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15 マーガレットの思惑 ゴードンの思惑

「ヤーガイ王国はいずれ、ツェレッペン家の者が継ぐことになる」

 祖父は昔から私にそう言って聞かせた。祖父は王族から臣下に落され、公爵の地位に就いた。祖父は先々代王の長男だった。だが、次男の呪いの方が少なく次男が王位を継ぐことになって仕舞ったのだ。その事をいつまでもグチグチと言っていた祖父はもう亡くなったが、彼の呪いは確かに気味の悪い物だった。心は人間だろうが豚のような見た目では国民に支持されなかっただろう。

 祖父の時代はまだ良かったのだ。呪いを持った王族は少なかったのだから。だが、この頃は王族の殆どが強い呪いを纏って生れる。側室を何人も抱え何十人も子をもうけても酷くなるばかりだった。その子らは始末されるようになったのだ。王族の数は激減してしまった。

 男子が特に酷い。女子は全く呪いが出ない場合もあると言うのに。その王族は魔力が少ないか全く持っていなかった。彼女らは隣国や、遠くに嫁がされていった。他国では呪いを持った者が生れないと知ったとき、貴族達は騒ぎ出した。

「王族は最早この国からいなくなって貰いたい。あなた方の血がこの地を呪っているのだ」

「家臣のくせに、何と言う者達だろう。王族はこの地の呪いを一手に引き受けてやっているのに」父はそう言うが本当だろうか?

 父は生まれは王族の血を継いではいるが魔法も呪いもない希有な存在だ。だが彼の子どもは総てが女で、男子が生れない。ツェッペリン領を継ぐのは長女に決まっているが、彼女の子も女だけだ。そして、公爵家には私しか魔法の使い手はいなかった。

 父が今言ったように王族は国の呪いを総て受け止めている。そう言う説も確かにあるのだが、隠れた説には、先々代の王が若い頃、魔の森で無体なことをしたというのもあるのだ。今となっては真実など意味をなさない。私の醜い身体を直す事は出来そうもないのだ。

 見た目は美しいと言われるが、背中一面に鱗がある。ゴードンとはそんな私でも身体を見せ合える仲だった。それが、あの馬鹿で無能な王によって取り上げられてしまうとは我慢ならなかった。コッソリ生んで置いた子どもが今役に立つ。ゴードンに知らせる時期が来た。

 マルス領に乗り込んで、ゴードンに子どもを産んで育てて居るというと、彼はあっさり帰ることを承諾してくれた。

 だがこの子は、彼が遠征へ行ったときに仕込んだ種だ。家臣を相手に選んだのは、この男なら呪いが出ないだろうと考えたからだ。勿論その家臣は消した。もう誰も真実を知るものはいない。

 子どもが大きくなってしまえば、ゴードンには分からなくなるだろう。そう考えて、万が一の保険として育てて居たのだ。

 子どもに魔力が無いのは誤算だった。だけどそれでも何とかなった。

 この子には呪いはなく、魔力も無いが、男の子だ。この子が王位に就けば呪いを持った子どもは生れなくなるのでは? 父に子どものことを打ち明けると、大いに喜んで、かねてよりの計画を進めようと、勢い込んだ。

 私達は王宮に乗り込み王を拘束した。王の命はもう風前の灯火だ。消されることは決定事項だった。

 問題はゴードンだった。「何としても王位は継げない。私は王の家臣だ」と言って聞かなかったのだ。このままでは反対勢力に取り込まれてしまう。仕方なくゴードンには隷属の首輪を仕込んだ。

 周りには秘密にしているが、実は私は闇の使い手だ。闇と土が生まれ持っての属性で、後に火、水、そして雷と次々に属性を増やしていったが、女の身では魔獣を倒しに行けない。貴族の女が男の真似などする事は絶対許さないと父に言われたのだ。

「何の為にお前をゴードンにやったと思っている? ゴードンが総て片を付けてくれる。彼奴がいれば安泰だ。お前はゴードンを繋ぎ止めておけば良い」

 結果、増えすぎた属性はどれも初級の端に引っかかる程度しか使いこなせない。でも闇には親和性がある。ちまちまと弱い魔獣を隠れて倒して、隷属魔法が使えるようになっているのだ。

 ゴードンが安心して私の隣に寝ている間にやったので簡単だった。起き出して彼は驚いていたが、誰がやったかは分からないようだ。父の手の者だとでも考えているようだった。馬鹿な男。私を疑いもしないなんて。彼には闇属性のことは伏せていたからだろうけど。でも、彼の力は侮れない。彼をいくら術で縛っても効き目は少なかった。

