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 ――先に、逝くね……。


 そんな最後の囁きで――愛を告げて彼は死んだ。


 それがロベリアの前に――生きてる。微笑んでいる。


 生きてる――殺してない。


 ロベリアの中にあった氷が溶けたかのように。彼女の美しい瞳から、また美しい涙が溢れて、こぼれた。



「僕さぁ、親の因果だとか、そうしたごたごたの始末を子どもに払わせるのてどうなのよ、て思うんだよねぇ。嫌だなぁて」

 そもそも、原因うちのジジイです、ごめんなさい。あときっと帝国こそが因果集まってる。

 嫌だなぁ――嫌だからこそ。

「っていうか、僕もだったんだけどさ、皆うしろ方面に前向きすぎる!」

 ルドルフは――いや、ルドルフも、腹を括った。


「皆が幸せになる良い国、作るよ! 僕が王様になるからにはさ! 手伝いなさいよキミたち!」


 抱きしめあう二人に、ルドルフは「聞こえてないぞこいつら」となりながらも、宣言した。


「もともとはキミたちの国なんだし、さ……?」



 数日前にも一応、ヨアヒムには言った言葉ではあったのだけども。






「で、そのためにキミ、だ」

「……はぁ、僕ですか? っていうか、人質を健康にするぞって、脅しになるのです?」

「いや、まじまじと尋ねかえさないでよ」

 そっとルドルフは斜め上をみた。うん。自分でもちょっと斜め上な考えだと思う。

 セージもハーゲンもそれとなく目を逸らした。

 仕方なく、ヨアヒムが折れた。仕方なく。なく。

「……はい、僕が優秀だから惜しまれたんですね。ロベリアは、僕へのご褒美、いや目の前の人参ですね?」

 馬好きなルドルフにはその例えは頷くしかなく。まさにそのためにご用意して。

 実際のところ、ヨアヒムと引き合わされ、祖父のあれこれを知ってから、ルドルフこそが一番忙しかった。


 その忙しかった理由が、この野郎。


「そうだよ、キミ、優秀だから」

 さっき自分で言っていたじゃないか。

 ヨアヒムはこの国を治めるために教育されていた。

 帝国でふらふらしていた自分より遥かに、統治の何たるかを知っているし、政務もできる。

 あと、ひっそりと剣の腕や腕っぷしも強い。まさに王子さま。

 下町への繋にもなる。その辺りは護衛として切なくなりつつもハーゲンが保証してくれた。腕っぷしは下町で鍛えた方が強いのもあり。

「でも、僕、王子、だったんですが?」

 その言葉には様々な意味が。

 まず、ヨアヒムはこの国では有名人だ。

 すなわち、多くの人に、面が割れている。

 そこにのこのこと顔を出したら「え、王子さま生きてた?」となってしまうし――そもそもの、王弟ヴォルフラムが良い気はしまい。またちょっかい出されても困る。

「お祖父様の方面は任せてよ?」

 孫としてルドルフは頷いた。帝国にいる兄たちにも祖父のことは話してあるし。


 もうひとりの祖父の――帝王たる祖父にも、話しは。


「そして顔もね、はい」

 ルドルフはヨアヒムに手鏡を渡した。まだ回復したばかりだが、それくらいは持てるかどうかのテストもかねて。

 セージはヨアヒムの手足に痺れがないことに、自分の解毒が上手くいったと、こっそり小さく己が手を握った。姉さん、やりました。

 ヨアヒムは手渡された手鏡に「?」となりながら己の顔を映し――。


「……いや、ほくろだけ?」


 てっきりもっと酷い顔に、酷い目に遭わされていると覚悟していたヨアヒムだ。そうした整形か薬品で顔を変えられているのかと。

 けれども毒で寝込んで窶れた顔は変わらず自分だ。傷や腫れもなく。

 ただ、多少無精ひげが生えているのは仕方なく。


 手鏡の中には今までなかった泣きぼくろ。左目の下に。


 寝ている間にちょこっと入れ墨でいれておいたと。寝ている間だから、本人の要望も何も無く。麻酔も無し。

「化粧とかだと毎日描くの大変だし、もしも消えたりしたら厄介だろ?」

 良かれと思っての、入れ墨だった。

 ヨアヒムもまぁ、これくらいなら良いか――いや、良いのかと悩むが。

 本当にこれっぽっちで別人になれるのか?


「いや、以外とそれくらいの自然な方が目立たないんですよ。傷痕とかあざとかは、印象が強すぎますから」


 そうしたことにより人相が変わった人間をみたことがあるセージより。


「イケメンが泣きぼくろで色っぽくなるて、結構な変わりがあるよ? 目元って皆の記憶に残るからね」

 垂れ目気味に泣きぼくろ。色気が増して、処置中にしまったと思った彼らだったのだが。

「まぁ、そうかもですが……」

 イケメン否定しないのかよと、その部屋にいた野郎どもは心の中でつっこみつつも。


「まぁ、あとは髪を染めようか。金に近い、明るい茶色とか。それなら根元が伸びても目立たないだろうし」


 同じ金髪のルドルフは、自分も染めるならを想定したようだ。確かに明るめの茶色ならもとの髪色とも馴染みそうだ。眉まで染めなくても良くなりそうで。


「そんな若いうちから染めてたら、髪が痛んで早々に禿げるかもだけどねー?」


 そんな余計なお世話な一言追加は、似た者同士の嫌がらせであったのだけど。


「それなら早めに剃りますか……ロベリア、スキンヘッドも気に入ってくれるかな?」


「だからキミ、なんでそう思いっきりがいいのさー!?」


 まぁ、起きれるようになったヨアヒムはセージに染料を作ってもらい、ルドルフおすすめで茶金色に髪を染めたのだけど。


 


 ヨアヒムと会って、色々知ってから…腹を括ってから。某「やることが多い」ばりに一番忙しかったのルドルフくんかと。身代わり用意したり、お祖父さんに…だったり。お兄さんたちと仲良くなったり。そりゃ少しの意地悪言ってみたくも。(でも相手が強い)



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