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10 隠れた属性

 私達は野営地に戻りその日は倒れ込むようにして寝てしまった。

 私にはメイドも従者もつけていない。マンナにはごねられたが、連れてこなかった。自分の事は自分で出来るのだ。そこいらにいるお嬢様とは違う。

 レオンも同じだった。彼は背中の翼を見られるのが嫌で、王宮でも殆ど自分で身の回りのことはしていたという。呪いを持って生れた王族は、物心が付くと皆そうなるようだ。可哀想な気もするが、こんな時には役に立つと言って、レオンはあっけらかんとしていた。

「ここは、魔の森の西側だ。僕がいた王都は国の南にあるんだ。こことは随分離れて居る。そこは二十年前に遷都したばかりでまだ新しい。以前の王都があった場所は、魔の森に飲み込まれてしまったんだ。僕は隠れて旧王都を見に行った。そして魔獣を倒したんだ。共は付けないでね」

 幼さの残る王子様が一人で危険な魔の森へ行っていたなんて、考えられない。ヤーガイは変な国だ。いくら魔法が使えるからと言って王子を放って置くものだろうか? 呪いがあると言うことは、想像以上に周りから忌避されていたと言うことなのだろうか。

 王族だからと言って総てが呪いを受けて生れるわけではないそうだ。魔力がある王族は呪いに侵されて生れてくる。だが大抵の王族は魔力を持っている。

魔力が無く普通の見た目の王族は、他所に嫁いでいくそうだ。だが男の王族は凄く少ない。レオンは話してくれなかったが、生れて直ぐに始末されたのではないだろうか。レオンの呪いが少ない方だと言っていたのだ。呪いの出方が強ければ、見た目は魔獣と変わらないとも言っていた。なら、その子どもはどうなる? 今居ないところを見れば、自明の理では無いだろうか。

 冒険者や騎士達はそれぞれ自由にしていいと言い渡している。なるべく別行動にするための複線を引いておきたい。彼等は、名目上は私達の護衛だが、私達には護衛など本当は必要無い。

 二,三日は一緒に行動して、後は好きに魔獣を倒して貰うことにした。その代わり、自己責任だ。何かあっても責任は持てない。魔獣を倒したくない者は、野営地でのんびりしていれば良いのだ。

 ほとぼりが冷める頃、レオンと私、ゴン、マツは、また魔獣狩りに出かけた。

 レオンの雷魔法のレベルを上げるため、そして私の火魔法のレベル上げだ。

どれだけレベルが上げられるかは、魔獣の強さ次第だ。

 この分では闇のレベルを上げるには相当な強さの魔獣を一人で倒さなければならないだろう。『闇の収斂』は高レベルの魔法だろう。

 レオンの雷魔法は有効だ。あれがあれば、一人でも出来るのではないか? でも、属性を増やしすぎるのには抵抗がある。火にしないで、雷にしておけば良かった。あれほど何にするか決めておけとレオンに言われていたのに、つい、火はゴードンと同じだと考えて仕舞った、私は本当の馬鹿だ。

――でもこれは仕方ないことなのよ。まさか魔獣を倒して直ぐに魔力を放出する方法が良いだなんて知らなかったもの。それに、推しと同じというのは憧れるじゃ無いの。

 沢山の魔獣を倒し、森の浅い部分を走り回ったが、魔力が一杯にならない。

「仕方がない。少し奥へ行って見るか」

「いけませんぜ、この先には危険な臭いが充満してやす」

 ゴンの気配察知にも、危険信号が点ったようだが、それくらいでないとレベルは上がらないだろう。

「ゴンとマツは先に帰っていて。私達は大丈夫だから」

「そうだ、これから先は、お前達は足手纏いになる。危険だから帰りたまえ」

 レオンから、威圧のような気配が感じられる。ゴン達は何も言えなくなって、震えながら森の外へ向かっていった。

 レオンが前に出て、私は斜め後ろから付いていく。気配察知が得意なゴンが居ない。なんとなく不安だ。今までゴンにどれだけ頼っていたかが分かる。マツの持っていた盾もない。思わず影に隠れたくなるが堪えた。

 大きな剣を軽々と片手に持って、レオンはずんずんと奥へ進んで行く。

「足場が悪くなってきた。空歩を使ってみたら? サラ」

「ええ、もう使っている」

 木の根がうねる獣道をゆっくりと、滑るように前へ行くと、突然木の根が私を捕らえようと地面から盛り上がってきた。直ぐにもっと上へと移動し、うねる木の根っこを燃やす。轟々とよく燃えるところを見ると、この木の根にも毒が含まれているようだ。

