勇者様、私を殺しますか?
第六代目の勇者は魔王城の奥で一人の青年と出会った。
「おや。これはこれは」
彼は手に王都で人気の菓子の瓶と流行りの恋愛小説を数冊持っており、この場所が魔王の城などでなければ意識を向ける事さえもない姿形でしかない。
しかし、ここは王都でも町でも村でもない。
「ついにいらっしゃいましたか。六代目の勇者様ですね」
青年は穏やかに微笑む。
悪意や邪気の類いはない。
勇者は彼がただの人間であると直感した。
筋力も取り立ててあるわけでもなく、身に纏う魔力も平均の範疇。
――だからこそおかしいのだ。
「そう警戒をなさらないでください。私はただの人間です」
勇者は無言で先を促す。
「そう。私はただの人間。友人に会いに来ただけのね」
友人?
勇者が首を傾げると青年は頷く。
「勇者様。あなたにだって友人はいるでしょう? それと同じで魔王と呼ばれる彼にだって友人は居ます」
思わず息を飲む勇者に彼は小さく皮肉的な笑みを浮かべる。
「魔族と人間が仲良く出来ないなんて誰が決めたのですか? 今、戦争をしているから殺し合わなければならない――そう考えているのはあまりにも愚かではありませんか?」
一理あるかもしれない。
勇者はこの旅の中で極少数ながら魔族と人間が共に生きている例を目撃してきていた。
とはいえ、皆が双方から隠れながらひっそりと暮らしていたのだが。
何せ、今は魔族と人間が互いの生存をかけて殺し合いをしている真っ只中なのだから。
「とはいえ、罪は罪。勇者様。私はあなたが私の友人を殺そうとするのを止めるつもりはありません」
青年は穏やかに告げると奥の部屋を指差す。
「あちらに進めば私の友人が居ます。勇者様をお待ちですよ」
勇者は頷くと少し迷った後に一礼をして一歩踏み出した。
すると。
「あなたで六人目です」
青年が勇者を呼び止める。
振り返ると彼は寂しげに笑った。
「歴代の勇者様達は皆、私を殺さずに進みました。ただの人間であるというだけで。そして、それ故に彼に敗北をしているのです」
勇者は剣に手をかけながら先を促す。
「勇者様。実のところ彼は歴代の勇者様達全員に敗北しています。しかし、今も彼は生きており歴代の勇者様達は皆、死んでいる。これが何故か分かりますか?」
勇者は首を振る。
すると青年は俯いて告げた。
「あなたは大切な友人が命を失いかけていたならどうしますか?」
未だ青年からは邪気も悪意も感じられない。
「皮肉なことに私は回復魔法だけは得意なんです。一般人にしてはですけど。でも彼にとっては回復魔法一つで十分なんです。命を繋ぐのも、奪うのも」
邪気も悪意も感じない。
あるのは友人を思う心だけだ。
勇者は一つ行動した。
それを見て青年は微笑む。
「全て終わったら私の身体は彼と同じように扱ってください。お互いまだ小説の感想を語り終えていないので」
勇者は魔王の待つ部屋と歩を進めた。