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第三話④




「あらあらまあまあ、大きなトカゲさんですねえ! ほら、コタロウくん見てご覧なさい。羽根も生えていますよ!」


 ばあちゃんのテンションが最高潮に達した。あまりに興奮しすぎて、頭の血管が切れないことを祈る。


 同じ日の昼下がりのことだった。ついにアヴァリュートは、再び翼を解き放った。俺とガークを背に乗せて洞穴を飛び出し、こもれびの杜が建っているところまでやって来たのだ。


「ほら、どうってことなかっただろ!」


 しばらくぶりの陽光を浴びて、アヴァリュートは随分と気持ちよさそうだった。


『いまはなにもかもが順調に思えるが、いざとなれば頼んだぞ』


「今のは誰の声ですか! ねえコタロウくん!」


 ばあちゃんはきょろきょろと辺りを見渡す。アヴァリュートの声は、脳に直接語りかけてきているような感覚だから、鮮明に声が聞こえてくるのだろう。今まで聞いたこともない荘厳な低音ボイスだから、きっとばあちゃんもびっくりしたに違いない。まさか「大きなトカゲさん」が人語を操るとも想像がつかないだろう。


「アヴァリュートさん、どうだ? 太陽は気持ちいいだろう」


『うむ』


 アヴァリュートは頷いた。ガークも心なしか嬉しそうに表情を緩ませている。


「じゃあまずは、アヴァリュートさんが普通の生活に戻れるように、俺たちがみんなでサポートするから」


 アヴァリュートがおかしくなったところを、俺はまだ見ていない。本当にこの人……じゃなくて竜は認知症なのだろうかと首をかしげたくなる。


 認知症になった人間を相手にしているときと同じだ。その場では会話も成立しているし、彼らは自分の記憶がないという事実をごまかすことが得意だから、健常者と変わらないしゃべりをすることが多い。それに比べると、アヴァリュートの言動はなにも問題がないように感じられるが、それは俺が彼のことをまだよく知らないからだろう。




 そのとき。ぐうううううっとガークの腹が盛大に鳴った。


「あらあら、おにいちゃん、お腹が空いちゃったんですか?」


 その音にすかさず反応したのは、ばあちゃんだった。ガークは頬を赤らめて「いや、これは……オレのことは気にするなっ……」とあたふたしている。


「そういえば、朝からなにも食ってなかったな。筒原さん、ばあちゃん、俺たちも食事にしませんか? ガークも食ってけよ。テイトウイモのお返しだ」


 俺の提案に、ガークはああと頷いた。「オマエたちがどんなものを食しているのか、非常に興味がある」


 そんなに対したものじゃないと、俺は謙遜した。昨日、ホライゾンで注文した食料は、たんまりとこもれびの杜の中に置いてあるが、いずれもインスタントのものばかりだからだ。


「じゃあ、準備するよ」


 筒原さんたちに、外で待っているように伝えてこもれびの杜に入ろうとすると、ガークがとことこと後ろから着いてくる気配がした。


「竜族はふだん、なにを食ってるんだ?」


「食料は畑で作物を育てたり、狩りをしたりして確保している」


 他の種族と戦うとか、魔法で(そんなものがこの世界に存在しているのかどうかはわからないが)食料を召喚するなどといった突拍子な方法で食べ物を確保しているわけではなさそうだ。


 俺はホライゾンの段ボールから、パックのご飯と牛丼の素を人数分用意する。いずれも湯煎や電子レンジで温められるタイプのものだ。


「アヴァリュートさんには、俺たちが食うよりも多い量を用意してやらないとな」


「かたじけない」


 ガークが再び、頭を下げる。古い言葉を使うと、「ごめん」というよりも礼節を重んじているように感じるから不思議だ。


 俺はスマホで、ホライゾンにアクセスして、パックご飯と牛丼の素を大量に注文した。その数おおよそ三十人分。あとはそれを一気に温められる大きさの寸胴鍋と、電気で動くクッキングヒーター。異世界にきても、元いた世界の文明の利器を使えるのは最高だ。


 購入ボタンを押すと、デスクの上にドドドドッと段ボールが降り注いでくる。その衝撃でミシミシと机が軋んだが、加重にはなんとか耐えられたようだ。


「ガーク、手伝ってくれ」


 その様子をぽかんとした表情で見つめていたガークは、俺の呼びかけに一拍遅れて反応した。


「あっ、な、なにをすればいいんだ?」


「この段ボールから、品物を全部出しておいてくれ」


 俺はガークにそう言い残して、給湯室に入り、寸胴鍋に水をたっぷりと入れた。事務所に戻ると、梱包を解き、クッキングヒーターをコンセントに繋いだ。


「さっきからなにをやってるんだ、コタロー。オマエ、魔術師だったのか?」


 ガークの声が、ヒーターの電源が入る電子音に混じって聞こえてきた。顔を上げると、彼は驚愕の表情を隠そうともせず、俺のことを見ていた。たしかに、俺がスマホを操作して、その直後に何もない空間から段ボールが降ってきたら、誰だって驚くだろう。この不思議な現象に慣れないといけないと自分に言い聞かせている俺も、なにがなんだか分かっていない。


 元いた世界でも、インターネット然り、日常に溢れている色んな機械然り、原理のわからないまま使っていたものなんてごまんとあった。それと同じだ。よく分からないけど、便利なモノを使わない選択はない——と、俺は考察をすでに放棄していた。



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