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14 ヤーガイの混乱

 やっと数ヶ月ぶりにマルス領へ帰ってきた。

 父は帰ってきた私を見て泣き崩れてしまった。もう、サラは死んで仕舞ったと考えていたようだ。

 助けに行きたくても、兵を連れて他国へは入れない。ヤーガイは、融和政策を撤回して、他国からの入国を制限し始めたせいもある。マルス領を放っては置けない、その狭間で揺れて気が狂いそうになっていたようだった。

 私の家庭教師のデリラはそんな父の支えになってくれていたらしい。いつの間にか二人の距離は縮まり、良い感じになっている。

――若しかすると、もしかするかも。素敵なカップルになりそう。

「お嬢様。ドレスを新調しなければダメですね」

 やはり私はまた背丈が伸びて今までのドレスは、つんつるてんになって仕舞っていた。でも、少し治せば、着られないこともないのだが、父が、

「デリラのも一緒に作ってあげなさい」と言ってきた。

 父はデリラに結婚を申し込むらしい。ドレスはその為の付箋か? それとも、生活がそれほど豊かではないデリラのために、気を遣って一緒に作ってやるためだろうか。それくらい、幾らでも私を出汁に使って貰って構わない。

 それはそれとして、以前にも増して私の監視は厳しくなった。当分はどこへも行けないだろう。領内の森でもダメになって仕舞った。

 偶に、ゴンやマツと一緒に領都を廻って店を見て歩くのだが、ゴンは

「あっし等はすんごく叱られたんですぜ。もう、黙って出かけてはダメですぞ」「そうです! おいら達の首が飛んでしまいやす」

そして、「俺等はお嬢様の監視です」と宣言されてしまった。

 まあ、当分は大人しくしているつもりだ。デリラが父の奥様になって落ち着いてから、父に闇魔法のことを話そう。そして、ヤーガイの国民の為なのだと説得して、堂々と魔の森へ行くことにする。

 そんな折、王都から兄のリオーネルがやってきた。

「お兄様随分お久しぶりです。お変わりありませんか?」

「サラも大きくなってしまって。別人かと思ったよ。もう大弓でも行けそうだな」

 また弓の稽古をさせられそうだ。もう私に弓は必要無いのだ。

「それより、結婚相手がお決まりになったそうですね。おめでとうございます。どちらの方ですか?」

「王様の紹介で、伯爵の次女だそうだ。一度しか会ったことは無いがこれで決まるだろう。私には断れない」

 そうだろうね。王様からの声が掛かった縁組みは決まったも同然だ。兄は父がデリラと結婚したらその後に結婚式をすると言っていた。

 でも、満更でもないところを見れば、良い人を紹介されたようだ。

 兄はコッソリ私に、

「デリラは妊娠しているようだ。結婚が早まったのはそのせいらしいぞ」

 と教えてくれた。もう手を付けていたか。でも、私の願いが叶いそうだ。赤ちゃんは男の子でありますように。

「跡継ぎが生れそうですね。楽しみです」

「サラはそれで良いのか? 男の子なら君は伯爵を継げなくなるんだぞ」

「私は初めから、伯爵なんて継ぎたくなかったんです。やっと自由になれると喜んでいるくらいなの」

「全くサラは、欲がないな。もし行き後れたら、私が面倒見てやるから心配要らない」

 嫌なこと言わないでよ、お兄様。独身主義ではないのだ。結婚はするつもりだ。いつかは・・・・・でも誰と?


