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プロローグ④

「あら、コタロウくん、いつ帰ってたの?」

 風呂から上がって、ばあちゃんにお茶が入ったグラスを出したとき、きょとんとした表情で俺の顔を見つめてきた。TPOはともかく、少なくとも俺が孫のコタローだと認識したようだ。「いくら家の中だからって、そんな海に来たみたいな格好をするんじゃありませんよ」と、小言まで付け加える始末だ。

「ばあちゃん、俺、着替えてくるから、昼飯と晩飯を買いに行こうぜ」

「ありゃ、コタロウくんのごはん、用意してなかったかねえ。ほんと、耄碌しちゃって。コタロウくんに飲み物まで用意させるなんて、だらしないだらしない」

ばあちゃんが認知症になってから、俺は冷蔵庫に食料をあまり置かなくなった。夜中に起き出してきて、手当たり次第に食べてしまうからだ。だから、飯は食べるその日にスーパーやコンビニで調達するといった寸法。急に食べたくなったものがでてきたときはちょっと困るけど、続けていると案外慣れてくるものだ。

 シャツを着て、財布とエコバッグをショルダーバッグに入れる。ばあちゃんがお茶を飲み切ったことを確認して、リビングのテーブルに置いてあるノートに、『11時 お茶 200ml』と記入する。ばあちゃんが食べた飯の量や、飲んだ水分量を記録するのは、職業柄癖になっていた。別に家族のことなんだから、そこまでのことをする必要がないんだろうけど、ばあちゃんに何かあった時に、医者や看護師に伝えられるようにという備忘録だ。

 家からスーパーまでは歩いて行く。歩ける距離にある唯一のスーパーは、四年前にばあちゃんが万引き騒動を起こした場所だった。

 ばあちゃんがボケていると分かってから、スーパーの対応はがらりと変わった。俺に随分同情してくれたし、仕方のないことだ、今回はばあちゃんみたいな人がこれからどんどん増えてくるかもしれないから、対策を考える良いきっかけになったと、笑顔をみせてくれたくらいだ。それでも俺は、自責の念が拭えなかった。なぜ今まで気づかなかった。なぜこんなことになるまで……。

 小学生の時に両親が死んで、母親の母親であるばあちゃんに引き取られて以来、文句のひとつも言わずに俺を育ててくれた。そんなばあちゃんに限って、まさかボケるはずがない。そう過信していた部分が、俺にはあったのだ。


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