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第二話⑧

 3




「びっくりしたわよ空野くん! いきなり怒ったように『介護はこもれびの杜でやってやる』なんて意気込んじゃうんだから」


「すんません、でも俺……」


「あなたの無鉄砲ぶりなんて今に始まったことじゃないから別にいいけれど、ドラゴンなんてどう介護すればいいのよ」


 筒原さんは俺の肩をポンポンと叩いて、ため息をついた。


「筒原さんいつも言ってるじゃないっすか。介護ってのはやってみなきゃわかんないって」


 それは筒原さんがしょっちゅう口にしている口癖のような言葉だった。他の事業所だと断るような困難そうなケースを、筒原さんは時折受けることがある。俺たちヘルパーも人間だから、感情があって、めんどくさいことは極力避けたいと思ってしまう。ヘルパーのおばちゃんたちの中には、筒原さんがとってきた案件に露骨に嫌な顔をする人たちもいた。そういうわけで、困難事例は大体俺が対応する結果になるのだけれど、筒原さんはおばちゃんヘルパーたちにも口を酸っぱくして言っていた。


「そりゃあ、私だって正直こんな案件、めんどくさいって思うわよ。でも、利用者さんやケアマネさんたちは、私たちが受け入れてくれるだろうって信じて、話を持ちかけてくれてるの。私たちが断っちゃったら、利用者さんは路頭に迷うかもしれない。じゃあ誰がその人に手を差し伸べるの? 困っている人を放っておくなんて、私にはできない」


 大丈夫、筒原さん。あなたのその考えは、俺にもちゃんと伝わっています。




「そうだけど、ねえ、ドラゴン……」


 筒原さんはもう一度大きなため息をつく。きっと彼女が今まで読んできた色々な小説の中に、認知症になったドラゴンなんて設定の生き物は登場してこなかったのだろう。


「ちょっとちょっとお嬢さん」


 ばあちゃんが目を丸くして近寄ってきた。「どらごん、どらごんと連呼していらっしゃいますけど、コミックの読みすぎじゃあありませんか? 正気を保ってくださいな」


 俺は笑いを噛み殺した。


「ごめんなさいね、恭子さん。あなたのお孫さん、とんでもない案件を引き受けちゃったみたいだから、ちょっと頭が混乱しちゃって」


「あらあらいいんですよ。わたしなんて四六時中頭がおかしくなっていますから。今もほら、どこにいるのかわかりゃしません。早く家に帰りたいですよ」


 ばあちゃん、できることなら俺も家に帰りたいよ。でも、そんなわけにはいかない。俺たちはもう、このべリュージオンとかいう世界で生きていかないといけないんだ。


「コタロウくんがいるから、安心ですけどね」


「いいお孫さんを持ってよかったですね」


 俺はその言葉を聞いて、ふいに胸が熱くなった。心の準備をしないときに突然褒められると、リアクションに困る。ばあちゃんは社交辞令ではなく、本心からそう言ってくれているのだろう。


 何はともあれ、ばあちゃんが引っ掻き回してくれたので、筒原さんの追求はうやむやになった。


「じゃあ俺、ガークと一緒にもう一度長老に会いに行ってきますから」


 筒原さんがなにかを言いたげに口を開いたが、俺は気づかないふりをしてそそくさとこもれびの杜を出た。



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