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合わないと思ったら逃げて!ですよ!読んでくれたら嬉しいですけども…





 ――合点がいった。


 何故、王がユリアンとエリーゼの結婚を許したのか。


 それは――脅されたからだ。


 この上たる帝国から。そのいまだ権力のある王弟から。


 この小さな国を、娘の箱庭にするために。





 ユリアンは、その父王のヨハンは、怒りに震えながら……どうしようもできずに、震えるしかできなかった。

「火種にはしたくないから、娘にはその身分を知らせるな、だと……」

 引き取る気もない。

 身分を明かす気もない。


 それは帝国の尊き血がこの国に入ることを、明らかにしないようにと。


 ようやく落ち着いた帝国の玉座に、また混乱を招かないために。

 王弟に身分低い隠し子がいるとなれば、王弟の他の子らにも厄介だ。

 王弟の正式な娘の一人は帝位を継ぐ王子――従兄弟に嫁ぐという。

 この小さな国の王妃と帝国の妃が姉妹では……この国にも、逆に大きすぎる後ろ盾だ。

 もう何年か後ならともかく、今のこの時代では……。


 しかしその代わりに、帝国からの融通は利かせるからと。

 なんて取引――脅し。



 そのために――ユリアンは、愛するガブリエーレと……。






 学園の卒業まであと少し。そんな頃にユリアンは絶望に落とされた。

 卒業したあとは、愛しい婚約者が成長するのを待って、結婚の準備をするはずが。

「……何故、ですか……な……ぜ……」

「ユリアン」

 仕方がないのだと、ヨハンも哀しんだ。ユリアンは愛する妻が残してくれた一粒種だ。そんな大事な子にこんな酷いことを。


 ――実際は、愛する妻に頼み込んで父親と寝てもらい、種を受けてもらった……弟だ。


 しかし自分は愛する妻との子だと、心底から思っていた。


 妻が気を病み、亡くなっても。


 自分には幼い頃の熱病で子種がない。

 弟妹もいたが、彼らもまたその病で亡くなった。もしも彼らも生きていてくれたらと、願わずにはいられなかった。もし生きていてくれたら、こんなことにはならなかった。

 自分は王になんてならなくても良かったし、愛しい妻と二人で静かに暮らせたのに。


 だが、自分は王だ。

 王になったからには。


 ……だから自分には子が、国には跡取りが必要だと――父を説得し、妻に頼み込んで。



 父が寿命を削るようにして妻を抱いてくれた。


 ――帝国から養子をもらうのは嫌だったからだ。


 その頃帝国は、帝位を争って戦火の真最中。養子などという飛び火は、またこの国を燃やしかねなかった。


 落ち着いた十数年後に、そうするべきだったと、彼はさまざまに後悔した。

 産後の肥立ちが悪く、しかしそれが回復しなかったのは、妻が望んだからだ――死を。

 彼女は生きる気力を失っていた。

 もしも生き長らえたとしたら、今度は誰の子種を植え付けられるのかと。


 その願いを叶えるしかなかった。


 もう誰も、彼女に触れさせたくなかった。


 愛していた。だから彼女の子が欲しかった――その独りよがり。


 ――後に、ガブリエーレが妻と同じ目をしていると気がついて。


 ――そして結局、帝国に国は奪われた。それを彼は、墓の下で何を思っただろう。


 ――妻と父を早死にさせたのに。


 仕方がない。

 仕方がないで済ますしかない。

 それを、大事な我が子に言わなくてはならなくなって。


「お前もエリーゼという娘と良い仲だと……」

「ただのクラスメイトです! 男爵家の娘が浮いて、クラスの不和にならぬよう、気にかけていただけです!」


 クラスメイトだから。

 高位成績クラスに男爵令嬢という身分では何かと大変だろうと、王子として常識内で気を遣っていただけだ。


 明るくて前向きな子だと、自分の友人たちも言っていた。彼らはエリーゼのことをそう褒めていた。

 彼らも彼女の身分を気にかけて。たまに身分を傘にした虐めから庇っているのは偉いなぁと、そう思っていた。


 自分は少し馴れ馴れしいなと思っていたが、自分がそう咎めれば――大事になってしまう。

 下級貴族とはこうしたものなのかと勉強にしつつ。

 時折、友人たちにも婚約者がいるのに近すぎるときちんと注意もしていたのに。


 ――それがまさか、牽制と思われていただなんて。エリーゼは自分のもの(・・・・・)、だと。


 卒業するまでの我慢だと思っていた。男爵令嬢など、学園だけの付き合いになるだろう――と。


 だから自分もエリーゼを中心になりがちなクラスに、仕方がなしに馴染んでいたつもりだった。


 ……つもり、だった。


 それが、まさか。

 自分がエリーゼを見初めたと思われていただなんて。

 そしてエリーゼも、自分を好きだなんて。


 それは勘違いで済ますことはできなかった。

 見初めただなんて、噂話はいつから流されていたのか。

 ガブリエーレの耳にも入っているという。

 幸いは、彼女はまだ学園に入学していないから、そんな不様な姿を見られなかったこと。

 最愛のガブリエーレに、そんな姿を……。


 そして、皆の勘違いを解けなかった。

 自分には最愛の婚約者がいると告げたのに。

 幼い頃決められた長い付き合いの――ずっと好きだった彼女との……。


「政略結婚だなんて、お可哀想に……」


 まさか、だ。

 お前とのことが政略だ。


 ――エリーゼには、恐ろしい後ろ盾があった。



 業が深い…怖や怖や…

 だから、先王さまは後添も娶らなかったという秘密。娶れなかった、が正しくも…哀しくも…。

 こうした一途な王子さまもいても良いかな、と…どうでしょうか…?(だからこそ、哀しく…


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