達の土地で採れたものを食べようとしないのだ。瘴気が混じって健康に悪いと思い込みすぎているようだ。民は食べているようだが。

 レオンがいくら大丈夫になったと言っても聞く耳を持たない。

「公爵様はまだお若くていらっしゃるから、物を知らないのは仕方ありませんな。昔から我が国の物は食べれば危険な事ぐらい常識ですぞ」

 王都から遠く離れたこの地は情報が途絶えているようだ。ゴードンの威光もここには通じていない。王族を馬鹿にしている節がある。これはツェッペリン公爵の影響もあるかも知れない。

 これでは埒があかない。こんな処にサラを連れてはこられない。

 一体、どこをどうすれば良いのだ。総てがちぐはぐで、何処から直していけば良いのか全く分からない。

 レオンは、長くなりすぎた不在にサラが心配しているだろうと、一旦、魔女の家に転移したが、サラはいなくなっていて、置き手紙が置いてあった。

『万が一行き違いになっていたらごめんなさい。転移が少し使える様になりました。結界を抜けてルーベンス領へ行きます。彼方で会いましょう。サラ』

「サラが一人でユーベンス領に行ったのか? 何故待っていてくれなかった。サラ、あそこはまだ大変な状況なんだ」

 レオンは急いで領主館に転移した。そしてサラを探しに行かねばならない。

自室に着いたとき違和感があった。誰か居るのか? 直後、頭に衝撃が走った。僕は気を失なっていたようだ。気が付くと目の前に、逃げていった筈の代官がいた。

「これから貴方は私の奴隷だ。言うことを聞いて大人しくするんだな」

 レオンの首には隷属の首輪が嵌められていた。


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 私は転移が出来る様になった。キンちゃんに手伝ってもらいレベルが上がったのだ。ほんの一メートルだがこの後またレベルを上げていけば、レオンのように転移出来るようになれるだろう。時間は掛かるだろうけど。兎に角今は、この籠から抜け出したい。目の前の森に転移して無事に結界を抜けた。

「よし、後はここをずっと領都まで行けば良いだけ」

 金竜がまた付いてこようとしたけれど、

「ダメよ!この前みたいに人間に見られたら騒ぎになるでしょう。キンちゃんは森の奥で待っていて」

 どんどん空歩で飛んでいく。空間魔法のレベルが上がり、空歩はかなり進歩した。

 面白くなって空中四メートルまで上がり、そこをすいすいと空中を滑るように進んだ。

「羽なんか無くても飛べるのね。こんなに使える魔法だったとは」

 特にサラには魔力効率が良い闇の属性が有るのだ。使う側から魔力が補充される為長いこと飛ぶことが出来た。だが、下に見えている土地には人が住んでいる形跡が無かった。

「こんなに土地が開けているのに誰も耕作していない。おかしい・・・・・」

 一日飛んで、野営し、また飛ぶを繰り返し、領都の石塀が見えてきた。

「あそこがレオンのいる領都ね。レオンは私がここに来て、驚くでしょうね」

領都は森から離れた場所にあった。北側を山脈に囲われている。

「山には鉱山があるって聞いていたけど、何の鉱脈だろう。金とか銀とか採れるのかしら。それともミスリルや魔鉄鉱なんかもある? サラとしてこの世界で生きてきたのに、鉱物の知識が無かった。

「私の剣は鉄? 素材を聞いておけば良かった」

 領都には、冒険者証を見せて簡単に入る事が出来た。冒険者証とはなんと便利な物だろう。

「一応冒険者ギルドも見ておくか」

 ギルドの中へ入っていくと身体の大きな冒険者が、突っかかってきた。

「おい、小僧。これから冒険者になるのか? 俺が少し揉んでやるか!」

 相当酔っ払っているようだ。

 結界を張っているところに、でかい男がまともに拳を叩きつけたからたまらない。

 グシャッと言う音と共に彼の拳は開放骨折してしまった。中指から小骨が突き出ている。ドンダケ馬鹿力なのよ。万が一結界が無かったら私の鼻は顔にめり込んでしまうところだった。

「君! 無礼じゃ無いか。いきなり殴りかかってきて。ここのギルドは管理が出来て居ないのじゃぁ無いのか!」

 少し高飛車に言ってみる。私の冒険者の服装は相当高価な物に買い換えている。 私が怒りを表わしたので、受付にいた事務員の男が慌てて二階へ走り上がっていく。

 事務員に連れてこられたのはギルド長かそれに準ずる者だろう。

「失礼だが、君はどこの冒険者だ? それとも貴族の無聊か?」

「私はイースランの冒険者だ。この男がいきなり殴りかかってきたのだ。ここのギルドはどうなっている?」

「ガレンでは無いか。また酔っ払っているのか。ん? ガレンが怪我をしているようだが、これは君がやったのか?」

「いや、勝手にこうなった。酔っ払って、殴る場所を間違えたようだ。私は光が使える。直してやっても良いが、また同じ事をされると困る。きちんと言い聞かせて置いてくれ」

「光魔法を! 分かった言い聞かせておく。何とか直してやってくれ。これでも、ここの上級冒険者なのだ。使えなくなると困るのだ」

 私はヒールを掛けてやろうとしたがこのままでは、おかしな形に固まって仕舞うのでは無いか? 思い切って掌を伸ばして元の位置に骨が来るように動かした。

「ウオオオオーッ!いでええーーー!」

 痛がって暴れるガレンに、エクストラヒールを大盤振る舞いしてやる。

 すると、酔いまで覚めてしまったようだ。途端にシュンとして申し訳なさそうにしていた。「すまねぇ、またやっちまったようだな俺は・・・・・」

 酒を飲むと人が変わって仕舞うタイプのようだった。彼には良い闇魔法がある。催眠魔法だ。催眠術に掛けてお酒を飲み過ぎないように暗示を掛けてやれば段々良くなるはずだ。その内試してあげよう。


 ギルド長に呼ばれ、応接室に通されて謝罪を受けた。そして、

「折り入って話があるんだが。君は光魔法が使える希少な冒険者だ。然もかなりの使い手だ。ここで暫く手伝って欲しいことがあるのだが。どうだろうか。金ははずむし宿もこちらで用意しよう」

 困ったわ。レオンに会いに行かないと、レオンが大変な目に遭っているかも知れないのに。

「実は鉱山で大きな事故があって怪我人が沢山居るんだ。こちらに運べない位の怪我だ。少しの間だけで良い。頼む」

 聞けば、領主に申請しても何も手を打ってくれないのだとか。

――レオンがそんな対応をするわけ無いわ。何かこの領はおかしな事になっているのでは無いかしら。

「良いですよ。でも三日だけ待って貰えないか。用事を片付ける手から、またここに来る」

「・・・・・そうか、怪我人に待って貰うしか無さそうだな」

 そうか。大変な怪我人がいるんだもの。今すぐいってあげた方がいいのよね。レオンには心配掛けるけど先に怪我人の手当てをした方がいいか。

「分かりました。今すぐに行きましょう。ここからは離れて居るんですか?」

「そうか! 今すぐ行ってくれるか。ここから二日ほどの場所だが、馬車と、護衛を手配する」

 場所が分かれば一人で言った方が早いが、地理に不案内だから、仕方がないか。

「馬だけで良いです。馬車では時間が掛かりすぎます。護衛も体力があり、馬に乗れる人を付けてください」

「分かった君の言う通りにしよう。こちらもその方が助かる」






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