 もう、後には引けない。父は王とその子を始末してゴードンに罪を被ってもらい、ほとぼりが冷めたら、私の子を王位に付けると言っていた。

 折角取り戻したゴードンだが、もう仕方がないだろう。私は王の母親として生きることにしたのだ。男どもに堂々と命令できる大きな権力が手に入るのよ。


「王子達が逃げただと!」父が激怒している。

 毒を盛ってもなかなか死ない王に隷属の首輪をさせ、首輪には家臣の前で自害するように刻印して置いた。王はゴードンと違い呆気なく命令に従った。

 王のくせにレベルが低いせいだ。全く鍛えていない。折角男に生れたのに何もしていなかった馬鹿な王様。これから王子を始末しようと言う頃、王子達がいなくなってしまった。魔の森ヘ逃げ込んだようだ。家臣を魔の森へ行かせ、ついでにゴードンを森の塔に閉じ込めて貰うことにした。隷属が思うように進まなかったせいもあるが、このままではゴードンは父に消されると恐れたからだ。

 私はまだ、ゴードンに未練が残っていたらしい。

 だが、そのゴードンがいなくなった。塔からどうやって逃げ出したのか。家臣達は謎の闇使いのせいだと言ったが、そんな魔法使いなど聞いたこともない。闇の大魔法は、大昔、森の魔女が秘匿していて、魔女の失踪と同時に途絶えて仕舞った。私達が使えるのは精々が闇の影か闇の隷属だけ。でも私は、隷属のレベルは上げることが出来ている。ふつうの騎士なら幾らでも隷属できるのだ。今居る私の騎士達は総て隷属させている。裏切らない最高の家臣だ。

「自分達の不始末を、いい加減な言い訳で逃れようとするとは、見下げ果てた騎士達です。貴方たち、処分は免れませんよ」

 まあ、適当にこうして脅しておけば良いだろう。飴と鞭の使い方は慎重にしなければならない。

 口々に抗議をしている騎士達を尻目に、ゴードンはどこへ行ったのだろうと考えていた。

 その数ヶ月後、ゴードンが王宮へ軍を率いて乗り込むまで、私達は、のんびり次の手を考えて過ごしていた。


 魔法騎士団軍を率いてきたゴードンに、私達は捕らえられ、牢に入れられてしまった。

 ゴードンは王子達の行方を懸命に探しているらしい。私は父と二人、王族用の豪華な檻に入れられのんびりお茶を呑んでいる。

「彼が王子を探しても見付からないと言うことは、もう王子達は死んでいるのでしょう」

 あの気弱な王子が魔の森で生きていけるはずがない。空を飛ぶしか能が無い王子だもの。もう一方は犬っころだし。私の息子が王として相応しいのよ。

「お前の魔法で何とかならぬのか?」

「無理を言って貰っては困りますわ。私がレベル上げをするのを止めたのは父上でしょう?」

「ふん、お前は欲をかきすぎて、属性を増やしすぎたのだ」

「お父様こそ、魔法が使えないなんて、ヤーガイの王族としては致命的ですわね」

「お前のような、行遅れの化け物には言われたくないわ!」

「・・・・・」

 何時ものことだわ。気にしてはいけない。こんなのでも一応は親だ。面倒になったら隷属してしまえば良いだけだ。ゴードンを早くから婚約者にして、こちらに取り込もうとしたがそれも失敗してしまったし、お父様には元々人の上に立つ資格はなかったのよ。

 一介の臣下として大人しくしているべきだったわね。

 そろそろゴードンがここへやってくる頃だわ。何とか助かる道はないかしら。まだ隷属の首輪をしているところを見ると、術は解けていない。

 もう一度闇の魔法で刻印し直せば上手くいくかも知れない。


「マーガレット、ここの居心地は如何かな? 不自由はしていないか」

「まあ、至れり尽くせりですわ。ここから出していただけるのでしたらもっと、幸せになれるかも。私達の処分は決まりまして。ゴードン王?」

「王ではない。公爵は処刑。親族は連座だ。君と君の子どもはまだ様子を見ることになっている。ところで、王子達を本当に殺してはいないのだな。答えによってはここから出られるやも知れんぞ」

「殺すなどと。恐ろしいことはしておりません。先王も自害したのですよ」

「・・・・・そうか。そう言い逃れをするのだな。では君らも処刑されることになる」

「・・・・待ってゴードン。待ちなさい「闇の隷属!」私の言うことを効きなさい!ここから出しなさい!」

 ゴードンは私を牢から出した。良かった。術が効いている。

「やっと術が掛かったわ。ゴードン私をここから逃し、王子殺しの罪を被って貴方は自害しなさい!」

「・・・・・お前が闇の使い手だったとは。知らなかったよ」

「!・・・・・ゴードン・・・・・術が効かない?」

「もっとレベルを上げるべきだな。それも時間が無いか。残念だマーガレット。まさか君に裏切られていたとは思わなかった」


      ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 マーガレットは処刑するしかないだろう。昔からの腐れ縁だが、お互い呪いを受けた身だ。半ば諦めの取り決めだった。その内に結婚はすると言ってもなかなか踏み切れなかったのは、結婚すると言うことに意味が見いだせなかった。

