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第二話②

 俺たちは勢揃いで竜族の集落に赴いた。とりあえずはガークの客人だということにして、俺、ばあちゃん、筒原さんはガークの後ろについて集落の中に足を踏み入れる。


「あっ、ガークにコタローくん、おかえり!」


 一番はじめに俺たちに気づいたのは、サティーだった。彼女のそばには井戸があって、そこから水を汲んで野菜を洗っていたようだ。足元に置いてある木桶には、じゃが芋によく似た根菜が土を洗い流されて入っていた。


「これはテイトウイモというんだよ。煮ても炒めても、蒸しても美味しいの」


 俺の視線に気づいたサティーが説明してくれる。どう見てもじゃが芋にしか見えないが、この世界ではテイトウイモという名前なのだろうか。


「まあまあ、ご立派に育ちましたねえ。このじゃが芋さん。あなたが収穫したんですか?」


「じゃが……いも?」


 サティーは助けを求めるようにガークを見る。


「ああ、俺たちがいた世界では、これをそう呼んでいたんだ」


 ガークの代わりに俺が答える。その途端、俺の腹の虫が大きくなった。


「コタロー、腹が減っていたのか?」


 ガークに問われて、俺は顔が火照るのを感じた。


「しばらく何も食ってなくてさ……」


「サティー、コタローにテイトウイモを食わせてやろう」


「賛成! じゃああたし、準備してくるね」


 サティーは木桶を持って立ち上がると、集落の奥へと歩いていった。


 この集落では、二十人ほどの竜族が住んでいるという。一族がまとまって住む場所としては比較的小規模だそうで、純粋な竜は長老を含めて四匹、他はロイメンとのハーフだという。


 ハーフの竜族も、その体に流れる血の濃さに違いがあり、竜に近い見た目と、人間に近い見た目の者がそれぞれ存在しているらしい。とすると、ガークとサティーは、人間寄りの血が多く流れているということだろう。


 サティーが駆けていったほうに、俺たちもついていった。住居が立ち並ぶ一角を通り過ぎると、簡易的な屋根の下にかまどが四基設置してあるのが見えた。かまどの周りには人型の竜族が群がっていて、俺たちが近づくと一斉にこちらを振り向いた。


「ようガーク。お客人かい?」


 その中の一人が、ガークに向かって声をかける。彼らは一様にガークと同じような格好をしていることから、やっぱりあの装いは民族衣装といってもいいのかもしれない。なんとなくだが、みんなガークよりは年上に見える。


「ああ。訳あって、我が集落に招いた。すこしのあいだ滞在することになる」


「お前がロイメンをここに入れるなんて珍しいな」


 そう言った竜族の男は、竜の形をした頭を持っていて、全身が灰色の鱗に覆われていた。彼は衣類を身に纏っておらず、竜が二足歩行で立っているかのようだ。指のあいだには水かきのようなものがついている。


「ジュヴァロンさん、かまどをひとつ借りてもいいかしら」


 サティーが彼に話しかける。ジュヴァロンと呼ばれた男は「おっと邪魔だったな、すまんすまん」と頭をかき、かまどの前のスペースを開けた。


 見た目は怖そうだけど、実際に話してみると気さくで優しそうな人(この場合、人という表現はおかしいかな)だなと思った。


 サティーはかまどに隣接している調理台に、テイトウイモをゴロゴロと置いて、薄くスライスし始めた。その間にガークが鉄鍋をかまどの上に置き、中に油を注ぐ。集落に住む人たちは、ここを厨房として共同で使用しているようだ。調理台の上には、柱から柱に伝うように細長い木の棒がかかっていて、包丁や鍋などの調理器具が吊るされている。おそらく、薪を割るためのものだと思うが、刃の大きな斧まで吊り下がっているものだから、なんだか物騒だ。もし小競り合いなんて起きたら、この包丁や斧が武器になってしまいやしないだろうか。……と考えたところで、今までにそんなことが起こったのなら、すでにこんな誰でも取れるようなところに凶器は置かないかと思い直す。


「あらあら懐かしいわねえ、かまど」


 俺の腰のあたりで、ばあちゃんの声が聞こえた。


「あ、ばあちゃん!」


 俺の制止もきかずに、ばあちゃんはすたすたとサティーとガークの方へ近づいていく。


「今の時代に、こんな代物が現役であるものなんだねえ。近頃はやれガスだの電気だのと色々便利になってしまって、若い子達はこんなもの使わないと思っていたけど……世の中わからないもんだねえ」


 えらく感慨深げにしみじみと言う。鍋に油を入れたガークは、そのまましゃがみ込み、大きく息を吸った。


「あれあれ、裸のお兄さん、何をしているんですか。息を吹き込む前に、火をつけないといけませんよ!」


「ばあちゃん、大丈夫だよ、多分」


 ガークが勢いよく息を吐いた瞬間、焚き口に積まれていた薪に、ゴウッと火がつき始めた。


「あれまっ!」


 ばあちゃん、目を白黒させている。目の前にいるすこし変わった「裸のお兄さん」が、深呼吸をしただけで火の手があがったのだから、そりゃあ驚くだろう。ばあちゃんは、ガークのことを純粋な人間だと思っているだろうから。


 とはいえ、火おこしもせずにメラメラと火が湧き立っているさまを見ると、俺も『異世界』にやってきたんだなあと改めて思い知らされる。きっとこの先、元いた世界の事象や原理では説明もつかないようないろんなことが待ち受けているんだろうな。

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