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第三話⑮

 8




 新たな仲間を加えた俺たちだったが、カクスケはとにかくよく働くやつだった。おかげで俺はちょっと怠けそうになっている。


 アヴァリュートの症状も、暴走の一件以来落ち着いていた。ガークたちを筆頭にして、竜族のみんながアヴァリュートの様子を逐一見に来ているからかもしれない。おかげでこもれびの杜の周りは、色々と賑わうようになってきた。


「なあコタロー」


 ガークが話しかけてきた。俺は、ばあちゃんがカクスケと一緒に畑に実ったアカメトゥを収穫しているのを眺めていた。カクスケはばあちゃんの様子をよく見てくれているから、俺が四六時中気を張り詰めていなくて済むようになったのが、今のところカクスケと契約を結んで一番嬉しいことだった。


「話がある」


「なんだ?」


「コタローは、ベリュージオンでも、カイゴ、という仕事をやっていくつもりなのか?」


「仕事というほど立派なことはできないかもしれないけど、もしもそうやって出来るのなら、俺は嬉しいかな」


「そうか」


 ガークは頷いた。元いた世界でも、俺は、介護職としての人生を全うするつもりだった。良いことも悪いことも、嬉しいことも悲しいことも、そのたびに心を大きく揺れ動かされるけれど、俺はやっぱりそれらの悲喜交交を求めているのだ。実際に怪我をした竜族たちや、体を張って集落を守ってくれたウェイドには申し訳ないけれど、最終的にアヴァリュートの暴走を止められたときは、正直嬉しかった。俺がこれまで培ってきた知識が、ベリュージオンでも通用したことで、自信がついたといえる。


「だったらなおさら提案させてくれないか。オレたちにも、カイゴのことを教えてほしい。オレはじいちゃんのたった一人の孫だ。じいちゃんがおかしくなったとき、オレがなにも分からないのは嫌だ。だからオレは知識をつけて、いずれはコタローの力を借りなくても、じいちゃんを支えてあげられるような存在になりたいと思っている」


「応援するよ」


 少し経ってから、俺は言った。涙をこらえるのに必死だったからだ。それでも声が震えて、他人事のような言葉をかけてしまった。


「あと、サティーも……。おい! サティー!」


 ガークは声を張り上げて、アヴァリュートの顔を撫でていたサティーを呼ぶ。


「なあに?」


「オマエ言ってただろ。コタローのところでなにか手伝いたいって」


「ヤダッ! そんなのあたしのただの願望じゃない。きっと迷惑だよ」


「そんなことない」


「えっ?」


 サティーが目を丸くする。「あたしね、コタローさんが長老様の怒りを鎮めたって聞いたとき、凄いなあって思ったの。だって、力で鎮圧するとか、魔法に頼るとか、そんなんじゃなくって、言葉の力だけで長老様はおとなしくなったから。だからね、あたしも考えたの。コタローさんばっかりに頼るんじゃなくって、あたしたちがちゃんとお勉強して知っていることをどんどん増やしていけば、それが長老様の安寧に繋がるんじゃないかなあって」


「ガークもサティーも、大歓迎だ。給料は払えないかもしれないけど、それでも良ければ筒原さんに言ってみるよ」


「キュウリョウ?」


 ガークが首をかしげる。うん、これ以上は言わないでおこう。言葉の意味を知ったとき、やりがい搾取だなんだと咎められないといいが……。




 俺はすぐに事務所に戻り、ガークとサティーの提案を筒原さんに伝えた。


「いいんじゃない、べつに」と、さほど興味を示さずに、筒原さんは承諾をしてくれたため、「本当にいいんですね」と念押しをしておいた。


「いいって言ってるでしょ。もうこの世界での過ごしかたは空野くんのほうが詳しいんだから、貴方の思うようにしなさい」


「自分でそんなお役御免みたいな言い方しないでくださいよ」


「べつにそんなつもりじゃないわよ。ただ、すくなくとも空野くんは私よりもずっとここで長生きしていくんだから、ここで介護の仕事を続けていくつもりなら、貴方が先陣をきってやっていったほうがいいと思ったの」


