16 転移が使える?
「魔宝石がこんなに・・・・・」
「凄いでしょう。金竜にも上げないといけないけど。魔女はこれをヤーガイ王国へ売って生活していたようよ。ヤーガイでは錬金術に使うのでしょう?」
「今では錬金術も廃れている。素材が昔ほど見付からないためだ。昔の魔道具より性能が落ちていると聞いた。原因はこれだろうな」
「レオンは錬金術にも造詣が深いんでしょう。頭も良いのね。先祖代々の魔女の残した本を読んでどうだった?」
「凄く勉強になった。古代文字まで書けるようになったし。その内に闇の書籍に纏めてみるよ」
闇には他にも使い方があったようだ。魔女はまだ若く修行の途中だった。彼女の死んだ年齢は三十五歳だった。母親は百五十歳まで生きたが病気になって死んだ。彼女を産んだのは百三十五歳の頃だそうだ。その前の魔女は三百歳まで生きたようだった。魔女の日記には王子との密会まで書かれていた。
王子は十五歳の若さだったが一人でここに居て寂しかった魔女は王子に恋をしてしまった。王子に何時も魔宝石を貢いでいたらしい。魔女は妊娠したことを王子に話し、そのせいで毒殺されたようだった。何ともやりきれないことだ。
「私ここに一生居なければダメかもね。魔の森を維持しなければ」
「大丈夫だ。君に言われていた転移が使える様になれば、闇の収斂をするときだけ来れば良くなる」
「出来そうなの?」
「・・・・・まだ、だけど少しなら使える様になった」
レオンの転移は五メートル先に出来る様になったそうだ。後はレベルを上げれば良いだけだ。まだここに来てから一年しか経っていない。きっとここを出る頃には転移で帰れるようになるはずだ。
闇の収斂は毎月やっている。森の魔獣の見回りからゴンが帰ってきて報告してくれたところによると、魔獣の毒が弱くなっているという。瘴気が薄れてきているようだ。もう少し頑張れば、ヤーガイの作物は危険ではなくなるのではないか?
魔宝石が二百個を超える程集まってしまった。ひとつひとつも大きくなってきた。金竜に食べさせてもこれだけ残ったのだ。これで錬金術を試して見ても良いかも知れない。時間はタップリあるのだから。
「レオン、もうそろそろ本当の夫婦として生活しない?」
あれをしようと誘ってみる。私の胸はこれ以上成長しないみたいだし、レオンならこの胸でも許してくれるだろう。レオンはなかなか私を抱こうとしなかった。何か理由があるの? やっぱり胸が原因かしら。
「そうだね、今夜から同じ部屋で休もう。でもその前にサラに確認しておくことがあるんだ」
二人で見つめ合って良い感じになっていると外で騒がしく金竜が啼いている。
「なにかあった?」
森へ行って見ると、金竜が騎士達に取り囲まれて大変な事になっている。
「辞めなさい!」
金竜を闇の結界で守り、騎士達に『威嚇』を放つ。この頃覚えた技だ。
『威圧』はもう少しで出来そうだ。レオンは簡単にできているのに、私には威厳が足りないせいか、なかなか上達しないのだ。
レオンも騎士達を睨み、『王者の威圧』を放つ。
「お前達はヤーガイの騎士達だな。誰の指示でこんな無体なことをしている!」
レオンを見た騎士達は一斉に言葉を失い跪き始めた。後ろから美しい鬼が現れた。
「レオパルド! 生きていたの?」
マーガレットが何故ここに?