「サラ、それは誠か?」

「ええ、私が直に見て聞いたことです。今まで黙っていてごめんなさい」

 兄が王都での噂を私達に話して聞かせた。それは私にとって、聞き捨てならない噂だった。だから、ゴードンの真実を父達に話して聞かせたのだ。ヤーガイの王都まで行っていたと父に知られることになって仕舞ったけれど、ゴードンが不利な立場に立たされているとなれば躊躇してはいられない。

「影からの報告では何も知らされなかったが、そんなことがあったとは。一体ヤーガイはどうなって居るんだ。王族に隷属魔法を掛けるとは」

「父上、王にこの事を知らせなければ。直ぐにここを発ちます」

「そうしてくれ、悪いな。結婚式に呼んで置いてお前が出られないとは」

 兄達にゴードンのことを話したけど、良かったのかしら。でも、ヤーガイの国がきな臭いと聞いて、居ても経っても居られなかったのだ。

 ゴードンは何も悪くないのに、総てゴードンがやったことのようにされてしまうのは、我慢ならなかった。

 ヤーガイの元王がゴードンに始末されてしまったのではないか、と言う。

 二人居る王子の消息も分からない。彼等も始末されたかも知れない。これでは、まるで簒奪したと言われても仕方ない。

「お兄様。多分ゴードンはもう行動を起こしていると思います。隷属は解けています。彼はマーガレット達を何とかすると言っていました。ゴードンは大丈夫かしら・・・・・」

「お前が心配することではない。ただ隣国の情勢はしっかり掴んでおかねば、こちらに飛び火することもあるのだ。情報とはとても大事なものなのだ。お前のお陰で、我が国アスレートが下手を打つことがなくなるだろう」

 アスレート国とヤーガイ国とは友好関係にある。万が一ゴードンを簒奪者として撃つ事を協力させられたら、大事になるのだと父は言った。

 兄は来て早々王都へ帰ってしまった。結婚式は内輪でこじんまり祝って終わった。それでもデリラは幸せそうな顔をしていたから、良かったのだろう。

 この頃私にも大人の兆しがあった。何て遅かったのか。後半年で十五歳になる頃、やっとだ。身長は百七十センチと大きくなったのに初潮が来ないのはどこか変なのかと考えていたが、遅かっただけのようだ。ほっと一安心だ。胸もチョットだけ膨らんできた。ヨシッ!どんどん膨らめ!

 もうそろそろデリラの赤ちゃんが生れそうだ。


 デリラの生んだ赤ちゃんは残念ながら女の子だった。直ぐに次を仕込んで欲しい。ロリコンパパは、非常に喜んでいる。気持ち悪い顔で、デレッとしていた。おしめを取り替えるのが望外の喜びなんだとか。本当に辞めて貰いたい。マンナは赤ん坊の面倒を見ていて、父を排除しようと必死だ。私には余りうるさく言わなくなった。良かった。

 私も行動を起こす時が来た。十五歳になったのだ。この世界では大人になったと言うことだ。胸も大きくなった。私にはそう感じられる。だから男装をするには胸を押さえないとだめだろう。晒しのような長い布を用意していつでも出発出来るように準備はしている。偶に晒しを巻く練習をするのだ。

 そこへマンナが入ってきて、

「押さえる必要はありますか? 殆ど分からない膨らみです」

 等とショッキングなことを言うのだ。まあ、何となくは察していた。晒しが不必要な膨らみではないかと。

 そんなある日、屋敷に乞食が現れた。汚らしい恰好の乞食で、子どもを連れている。黒いぼろ布を頭にかぶせられた子どもはまだ四歳くらいだ。

 可哀想になって、追い出されそうになっていた乞食を厩で綺麗にして貰おうと使用人に言いつけた。

 乞食は私にこう言った。

「サラ、久し振り。大きくなったね」

 何と乞食の格好をしていたのはレオンだった。


          ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「一年くらい森に潜んでいたんだ。だけど、それも難しくなった。ダンカンを連れて歩けば目立ってしまうし。仕方なく乞食の格好でここまで歩いてきた。サラに助けて貰いたくて」

 父やマンナ、デリラまで居る応接間で、話を聞くことになったのだ。

 ダンカンというのは第二王子だ。暫く王宮に二人は軟禁されていたらしい。そして、元王様が家臣の目の前で亡くなった。自害したと言うことだったが、本当のところ分からないと言う。このままでは危険だと悟り、ダンカンを連れて王宮を抜け出したのだという。