「火は有効だが、森の中では危険だな。今消化する」

 レオンの水魔法であっと言う間に鎮火したが、森では火の使い処が制限されてしまった。

木の上を見上げると枝がぐにゃりとクネって、こちらに迫ってきた。

「木の魔物デストレントか、これに雷は効くのか? 試してみる」

雷魔法で一時は動かなくなるが直ぐにまた違う枝が私達を狙って降りてくる。

「仕方がない、一旦退こう」

 だが後ろにも木の根や、枝がうねうねとしていて退路が断たれてしまった。

「レオン、ここいらの木は総て魔物だわ。総て燃やして仕舞いましょう。私を抱えて木の上まで上がれる?」

「ああ、大丈夫だ」

 彼は上着を脱いで上半身裸になった。今まで少年だとばかり思っていたが、いつの間にか逞しい身体になっている。筋肉が肩とお腹を被っていて美しい石像のような身体だった。私は二度見して仕舞った。筋肉フェチでは無いはずだが、余りにも均整が取れていて、目が離せなかった。

 私もレオンも平均よりは背が高い。だがこの頃レオンは急成長している。男の子とは言えなくなってしまった。

 レオンは私の腰を後ろからぎゅっと両手で掴み直立のまま持ち上げて浮き上がった。レオンの魔法の影響なのか、凄い安定感がある。その姿勢ではレオンがキツいのでは? だが、私達を捕まえようと枝が追いかけてくる。この姿勢だと私の両腕は自由だ。私はその度に剣で払い落とす事が出来た。そして魔物の木が在る一帯に空から火魔法を放った後、直ぐに私達は森の奥へと飛び去ったのだ。

 燃える木々を離れた処から見ていたが、あっという間に木は燃え尽きてしまい、自然に火事が収まってしまった。

「どう言う仕組みなんだ?」

「森の機能なのかも知れない。ここは魔の森なのでしょう。森自体の自衛手段が在るのかも」

「折角魔物を倒しても、近づけないのでは、意味が無かったな」

「でも、危なかった。これで良かったのよ。魔物や魔獣は腐るほど居るのだもの。他を探しましょう」

 期せずして森の奥まで来て仕舞った。ここは強大な、危険な魔獣のいる区画の入り口だ。さっきまで鬱蒼としていた森が木々が疎らになり、歩きやすい。日の光は木の枝に遮られてまだら模様を地面に落していた。

「もう森の中心に着いたのかしら?」

「ここは森の外縁に過ぎない。森の中心へ行くにはもっと何日もかかるはずだ。誰も行ったことがないが」

 レオンの翼が小さくなり、上着を着ようとしている。その姿をぼーっと見ていたが、背中が傷ついているのが見えた。

「待って、レオン傷が・・・毒が入ってしまったかも『ヒール』」

―― きっと、枝にやられたんだわ。ヒールが効くかしら。エクストラヒールの方が良かったかも。

「ありがとう。でも必要無いんだ。これくらいの傷は僕らの身体は自然に治る。あっという間にね。毒も効かないし」

 超人か! 一体どんな造りになっているのやら。

 少し腹ごしらえをして、森の入り口に向かい魔獣を探しながら帰ることにした。だが、火事があったせいか、魔獣が居ない。皆逃げて仕舞ったようだ。

「見付からないね、空歩で急いで帰ることにする?」

「しっ! 今気配がした」

 気配まで分かるようになったの? 私には全然感じられない。その場にうずくまり、どんな魔獣が居るか見て見ることにした。

 八メートルはあろうかという極彩色の蛇が木からするすると降りてくる。胴体は私の腰より太い。木の中ほどで一旦止り、私達に首を向け舌をチロチロと出して、気配を探っているようだ。と、いきなり鎌首をもたげ、口を大きく開けた。「闇の結界!」