 私は魔獣を倒すために走り回らなければならなかったし、彼女は私をせかさなかった。自由に他の男と関係を持っていたのは知っていたし、別に構わなかったのだ。

 子をなせば、殺さなければならないという忌避があったのもある。だが彼女は子を産んだ。それが普通の子どもだったことに驚きもしたが、自分の子ではないと薄々感ずいていたが、それでも仕方ないと思ったのだ。潮時だと考えたのだ。

 しかし、公爵にそそのかされたのか、謀反を企んでいたとは。

「王子達は本当に死んでしまったのか・・・・・」

「ゴードン様。こうなったらあなた様が王の名乗りを正式に上げてください。そうしなければ、ヤーガイは混乱して纏まりが付かなくなります」

「・・・・・。あと半年。半年待ってそれでもダメならそうしよう」

 王族に拘る必要はあるだろうか。誰か他の有力貴族でもいいのでは無いか。だが今そうすれば国は混乱するだろう。どの貴族がなったとしても不満が残り、結局国は混乱し荒れてしまう。難儀なことだ。

 半年が過ぎても王子達は見付からなかった。王子達はもう死んでしまったのだ。これからは国の方針を決めていかねばならない。

「私が王に名乗りをあげる。だが一代限りとする。次代は議会を開きそこで選出することとすればどうだろうか。王族としての世襲制は廃止したい」

 国の重鎮を集め私の考えを述べると、重鎮達は

「今すぐに決めることはない。王子達が生きておるかもしれん。そうなればまた話が変わる。今、国民は君を国王として崇めておるぞ。そんな中この様な事を知らされれば、暴動が起きるやもしれんしな」

 確かに、王子が死んだと言う確証はまだ無かった。私が勝手に決めた後で王子が現れれば問題が複雑になって仕舞うだろう。

 疑心暗鬼に陥っていた貴族達は、裏で動いていた大本が処刑されることとなり落ち着いてきた。

 公爵家は総て連座させらる事が決まった。マーガレットの子だけは何とか守ることが出来たが。この子の将来をどうするかも問題だ。

 公爵の領地は暫く代官に任せておけば何とかなるだろうが。マーガレットの子に継がせるわけには行かないだろう。あの領地にはツェッペリン公爵の家臣がまだ相当数いるのだ。また謀反を起こされても困る。

 家臣総ての罪を暴くなど到底無理だ。領が立ちゆかなくなる。

「サラは今頃どうしているだろうな。落ち着いたらマルス領へ行ってみたい」

 お忍びで行くことにはなるだろうが。時間は取れるだろうか。今となってみれば、あのサラとの一時は楽しかった思い出だ。こんな俺でも大好きだと言ってくれたのだ。サラのお陰で隷属からも解放された。

 不思議な子ども・・・・・・いや、もう子どもではないのか。


 他国では私の事を魔王などと言う輩が出てきたそうだ。積極的に他国へ出向き、融和政策をまた復活しようとしたが、なかなか上手くいかない。国が混乱した時期が他国に警戒心を抱かせたようだ。

 国民の深刻な食糧問題にも頭が痛い。

 魔王呼ばわりは、私が頭に角を生やしているせいだ。今まで散々言われ続けてきたことだ。今更落ち込みはしない。

 私が国の王になってから、何故か作物に瘴気がなくなったという。国内の私の評判はうなぎ登りだ。他国が何と言おうが国民は私を支持してくれている。

 あの、広大な耕作地だったイースラン領が復活し始めた。サラとの婚姻でこうなるはずだったが、今となっては婚約を解消して良かったのかも知れない。マーガレットの暗躍が思いも掛けない結果に繋がったと言うことか?

「ゴードン王、マーガレットが逃げ出したと報告がありました!」

「何だと!」

 マーガレットはどこに消えた? いくら探しても見付からない。誰かの手引きがあったに違いない。全く面倒ごとがまた増えてしまった。

「ゴードン王、魔の森を探索してみませんか? あそこの旧王都に隠れている可能性があります」

「良し森に行って追い立てろ。女一人だと言って侮るな。隷属させらられた騎士達が一緒かもしれん! マーガレットは闇の使い手だと言うことを周知させておけ」


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