「森でレベル上げをしようとしたんだけど、ダンカンを一人にしておけなくて、ずっと面倒を見ていたんだ。この頃メイドはダンカンのことは見て見ぬ振りをするからね。食事も与えられないと思った」

 ダンカンの耳は犬のようだった。尻尾まである。顔の部分を残して体中総てふわふわの毛で被われていた。後は普通の人間だが、これでは目立ってしまうのもうなずける。

 ダンカンはまるでラノベに登場する獣人のようだ。可愛すぎる。私の変態趣味と言われそうだが、胸にズキューンと来て仕舞った。耳と尻尾を除けば、レオンに生き写しだ。黄緑色の可愛い尻尾にふわふわの髪の毛、そしてピンと立った耳。目の色だけは金色だ。

「あの・・・・・抱っこしてもいい?」

「え?良いけど・・・気味悪くないかい?」

「ぜっんぜん可愛すぎて、食べちゃいたい!」

 私がダンカンを抱き上げると、始めダンカンは身体を堅くして固まっていたが、抱っこして髪の毛や耳を、耳を!触ると大人しく触らせてくれた。尻尾も触ってしまった。しっぽを触るとくすぐったいのかもじもじしていた。か、可愛い!

「やっぱり、サラは変わっている。僕やゴードンそしてダンカンまで平気で好きになってくれるんだね」

「なんで? 普通に可愛いじゃない。これこそ異世界に来た甲斐があるってもんよ。良かったアー。こんな可愛い人間に出会えて。一番可愛いのは何と言ってもダンカンよ」

 父やマンナ、デリラは私が何を言っているんだと言う顔をして見ている。失敗した。ついレオンがいるから安心して言ってしまった。まあ、レオン以外の人には訳が分からないだろう。

 私の押しが変わって仕舞いそうだ。側でデリラも、もじもじしている。もしかしてデリラも、けもなー? デリラにそっとダンカンを預けると、早速抱っこして顔を髪の毛に埋めてクンクンし始めた。分かる、それしたいよねー。

 デリラの方がダンカンはお気に召したようだ。きっとおっぱいの臭いがするのだろう。暫くすると安心したのか眠ってしまった。

「これから、僕は魔の森へ行って、レベルを上げに行きたいと思っている。問題はダンカンだ。だから・・・」「分かりました。私に任せてちゃんとお世話させていただきます。こんなに可愛い王子様のお世話が出来るなんて。望外の喜びです。私は幸せです」

 デリラが食い気味に言っている。父は考え込んでいる。そして私は、遂に切出す決心をした。

「お父様。実は・・・・」

 父に闇の魔法のことを詳しく聞かせた。そして闇の収斂は今のところ私にしか出来ないと言うことも。

「お前とレオパルド王子はそんなにレベルが高いのか? 知らなかった。二人が一緒なら、魔の森も危険は無いんだな」

「そうよ、闇の結界があれば何もしなくても良いし、レオンは空を飛べる。そして森の中心へ行けば、ちゃんとした住む場所もあるの。そこで二,三年魔の霧を収斂すれば、ヤーガイ国は昔の国に戻るわ。お父様、ヤーガイ国の穀倉地帯はそれはそれは大きくてよ。あれがきちんと耕作地になれば、隣のマルス領も潤うはず」

「・・・・それは余りにも荒唐無稽な話だ。だがサラが嘘を言う理由も考えつかない。良し! だったら、レオン王子と婚姻をしてから行きなさい。若い娘が若い男と二人で住むには外聞が悪すぎる。君らは元々婚約者だ。話に聞く処によると、一緒のテントで寝泊まりする仲だと言うでは無いか。問題は無かろう?」

