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25 古川朔にとって三年間とは

 以下、古川朔の談話である。


 やあやあ、こんにちは。みんなの生徒会長、古川朔です。と言っても、生徒会長としての任期も残りわずかなんだけど。


 いやぁ、もう冬なんだよねぇ。師が走るほど忙しいってね。走れば走るほど寒いのにねぇ、師走。僕は寒いのが嫌いなんだ。マフラーとかマスクをすればメガネが曇るからね。

 僕としては、一刻も早く温かい春になってほしいと思うよ。


 卒業するのが寂しくないか? そうだね、もちろん寂しい。だけどね、僕と別れることになる大勢の人のほうが寂しいに決まってるんだから、悲しませる立場の僕がそんなそぶりを見せるわけにはいかないんだよ。わかるかなぁ。


 今日は新聞部のインタビューってことだけど……うんうん。わかってるよ。名誉生徒会長にしたいほど完全で完璧な僕がいかにして生まれたかを取材したいんでしょ? ……え? 生徒会と風紀委員のあるべき関係について? あ、そう。パーソナルな部分じゃなくて、ビジネスとしてのインタビュー? 

 ナンダヨツマンネェ。

 あ、いやいや、こっちの話。


 そうだなぁ。風紀委員っていうと、もちろん、まず思い浮かぶのは風紀委員長のぶっちー、江渕由恵さんだね。

 風紀の女神? それとも聖母? もしかしたら女帝かな?

 そんな彼女と最初に会ったのは高校一年生のとき。僕たち、同じクラスだったんですよ。



 ぶっちーが僕にとって明確に特別になったのは、中間テストが終わったころだったかな。

 あ、特別っていうのは、他意もない特別なんだけど、深い意味もないからね。額面通りの特別。え、わかんない? んー。好敵手と言えば近いかもしれないな。


 風紀委員に選ばれるくらいだから、頭もいいんだろうなぁと思ってたけど、よもやよもや。入学して最初のテストで、僕、学年二位だったんだよ。一位はぶっちー。やられた、と思ったね。僕は主席入学だったから、油断していたと言えばそうかもしれないけど、まぁ有り体に言えば舐めてたんだろうな、高校生活を。

 悔しい。そうだね。かなり悔しかった。必死で勉強したし、それ以降のテストはずっと一位を取り続けた。自慢に聞こえる? いや、実際はそうじゃないんだよ。恥ずかしいことに、僕の成績が上がったわけじゃなくて、ぶっちーの成績が下がっただけなんだ。

 一年のころは生徒会長じゃなくて書記だった僕なんだけどね、それでも僕なりに生徒会役員として尽力してきたつもりだったんだよ。

 でもぶっちーはそれ以上だった。

 彼女は風紀委員としての使命を全うするために空いた時間で生徒たちの相談に乗ったり、みんなの悩みを解決するために先生と生徒の架け橋になったり……身を粉にするって、こういうことなんだと思い知らされたよ。僕には絶対できない行動だからさ。

 そのせいで成績は下がったみたいだけど、それでも平均よりはずっと上にいるんだから立派なものだよね。


 そういえば、ぶっちーがやたらと僕に因縁をつけてくるようになったのも、そのことについて感想を述べたあとくらいからだったかなぁ。なんでだろうね? 純粋に褒めただけなんだよ? いや、本当に。

 ていうか、インタビューでこの話したって知られたら、またぶっちーの機嫌を損ねるから下手なこと書かないでよ?


 まぁ、そんなこんなで……というより、僕とぶっちーのせいで生徒会と風紀委員はライバル関係だと思っている生徒も多いかもしれないけど、本来はそうじゃない。

 むしろ、僕は風紀委員がいてくれるからこそ、生徒会が自由でいられるんだと思ってる。

 間違った道を進んでも、止めてくれる人がいればやり直すことができるからね。

 僕の代ではそれがぶっちーだった、てことかな。だから僕は彼女にはすごく感謝してるんだよ。え? そうは見えない? そうかなぁ。こんなにも全身全霊で表現してるつもりなんだけど。うーん、僕のぶっちーに対するライバル心がそうさせてしまうのかもしれないね。ははは。