騎士達は総勢三十人だった。彼等は屋敷の周りにテントを張り休んでいる。
私は傷を負った騎士達にヒールを掛けて癒やしてやった。でも、この騎士達はゴードンを捕らえていた人達が混じっている。私は警戒した。
マーガレットは屋敷をしげしげと見まわしながら、応接間に入ってきた。
「こんな処に屋敷が有るとは、狐につままれて居るの?」
「この森の王だった魔女の持ち物です。残された書物によると、ヤーガイ国が出来るずっと前から、ここに住んでいたようです。本来の森の持ち主魔女の一族は死に絶えてしまいました。最後の生き残りがヤーガイの王子に殺されて仕舞いました。その呪いが今の王族に降りかかったようです」
レオンが今まで書物を読んで調べた結果をマーガレットに話して聞かせている。
「魔女はこの森に生きる亜人のような存在だった。森から出れば弱ってしまう生きものだったようです。この森を癒やし、副産物として生れる魔宝石を、人を雇ってヤーガイへ売っていましたが、それに目を付けた王子が魔女を籠絡した。そして殺した。酷いことをした物です。マーガレット、私達はその呪いを甘んじて受けなければならない。このまま呪いと共に生きていくしか無いみたいだ」
「そうなの、残念ね。でも、この場所を偶然見付けたなんて本当の事?」
「マーガレットだって、ここに偶然来たんだろう? 同じだよ。でもこんな処に何故来た?」
「ふん、世間から隔絶されて世の中の動きが変わったことも分からないのね。今、誰がヤーガイ王となっているのは知っている? レオパルド」
「多分ゴードンでしょう。貴方の思わく通りになって良かったじゃないですか。元から僕らを排除するつもりだったのでしょう?」
「そうよ、でも今は私、追われているの。ゴードンに処刑されそうになって逃げてきたのよ。匿ってくれるでしょう? 同じ王族同士、助けて欲しいわ」
私はマーガレットの、図々しさに呆れてしまった。ゴードンにしたことや、レオン達を殺そうとしたことを、全く悪いと思っていない。それにしてもレオンは落ち着いている。何を考えているのか。下手に私が口を出してレオンの邪魔をしてはいけない。私はじっと彼等の話の聞き役に回っている。
「マーガレット、貴方は、闇の使い手だと聞いたことがあります。本当ですか?」
――え? マーガレットが?
「まあ、誰から聞いたの? ああ、もしかして貴方のメイドだった子? あの子は直ぐにお払い箱になったみたいだし、そこまで話しているとは思わなかったわ」
「彼女も闇の使い手でした。僕に隷属魔法を掛けようとして返り討ちにしました。彼女は貴方に使い方を教わったと言っていましたよ。でも僕はそれを信じなかった。貴方がそんなことをするとは思えなかったからです。」
「お人好しね、私がメイドをけしかけたとは考えなかったの?」
「考えませんでした。その後直ぐに貴方に誘拐されて、メイドの言ったことは嘘ではなかったと焦ったんですが、後の祭りでした」
――隷属魔法の使い手ですって! ゴードンに仕掛けたのは、マーガレットだった。あれほどの剣の使い手が掴まるはずはなかったのだ。油断していた隙を狙われたのね。
「でも、あなた方、私のお陰でいい仲になれたんじゃ無いの? 感謝して貰いたいわ」
「ええ、本当に感謝していますよ。だから貴方にお礼をしようと考えています。呪いを解いてあげましょう「闇の魔器吸収」」
「!」
――! 何を言っているのレオン。今さっき呪いを解くことは出来ないって言ったばかりじゃ無い!
マーガレットの呪いは見た目では分からないくらいだ。何も変わったようには見えない。
「貴方、今なにをしたの! 貴方、まさか闇魔法を使えると言うこと?」
「ええ、拙いですが、少しは使えます。さあ、貴方の呪いは解けました。貴方の子どもには呪いは受け継がれないと言うことです。お礼は要りません」
――マーガレットは突然ドレスを脱ぎ始め背中を触っている。何してるの? 大きな胸が丸見えだ。クッ羨ましすぎる。
「チョット! 何も変わらないわ。呪いを消したなんて、嘘をついて!「闇の隷属」」
「もう貴方には魔力が無くなった。魔力の受け皿がなくなったんです。呪いの元は消しました。身体は元には戻りませんよ、当然でしょう」
マーガレットの魔力が無くなった途端、外にいた騎士達が騒ぎ出した。
隷属されていた騎士達は術が解け、レオンに言われて素直にマーガレットを連れて森を出て行くことになった。国王に犯罪者を受け渡すためだ。
レオンに闇の他の使い方があるとは聞いていたが、まさかこんな使い方まであったとは。本当にレオンは勉強熱心だ。