「メイドや従者はどうなさいますか? まさか高貴なお方に誰も付けないわけにはいきませんよ」

 マンナが余計な一言を言う。

「そうだな、それでは・・・・・」

「お父様、メイドは要りません。どうしてもと言うならゴンとマツを付けてください。彼等なら役に立ちます。それ以上は返って足手纏いになります」

「確かに彼奴らなら、食事の世話も、王子の世話も出来そうだな。好きにしなさい。だが・・・サラとは婚姻して貰いますぞ王子」

「はい。僕で、私で良かったら・・・・・サラと一緒になるのは、私の希望でもあります」

 さらっとレオンは承諾している。私の希望は聞かないの? でも、レオンが私で良いのなら、私は勿論、Okだ。

 私は行き遅れることなく無事に結婚出来た。レオンなら文句はない。安心出来る相手だった。ゴードンは好きだが、あくまで押しだ。押しの順位は今では二番目に落ちてしまったが。マンナが以前言っていたように、失恋の痛みは薄い記憶になっているようだった。

 ヤーガイ国は、依然として先行きが怪しい。ゴードンは何をグズグズしているのか。ヤーガイの王宮の情報は途絶えている。


 私達は、冒険者としてヤーガイとの国境を無事に抜けることが出来た。

 以前は無かった検問所が、最近国境に出来ていた。軍が小規模だが常駐しているようだった。

 そこで、かなり調べられたが、私はヤーガイの所属の冒険者の証を持っていたし、ゴンとマツは狩人だ。そしてマルス領で冒険者証を作ったレオンは髪の色も変えているため分からないようだった。二人は正式な夫婦の証明もあるため、何の問題も無い。たった四人の冒険者は、全く警戒されなかった。

「お前等は領都には入らないと言うことだな」

「へえ、おいら達は魔の森で魔獣を狩りにきただけでやんす」

「そうか、狩ってきた獲物には、税が課せられることになった。きちんと申告するようにな」

「分かりやした」

 ゴンの平民口調も、手助けになったようだった。

 今回は馬も森の中まで連れて行けた。私の結界が皆を被っても十分な効果を発揮したためだ。

 馬に乗り走り抜け、魔獣は全く倒さずに、森の中央に着いたのは二十日後だった。かなりの強行軍だった。だが、森の屋敷を見たみんなは歓声を上げた。

 素晴らしく住み心地の良さそうな屋敷だったからだ。

 湖にある小島には魔獣は来ない。馬は自由に走り回らせても平気だ。

「魔獣が全然寄り付きやせんぜ。この場所はどうなっているんだか」

 ゴンはこの湖にある土地の不思議に、しきりに文句を言っている。彼は私達に決死の覚悟で付いてきたのに拍子抜けしているようだった。

「ここには魔道具があって、防いでいるようよ。お父様のお陰で食糧は三年分あるし安心してのんびりして良いのよ」

 もう、私の時空間収納は知らせてある。ゴン達は絶対に人には言いませんと父に約束させられていた。

「僕はレベルを上げる必要がある。森に入ってくるよ」

「その必要は無いわ。付いてきてレオン」

 森との堺に来て金色の竜を魔宝石をだして呼び寄せた。

「!地竜では無いか。然も伝説の金竜・・・・・これを倒すのはまだ無理だよサラ」

「倒してしまってはダメよ。キンちゃんはお友達なの。レオン、キンちゃんにこの魔宝石を与えて。そうすればレベル上げを手伝って貰えるから」

 金竜はレオンから貰った魔宝石を美味しそうに食べ、直ぐに大サルを持ってきてくれた。後は作業と化すレベル上げとなる。


 レオンは闇のレベル上げをして何とか国の為になろうと努力していたようだが、辞めた方がいいと私は言った。彼には親和性がないのだから。

「レオンの空間魔法のレベルを上げた方が国の為になると思う」

「空間魔法なんて・・・・・確かに、古代には凄い使い手がいたとは聞くが、つまらない属性だよ」

「空間魔法はイメージが大事なんだと聞いたわ。私には凄い使い方のアイディアがあるの。でも私には親和性がなくて出来ないわ。貴方ならきっと出来る様になれる。私のイメージを貴方も共有してくれればね」



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