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第三話②

 晴天だった。ベリュージオンに地球のような四季が存在しているのかはわからないが、体感的には秋の気候のような、爽やかな空気が流れていた。


「じゃあ、昨日とおなじように頼んだぞ」


 一人じゃ崖の急斜面を降りられない俺は、ガークと共に洞穴に向かった。




『しつこい童だ。二度とその面を見せるな、と言ったはずだが』


 アヴァリュートは俺を見るなり、開口一番にそう言った。やっぱり歓迎されていない。俺がロイメンだからなのか。


「じいちゃん、オレが頼んだんだ!」


『ガーク、貴様もしつこい奴だ。貴様とて、一族の総意を覆そうとするのがどれほど困難なことか、分かっているだろう』


「わかってる。……だからオレは昨日集落に帰ったあと、みんなを集めてもう一度話し合いの場を設けたんだ」


 さっきガークがこもれびの杜をやってきたときに、眠そうにしていた理由がわかった。きっと彼らは夜遅くまで話し合っていたのだろう。俺が一度の話し合いで、うまく事を運べなかったせいで。


「今はまだ、じいちゃんを完全に集落に戻すのは、みんな躊躇している。……だけど、一時的になら、この洞穴から出てもいいんじゃないかって、言ってくれた」


『一時的?』


「オレの気持ちに配慮してくれたんだ。……竜族の中ではオレはまだ未熟者だ。じいちゃんの後継者としては頼りない。リアズをはじめとして、オレのことをよく思っていないヤツもいる。……だから、一族の総意じゃないけど、オレを不憫に思ってくれた者たちはじいちゃんをここから出すことに賛成してくれてる」


『話にならぬ』


 吐き捨てるようにアヴァリュートは言った。『泣き落としで奴らの同情を誘ったとでも? 恥ずかしいとは思わんのか』


「泣いてなどいない!」


 言葉を遮るように反論した。この状況でそれだけを否定するなんて、体裁を気にしすぎだぞ、ガーク。


 だけど、このままだと今日も話はなにも進展しなさそうだ。ガークが体裁を気にするのと同じくらい、俺だってメンツを気にしている。ゆっくりやろうぜと促したとはいえ、それでもなにか成果をあげなければ、竜族のみんなに啖呵をきった自分が情けなくなる。


 焦りは禁物だと自分に言い聞かせる一方で、それとは真逆の感情が生まれてくるのだから、人間はめんどくさい。


「アヴァリュートさん、俺からも提案があるんだ」


 果たして俺の声には耳を傾けてくれるのか。たとえ今は嫌悪感をむき出しにされていても、気づかないふりをして話をすすめる強引さも必要だ。


「こういうのはどうかな。たとえば、日中はガークと一緒に洞穴の外に出る。集落に近づかなくとも、広い森や空の上で存分に体を動かす。日光を浴びるのは体にとってもいいんんすよ」


 空に浮かんでいる太陽に似ている物体は、こっちの世界でも太陽と呼ぶのだろうかと疑問に思ったが、言葉が通じているところを見るに、そんなに心配はしなくてよさそうだ。




 太陽の光を浴びることは、体に良いといわれている。日光浴で分泌される、セロトニンという物質が脳を刺激して、ストレスを軽減したり、自律神経を整えたり、気持ちを明るくしてくれたりする。幸せホルモンといわれているものの正体だ。日光を浴びることによって、夜の睡眠の質も上がる。あとは光のあたった皮膚がビタミンDを作りだし、それがもの忘れの改善につながるのだというから、手軽にできる良質な健康法だ。


「アヴァリュートさん、どうせ最近はろくに日光を浴びてないんでしょ。ガークはこんなに健康的に日焼けをしてるってのに」


『口の利き方には気をつけよ』


 アヴァリュートは唸ったが、昨日のように感情のままに攻撃してくることはなかった。認知症の症状のひとつに、自制心が利かなくなり、感情のままに行動してしまうというものがある。おそらく昨日は、アヴァリュートのなかで自制心のねじが外れてしまっていたのだろう。一概に認知症といっても、日によってあらわれる症状が違うことなんてザラにある。


「太陽のしたでろくに動きもせず、一日中、こんな辛気くさいところで寝ていたら、アヴァリュートさん、本当にダメになっちゃうっすよ。俺のみたところ、アヴァリュートさんの症状はまだ軽い。これからいくらでも、なんとでもなります!」


 ふわっと抽象的に、悲観的になることはないと伝える。何せ相手はドラゴン。人間相手でも先のことは分からないのに、ドラゴンのことなんてもっとわからない。それでも、外に出るのは、今の状態がずっと続くより、彼の生活に彩りを与えるであろうことは明白だ。

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