「呪いを、本当の意味では解けなかったが、子どもには受け継がれない方法は分かった。でも、僕はこれを自分にしたくない。サラ、僕達の子どもに呪いを継がせることになるがそれでも良いかい?」
「ええ、呪いだなんて思わないで。恩恵だと思いましょう。もし豚ちゃんみたいな子どもが出来ても精一杯育てるわ」
「ははは、本当に君は、何て素敵なんだ」
そう言って私を抱き寄せた。だが、レオンはどうしても呪いを解きたい。安心して君と子どもを作れるようになるまで、待って欲しいと言った。
私達はその夜、本当の夫婦のように一緒のベッドには寝たが夫婦にはならなかった。レオンったら、我慢強過ぎる! それともやはり私に魅力が無いから? 胸がないから?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここに来て二年が過ぎた頃、レオンは転移を物に出来た。レオンはもう十九歳になった。身長も伸びが止って百九十㎝で落ち着いたようだ。私は十七歳になった。とっくに成長は止っている、胸も・・・・・。
「少しだけマルス領に帰ってみよう。ダンカンがどうしているか気になる」
「いってらっしゃい。早く帰ってきてね」
「ああ、若しかするとダンカンを連れてくるかも知れないが。良いかい?」
「え! 絶対連れてきて。お願いよ」
私の推しはどれくらい成長したのか。もう抱っこはさせては貰えないだろうか。少しだけ耳を触らせて貰えないだろうか。
「サラ、もしかして、ダンカンもゴードンみたいに好きになって仕舞った?」
「そうよ・・・・推しだもの。なかなかこの気持ちは消えないでしょうね」
「そうか? 僕の事はどう思っているの?」
「貴方のことは推しとは思わない。推しは遠くから応援する物よ。愛する人はずっと側にいてくれなけりゃあダメなのよ」
「そうか、それなら安心だ。行ってくるよ」
レオンは私に優しくキスをして、マルス領へ転移した。いつ頃帰ってこられるだろう。暫くはマルスで父達に話もあるだろうし、魔獣の素材を何とかしなければならないだろう。レオンも時空間収納を覚えたから荷物を一杯持って行ったのだ。世間の情勢も気になる。それを探ってくるとすれば、二週間は帰ってこられないかも知れない。
「ケッ、相変わらずお熱いこって。あっしらもそろそろマルスへ帰れませんかね。残してきた家族が居ますんで」
そうね、ゴン達も帰してあげないと。もう収斂は十分だろう。三年の予定だったけど、森が後退してきたようだ。魔獣は相変わらず多いが、危険な毒持ちも少なくなったようだし、ここを離れても良いかもしれない。
金竜もこの頃魔宝石を与えても食べなくなった。十分補給したお陰で身体も元に戻って必要無くなったようだ。
私は森の見回りをすることにした。レオンがいない淋しさを紛らわすのに丁度良い。あと、自分が努力した結果をこの目で見たかった。何時も、ゴン達に見回りをして貰っていた。彼等には結界を張ってやるので心配は要らないが、それでも自分の目で見なければいけないように思う。
久し振りに冒険者の格好をして、森に出てみる。金竜が心配して付いてきた。
「大丈夫よ、キンちゃんはここを守っていてね」
そう言って帰って貰った。私の結界はもう黒くなくなった。いくら強くしても透明だ。結界のレベルの先がまだあるなんてビックリだ。
そして空歩もレオンほどでは無いが十分飛べるようになっている。飛ぶと言っても木の上を飛ぶまでは出来ない。木をすり抜けてすいすいと一メートルくらいの高さを早く進めるようになったのだ。
だから森の入り口までは一週間ほどで着いてしまった。時速何キロくらいだろう。自転車よりは速いか? でも早すぎる。もしかして森がここまで後退したって事?
イースランの土地を見まわすと。一面麦の穂が金色に輝いていた。
「何てこと! 既に復活している」
ふらふらと麦畑を越えて、領都の方へ歩いて行った。三日の道のりだったが眠らずに歩き通した。全く眠くなかった。驚きすぎて神経が麻痺してしまったようだった
領都について、冒険者証を差し出すと問題なく領都に入れた。
「お前、間が悪いな。今は冒険者ギルドも休業だ。仕事など無いぞ。領都では祭りの準備で忙しい。その手伝いならあるかもな。それとも、女を引っかけに来たのか?」
私は、今でも男に見られているようだった。
「晒しで巻かなくても目立たない胸だものね! 貧乳で良かったわ、フン!」
宿のベッドに倒れ込み死んだように眠った。