 私は咄嗟に闇の結界を張ってしまった。薄い結界は蛇が放った毒を防いで消えて仕舞った。一瞬レオンは固まったが、直ぐに立ち直り、蛇の首をすぱりと切り取った。

「蛇の皮は高価だよ。持っていくサラ?」

「持っていくのは大変よ。魔法鞄はゴンに持たせたままだし、持って行けない」

「大丈夫さ、見ていてサラ『空庫』」

 空間魔法の違う使い方だと言って、魔獣を浮かして居る。魔獣の死骸が薄らとした膜に被われそのまま私達の後ろから付いてくるようだ。

 レオンは何事もなかったように話しかけてくる。私は観念した。

 話すしかないだろう。魔女の事を話して分かってくれるだろうか。恨まれるだろうか。

「レオン、魔力は溜まった?」

「まだ溜まってないな。もう少し倒さなければダメみたいだ」

「帰ったら、話がある。それまで何も聞かないで」

「・・・・・分かった」

 私達は順番に魔獣や魔物を倒し、魔の森を抜けた。

 私達の後を沢山の魔獣が浮かんで付いてくるのを見た野営地の騎士や冒険者達は、ビックリして攻撃しそうになった。

「大丈夫だ、これはもう死んでいる魔獣だ。慌てるな!」

 またレオンから何か放出されている、周りの人達はそのせいか落ち着きを取り戻し、皆で魔獣を捌き始めた。

 私の魔力はもう少しで一杯になりそうだ。魔力が受け皿の限界まで膨らんで溢れ出したら硬化が始まる。明日には闇のレベルを上げることが出来そうだった。今夜はレオンに総てを打ち明けてしまおう。


          ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「本当にそんなことがあるのか?」

 レオンに私の体験を時間を掛けて話した。今、私達は皆から離れた場所にテントを張ってもらい、同じテントの中で話し込んでいる。周りからは、変な勘ぐりをされているようだが構っていられなかった。

「私は十四歳からずっとこの世界に呼び出されていたの。何時も臨死体験をさせられて、精神はボロボロだった。生きていくのも精一杯で、仕事にも支障を来たして、何度も仕事を変わったわ。私の世界では、魔法なんて無かった。ここよりも科学が進んでは居たけれど、一般人は、ここの平民と変わらない。働かなければ生きていけない。生活は苦しかった。そして在るときまた呼ばれたけれど、元には戻れなくなった。多分彼方の世界の私は死んだんだと思う」

「君は何歳だった? 死んだとき」

「・・・・・三十歳はとうに越えていたわね。だから私はおばちゃんなの。本当は」

「三十・・・・・。君がゴードンが好きな理由が少し解ったよ。僕では子ども過ぎてつまらないだろうな」

「ごめんね、こんな見た目だけどおばちゃんで。でも、何となくこの頃、身体に精神が引きずられているようなの。だから多分若返ったのよ。心も」

「君が魔女の呪いの手助けをしたって言うけど、それは違うよ。魔女の無念を晴らしたんだ。魔の森がいつこうなったか分かるかい?」

「三十年弱くらい前でしょう。私の計算ではそれくらいだと思う」

「百年くらい前からなんだ」

「えー!うっそー。時間軸がずれているって言うこと?」

「時間軸って言うのは分からないけど。だから、誰も真実を知らない。そんなことがあれば、王族が呪われても仕方ないってハッキリわかったよ」

 呪いは始め殆ど影響がないほどだったらしい。時間が経ってどんどん酷くなってきたという。国が傾きだしたのは十五年ほど前からだそうだ。

 ゆっくりとジワジワ呪いが浸透してきたそうだ。魔の森も同じくゆっくりと広がっていった。作物に瘴気が混じり始めたのも同じ頃からだという。

「明日になれば、魔力が溜まるはず。闇の結界のレベルを上げた後、闇の収斂をやってみる。もし出来なければ、もっとレベルを上げなければダメって事になるけど」

「サラ、闇の特性は吸収だ。だからサラは僕より魔力の回復が凄く早い。闇を持っていれば他の属性の助けにもなるはずなんだ。だから僕に、闇の魔法を教えてくれる?」

「良いけど、レオンには親和性がないから、どれだけ使えるか分からない。だけど初級の魔法でも使い勝手が良いの。影渡りなんか最高よ。呪いは試したことは・・・今はないけど」

「呪いは分かるよ。自分の生命力と引き換えにするらしい。呪いの研究は少し出来ているんだ。僕は独自に調べたんだげど、呪いの解き方がどうしても見付からない」

「そう、レオンって研究熱心なんだね。確かに魔女は生命力を使っていた。私は直に経験したもの。魔女の身体が段々と溶け出していったの」

「苦しかった?」

「・・・・・とても」

 私が俯くと、レオンは優しく抱き寄せて、背中をさすってくれた。私は、凄く癒やされ、安心してそのまま寝りに付いた。

――安心出来る、良い匂いがする。

 レオンはとても感受性が強く、そして優しい。こんな人が呪われていいはずが無い。彼のためにもっとレベルを上げよう。呪いを解くことはもう無理だろうが、せめて魔の霧を収斂してあげたい。


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