 風紀委員といえば、僕の中学時代からの可愛い後輩もいるんだけどね。小野寺大和って、もちろんみんな知ってるだろうけど。

 彼は来年、風紀委員長になるから。僕が今から推薦しておくよ。

 卒業生は推薦できない? いやいや、だから今、推薦してんでしょーが。今はまだ在校生でしょーが。はぁ? 選挙規約に触れる? 知らねぇわ、んなもん。

 あ、取り乱しました。スミマセン。(ニッコリ)

 ごほん。えーと、なんだっけ……あ、そうそう。


 僕のあとに生徒会長に就任する人もたいがい可哀想だと思うんだけどね、もちろんプレッシャーに弱い大和にも風紀委員長なんて大役、荷が重いでしょう。

 あれ、僕いま変なこと言ったかな? どうしたの、みんなそんな顔しちゃって。

 あぁ、プレッシャーに弱い? そうか。「みんなの小野寺大和」はいつだって何にも動じない。そうだったね。うん。


 ま、そんな大和だって、責任感が強すぎるがゆえに身構えすぎちゃう時だってあるんじゃないかな。

 僕から言えるアドバイスはたったひとつ。


「どんと構えておけ!」


 自分が全部を何とかしようとしなくていい。

 失敗したっていい。大抵の失敗は取り返せる。たぶん。いや、おそらく。

 全戦全勝の強豪野球チームがいるか? いないだろう? 人は負けた時こそ成長する。ま、きっとそういうことだ。

 え? スポーツの経験? ありませんよ?

 でも体育祭でそれなりに活躍してたっしょ? 見てない? おい、新聞部仕事しろって!

 えー……まぁなんだ。スポーツの経験は確かに僕にはない。

 ないけれども──。

 ぶっちーにテストで負けたあの瞬間があったからこそ、僕のわずかに欠けていた部分が補完されたとも言えるよね。うん、そうに違いない。


 だからね、後輩たちにも同じことを言いたいんだ。失敗を恐れないこと。涙の分だけひとは強くなるんだって、僕は信じてるんだよ。いや、僕は泣かないけどね? もう泣く必要がないくらい完璧だからさ。でもそうじゃないひとたちは失敗して、泣いたって喚いたっていいんじゃないかな。それって人間臭くて、すごくぞくぞくするよ。ん? なんか語弊があるか。えっと、とにかく、生きるエネルギーに溢れてて眩しいな、と思います。


 えー、最後になるだろうから、たまには真面目に挨拶しておこうかな。

 生徒のみなさん、こんな僕を二年間も生徒会長として支えてくださって、本当にありがとうございました。

 僕は世間一般の理想的な生徒会長の姿とは違うでしょう。でも、それでいいのです。余所は余所、うちはうち。他校と比べる必要なんてどこにもない。

 正直な話、生徒会長なんて大した仕事はしてません。サボってたわけじゃないですよ? いや、マジで。 

 僕がそうやって伸び伸びと過ごせたのは、みなさんひとりひとりのおかげなんです。


 選挙前の演説で、僕はこう言いました。

 生徒の自主性を重んじる。

 自主性。正しい自主性。これって最強、いわば無敵です。いい響きでしょう?

 それでいて、無敵の意味を履き違えないこと。無意識のうちにできてるんです。みんな。

 だから、うちの学園には窓ガラスを壊してまわったり、盗んだバイクで走り出すような非行少年少女はいませんよね。あ、スケバンみたいなスカートの子は一時的にいましたけど、風紀委員の管轄なので僕は関知しません(ニッコリ)


 とにかく、僕が何を言いたいかというと、

 みんな最高。みんな大好き。これに尽きます。


 僕は暗記は得意なのに、過去を思い出すっていうのはどうにも苦手なので、三年間の思い出と言われてもピンときませんが……もしかしたら、卒業式当日には三年間の記憶がありありと脳内で再生されるかもしれません。走馬灯みたいにね。いや、走馬灯じゃ困るんだけどさ。はは。

 卒業式が今から楽しみです。そして、残りわずかな学園生活を最高に楽しみたいと思っています。


 えーと、それからね……え、もういいの? 終わり?

 あと一時間は喋れるんだけど。えー? あ、そう。はい。お疲れさまでした。

 ていうか、記事にする前に僕に一回見せてよ? またぶっちーとか大和に怒られるの嫌なんだから。はい。はいはい。

 今日はどうもありがとうございましたー。


 等々。

 朔は最後まで飄々としたまま部屋を出た。


 古川朔にとって三年間とは、

 振り向かずに駆け抜けた直線である。

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