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第三話 ここではない、未来へ




 朝いちばんに目覚めたのは、ばあちゃんだった。隣でごそごそと蠢く気配がしたので、俺も目を覚ます。


 ぼうっとした頭のまま、あれ? 俺はなんで職場で寝ているんだ? と一瞬考えたが、昨日のことを一気に思い出した途端、意識は覚醒した。


「なにやってんだよばあちゃん」


 俺の呼びかけに、ばあちゃんはびくりと動きを止めた。


「誰かがここにおしっこをしていったんですよ」


 悪びれもなくばあちゃんはそう言った。見ると、ばあちゃんが寝ていた布団に染みが出来ていて、履いているズボンの股も濡れている。


 尿失禁。介護用語ではそう分類される症状だが、かわいくいえばおねしょだ。


「まったくまったく、御不浄の場所もわかっていないんですから。コタロウくん、気をつけないといけないわよ」


 毅然としていうその態度。自分が漏らしたとは一寸も思っていないようだった。


「ばあちゃん、着替えるぞ」


 俺は否定も肯定もせず、まだ寝ている(あるいは空気を読んで寝たふりをしている)筒原さんの側を通り抜けて、ばあちゃんをシャワールームに促した。


「そうですよお父さん、わたしはコタロウくんにおしっこをかけられたんですからね」


「はいはいそうですね」


 俺はばあちゃんの言葉を聞き流しながら、シャワールームに入った。


「じゃあばあちゃん、ここがシャワー浴びるところだから」


「わかりましたわかりました」


 ばあちゃんがシャワーを浴びているあいだ、俺は扉の外で待っていた。認知症の症状がましなときは、一人で風呂に入ることができるけれど、万が一のこともあるから、いつでも駆けつけられるようにそばにいることにしている。


 それに今の俺は、どういうわけかばあちゃんにむかって放尿した非常識な孫として認識されてしまっているから、少し離れているほうがよさそうだ。




 ガークがこもれびの杜に訪ねてきたころには、すでに俺たちの身支度は整っていた。社会人になってからずっと仕事が中心の日々だったから、なんだか手持ち無沙汰になっている。それに仕事をしているわけでもないのに、上司と一緒にいるというのも奇妙な気持ちになる。これからずっと続くのだ。早いうちに慣れないといけない。


「あらあ、ガークくん、おはよう! 今日も元気そうね」


「おはようございます」


 ガークは筒原さんにはかしこまった口調で話すようだ。挨拶もそこそこに、ガークが俺に近づいてくる。なんだか眠そうな様子に見えるのは、俺の気のせいだろうか。


「コタロー、今日もじいちゃんの説得に行くのか」


「そうだな。今のところ、俺にはなにもやることがないし、介護職として、ガークの依頼にちゃんと答えないとな!」


「そうか。よろしく頼む」


 ガークの表情がふわっと和らいだ。できることなら、一刻もはやく自分の肉親でもあるアヴァリュートの境遇をましなものにしてやりたいと願っているはずだ。今までは諦めていたぶん、可能性が示されれば期待もせり上がるだろう。


 俺もできれば、その期待にはやく応えてやりたいと思っている。



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