弟子入り成立の庭園
学院の庭園は、午後の柔らかな陽光に包まれていた。
西に傾きかけた太陽が、薔薇園を金色に染め上げ、花弁の一枚一枚を宝石のように輝かせている。
白亜のアーチを抜けた先には、紅と白の薔薇が咲き乱れ、風がそっと撫でるたびに、花びらが宙へと舞い上がった。
ひらひらと舞い降りる紅白の彩りは、まるで舞台の幕が静かに上がっていく瞬間の演出のよう。
庭園全体が光と花に満ち、幻想的な舞台装置に変わっていた。
――まさに、新しい物語の始まりを告げる舞台。
庭園の中心で、レオナは両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、目を輝かせて無邪気な笑みを浮かべていた。
その純粋な熱意に、周囲の薔薇さえも色を増したかのように見える。
一方、エレオノーラは扇子をそっと閉じ、優雅に立ち上がる。
背筋は真っ直ぐ、微笑は崩さず、後ろに舞う花びらをまるで衣装の一部のように纏いながら、静かに歩き出す。
風に揺れる薔薇の花弁が彼女の足元を彩り、その姿は庭園の中心に咲く女王のように堂々としていた。
二人の距離感――師と弟子、先輩と後輩、あるいは新たな舞台の幕開けを告げる主役と脇役――が、夕陽に染まる庭園の光景に美しく映えている。
エレオノーラは微笑を絶やさず、背後に舞う花びらを眺めながら、心の中で静かにほくそ笑む。
(……面白半分で言ったのだけれど。さて、この“バグイベント”がどう転ぶかしらね)
普段なら予定調和で進むはずのシナリオが、今まさに崩れ始めている。
だが、その不確定さが逆に彼女の好奇心を刺激する。思わず胸の奥がわずかに高鳴る――新たな舞台、未知の展開、まだ誰も見たことのない“悪役令嬢劇”の幕開け。
一方のレオナは、胸の前で両手を握り締め、目を輝かせてエレオノーラを見上げる。
「ありがとうございます! 本当に……学べるんですね!」
弟子入りの喜びと、これから始まる学びへの純粋な期待が、無邪気な笑顔に溢れ出している。
その表情は、まるで花びらの舞う庭園に新しい光が差し込む瞬間のように鮮やかで、見る者すべての胸を温かく染めた。
弟子入り成立――それは単なるキャラクター同士の契約ではない。
物語にとって、新たな展開の序章である。
八十八回の転生で繰り返されてきた予定調和の脚本は、今や微妙に狂い始めている。
“シナリオ崩壊/バグイベント”の兆しは、風に舞う薔薇の花びらや、微かに揺れる光の陰影にさえ反映されているかのようだ。
エレオノーラの微笑には、未知の展開への好奇と期待が滲む。
レオナの目に映る景色は、学びの始まりだけでなく、まるで舞台が今まさに開幕する瞬間のように幻想的だ。
風が吹き、花びらが宙を舞う。
それは単なる自然現象ではなく、物語そのものが新たな章へと動き出す劇的な演出。
観客の目に映るのは、百回目の悪役令嬢とその弟子、そして舞い散る花びらが描き出す、新しい舞台の幕開けの光景である。
午後の柔らかな日差しが薔薇園を照らす中、微風がそよぐ。
赤と白の花びらがふわりと宙を舞い、まるで舞台の幕開けを告げる合図のように庭園を彩る。
扇子をそっと閉じ、優雅に立ち上がるエレオノーラ。
背筋を伸ばし、微笑を絶やさず、舞い散る花びらをまるで纏うかのように歩み出すその姿は、まさに悪役令嬢の威厳と余裕そのもの。
一方、両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、無邪気な笑顔で見上げるレオナ。
その対比は微笑ましくもあり、少しのコメディ感を添える――新たな舞台が、華やかさと笑いを伴って静かに幕を開けた瞬間だった。
薔薇の花びらを纏いながら、エレオノーラは庭園をゆっくりと歩み出す。
その背筋の伸びた姿と絶やさぬ微笑は、ただの散歩ではなく、新たな章の幕開けを告げる象徴そのもの。
レオナは両手を胸の前で握りしめ、無邪気な笑顔でその後ろ姿を見守る。
微風に舞う花びらと夕陽の光が二人を包み込み、幻想的かつ劇場的な雰囲気を作り出す――
(エレオノーラ心の声)
「面白半分で言ったのだけれど……さて、この“バグイベント”、どう転ぶかしらね」
読者の目には、視覚的にも心理的にも、新たな物語が静かに幕を開けたことが刻まれる。
次章への期待感と、これからの奇想天外な展開への予感が、庭園に漂った。
薔薇園での弟子入り成立から数日。
レオナはまだぎこちないながらも、エレオノーラの指導に従い、立ち姿や扇子の使い方、優雅な皮肉の言い回しを少しずつ身につけていく。
(エレオノーラ心の声)
「……この子、思ったより飲み込みが早いわね。ふふ、これなら“悪役令嬢見習い”として舞台に立たせる価値あり――」
しかし、彼女たちの間で生まれた小さな変化は、学院の日常にも微妙な波紋を広げ始める。
王子は時折、嫉妬混じりの視線でレオナを見守り、同時にエレオノーラへの意識も増す。
周囲の生徒や紅茶会メンバーたちも、些細な動きに気づきざわめき始める。
(エレオノーラ心の声)
「八十八回分のシナリオは、もうここにはない。さて、この“バグイベント”がどこまで広がるか……楽しみじゃない」
花びら舞う庭園の光景が、静かに次なる波乱の幕開けを告げていた。