18 千葉真琴にとって星占いとは
日曜日──学生であっても日ごろの疲れを癒すための貴重な休日であり、千葉真琴は用事がなければ昼近くまで寝ているのが常である。
であるにも関わらず、真琴は朝早くからあすかに呼び出された。
『おねがい。今すぐ来て』
メールの通知音で目が覚め、何事かと眠気が吹き飛んだ勢いのままあすかの部屋に駆けこむと、真琴は目を疑った。
ああでもない、こうでもない、と、ハンガーにかかったままの服を次々と体に合わせてみたり、髪を耳にかけてみたり、鏡のなかで変化する自分を見比べているあすか。
途端に疲労が押し寄せる。
通知音、切っておくんだった。
真琴は机に座り、頬杖をついた。
「あっ、真琴おはよう。あのさ、どういう服装がいいのか教えてほしいんだけど」
「デートの?」
あくびをしながら訊くと、あすかはムキになって否定した。
「デートじゃない! 買い出し!」
「大和くんと二人で?」
「二人だけど、風紀委員の仕事だから!」
以下、真琴の心情である。
いや、もうデートでいいじゃん、それ。
デートじゃないのに服装で悩むって。
百歩譲って、デートじゃないとしても、買い出しの服装のために朝早くに起こされたあたしの身にもなってほしい。
ていうか、こんなことで悩むなんて、もう恋じゃん。恋恋。恋確定。なんで自覚ないの?
等々。
真琴は深いため息をついた。
以前、あすかの大和に対する想いは恋ではないと言ってしまったことを後悔し始めていた。誰かが教えないと進展しないのかもしれない。でも進展したら、それはそれで困る。
徐々に戻ってきた眠気と闘いながら、あすかの一人ファッションショーを眺めた。
「どんな服がいいんだろう……」
真琴は目をこすり、ジーンズを手に悩んでいるあすかに助言した。
「モテコーデならスカートじゃない?」
「モテ⁉」
「うん。モテ」
「あの、普通の感じでいいんだけど」
「なに普通って」
モテの二文字に赤面しているあすかは間違いなく可愛い。こんなの大和くんに見せられない、と真琴は笑いを押し殺して平静を装った。
「いいじゃん。おしゃれは人のためじゃなくて自分のためにするものなんだから」
真琴が言うと、あすかは恥ずかしそうに小さく頷いた。
はい、可愛い。
そうは言っても、あすかは肌を露出することに苦手意識を持っている。
社長令嬢であるあすかのクローゼットには、フォーマルなものからカジュアルなものまで、ショップかと錯覚するほど大量の服がハンガーにかけられている。けれど、そのなかにミニスカートは一着だってない。
世話が焼けるなぁ。真琴は重い腰を上げた。
優柔不断なあすかと違って、真琴はファッションに関しては即断即決、直感型である。
「これがいいんじゃない?」
選んだのは秋らしい色合いのロングスカート。上にはシンプルなトップスと、ふわふわの白いカーディガン。
「かわいい」
あすかはそう言って、真琴がコーディネートした服に着替え始めた。
待つあいだに、ポケットから取り出したスマホの画面に指を滑らせる。
「あ、今日の占い、おうし座1位だよ。よかったねーあすか」
「え、本当に?」
「ラッキーカラーは白で……ラッキースポットはレストランだってさ」
「レストラン……」
「買い出しが終わったら大和くんとごはんでも食べてくれば?」
「えぇっ⁉」
いやいや。ごはんぐらい普通でしょ。
心のなかだけで反論していると、
「真琴は? うお座は何位だったの?」
「うお座は……5位くらいじゃない?」
「くらい?」
「いーの。あたしは寝てるだけなんだから、運勢なんか関係ないよ」
「真琴が安眠できるかどうかだって大事でしょ」
真琴のスクロールする指が止まる。
「……そういうところが……」
「え?」
不思議そうな顔をしているあすかに向かって首を振る。
「なんでもないよ」
真琴の目線の先に、星占いなど映ってはいない。調べていたのはお天気サイトだ。
ゲリラ豪雨でも降っちゃえばいいのに──さっきまで心臓の裏あたりで漂っていたわずかな淀みも、あすかの屈託のなさの前ではあっという間に霧散する。
「晴れてよかったね」
真琴は笑って、あすかを送り出した。
千葉真琴にとって星占いとは、
あすかの背中を押すための、なけなしの優しさである。