 筒原さんは、いままで人間相手の介護しかしたことがないから、異種族の介護をすることに躊躇しているという。そんなことをいわずにと筒原さんの顔を立ててみても、「この歳になると、新しいことを覚えるのにはどうも抵抗があってねえ」と、随分消極的な発言をしてしまうようになった。


 口には出さないが、筒原さんも不安なのだろう。突然わけのわからない世界にとばされて、そこで生きていかなければならない現実に、心がついていけていないんじゃないかと思う。いくら小説や漫画で同じような世界をみていたとしても、実際に自分の体で体験するのとはちがうもんな。だったら……。


「わかりました。じゃあ、俺のやりたいようにやります。……でも、筒原さんは俺の師匠みたいなもんですから、困ったときは助けてくださいね」


「そうね……。私に出来ることなら協力してあげるわ」


 これでいいのだ。




「コタロー様、ぼくをどうしてお誘いしてくれなかったのですか!?」


 おおかた、ガークやサティーに聞いたのだろうが、ウェイドがなんの脈絡もなくそう言ってきたときは、さすがにびっくりした。


「だってお前、筋トレばかりしてるじゃないか」


「キントレ?」


「ああ、体を鍛えてばっかりいるだろ」


「誰よりも強くあるためには必要なことです」


「じゃあウェイドはウェイドの役割をきっちりこなしてくれよ」


 俺がそう言ったあと、ウェイドから返事が返ってこなかったので、どうしたのかと思い彼の顔を見て、ぎょっとした。


「おっ、おい、なに泣いてるんだよ」


「す、すみませんっ! ガーク様やサティー様には、ぼくなんかが到底及ばないのは分かっているのですがっ……、コタロー様のお役に立てない自分が情けなくって」


「誰もそんなこと言ってないだろ」


 おいおい、困ったな……。


 ウェイドはもしかすると謙虚そうにみえて負けず嫌いな性格なのかもしれない。どう解釈したのかは知らないが、俺がガークとサティーを介護の仕事に誘ったと思って、自分に声がかかっていないことに悔しくなり、こうして直談判をしにきたということか。


 俺は決してウェイドを要らないやつだとおもったわけじゃない。本人にも言ったとおり、武道の鍛錬で忙しいかもしれないと気を遣ったのだ。


 人手が多いことに越したことはない。それにウェイドがいれば、なにか危険な目に遭ったときにまた助けてくれるかもしれない。貴重な人材だ。


「わかったよ、ウェイド。おまえも俺の仕事を手伝ってくれるか?」


 ウェイドの顔がぱあっと晴れる。


「ありがとうございますっ! ぼく、精一杯がんばります!」


 


 カクスケ、ガーク、サティー、ウェイド。


 そんなこんなで強力な助っ人を新たに四人も手に入れた俺は、このベリュージオンという異世界で、『こもれびの杜』の介護業務を継続していくことになった。元いた世界でやっていた業務内容とは違うのだから、これからいろいろな壁にぶち当たることだろう。だけど、先のことは考えないようにする。


 不安とは、想像したその多くが結局は起こりえないという。だったらそんなものに足止めを食らっている暇はない。一人でも多くの困っている方々を助けるために、俺たちはこれからも邁進する。そのつもりだ。





「カクスケ、最初の仕事を頼んでいいか?」


「はいっ! なんなりと!」


「このチラシを、隣町で配ってきてくれないか」


 それはこもれびの杜の事務所の、なぜか使えるパソコンでつくった、チラシだった。カクスケは「かしこまり!」といって、嬉しそうに駆けていく。飛脚の仕事をしていたなら、きっとチラシ配りも大丈夫だろう。




『イセカイ・カイゴ こもれびの杜




 困っているお年寄りの生活は




 ぼくたちにお任せください!』




《第一部 竜族編 了》

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