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第一話⑧

「絶対に腕を緩めるなよ」

 ガークはそう言って、躊躇うことなく地面を蹴った。俺の心の準備をしている間はなかった。

「うわああああ!!!!」

 ガークの背中に唾を飛ばしながら、俺は素っ頓狂な声で叫んだ。ガークの首が締まるんじゃないかと思うほどにきつく、彼の体にしがみつく。内臓がふわりと宙に浮くような感覚。それなのに体は垂直に落ちていく。時間にすればほんの数秒のことだっただろうに、俺には五分にも十分にも感じられた。

「うるさい小僧だ」

 ガークは平然としている。上を見れば空が遠くなっていくし、ガークの背中越しに下を見れば、ぐんぐんと地面が近づいてくる。地面が見えているだけましか。体感何十メートルも落下した俺たちはやがて、ドーン! とけたたましい音を立てながら着地した。

 ガークの体重がいくらかは知らないけれど、ギチギチに筋肉の詰まった逞しい体は、おそらく俺よりも重いはずだ。それに俺の体重も加わって、ガークが着地した地点は、彼の足の形に沈み込んでいた。接地したときの衝撃は相殺できなかったようで、俺の腕がびりびりと大きく痺れて、やがて全身へと伝わっていった。

(ぐおおおおおおっ……)

 俺は心の中で苦悶の叫びをあげる。それを声に出してしまえば、着地の衝撃程度で体にダメージを負ったことがばれて、恥ずかしいからだ。

 全身の痺れは脳天を突き抜けて、体の中を往復する。俺はガークにしがみついたまま、ぎゅっと目を閉じて衝撃を堪えていた。

「どうした、コタロー」

 もろに衝撃を喰らったはずのガークは、平然としている。彼にとっては、まるでちょっとした段差からぴょんと飛び降りた後のような感覚なのだろう。

「おまえ、なかなか凄えな……」

「この程度、何ということはない」

 言ってみてえ! そのセリフ、平然と言ってみてえ!

 まだドキドキしている心臓の鼓動を感じながら、俺はガークから離れて地面に立った。膝が震えている。

 深呼吸をする。土の匂いが鼻腔をくすぐり、風に乗って消えていく。俺とガークが降り立ったのは、崖の中腹にある出っ張りだった。柵などで保護はされていないが、足場はしっかりとしていて、そう簡単には崩れそうもないことは救いだった。

 後ろを振り返ると、崖の岩肌を削るようにして、空洞ができていた。中は暗く、奥は見えない。岩に染み込んだ雨水がちょろちょろと滲み出ており、地面は少し湿っていた。

「この洞穴の奥に、長老がいる」

 そりゃあそうだろうと、俺は頷いた。ここまで降りてきていて、何も関係がないわけがないのだから。

「俺のあとについてくれ」

 ガークはそう言って洞穴の中に足を踏み入れた。裸足の足でいろんなところを歩くのは、いくら体の作りが俺たちと違うとは言っても、ほんとうに痛くないのだろうか。

 洞穴の奥に進むにつれて、暗闇はどんどん深まっていく。暗闇に順応していない俺の視野は狭まり、ほとんどガークにしがみつくようにして歩く羽目になった。

 足元がぬかるんでいて、スニーカーに泥が跳ねている。日差しのない空間は、外と比べると随分ひんやりとしていた。

 ガークはここに来慣れているのだろう。迷うことなく歩を進めている。入口から差し込んでいた光は、ついに見えなくなった。

「ここは昔、戦争で捕まえた捕虜を閉じ込めておくために使っていた場所でもある。オマエが思っているよりも広いだろう」

「そうだな」

 てっきり、崖の途中に洞穴がちょこんとあって、長老はそこに身を潜めているのだと想像していた。実際は岩場に洞窟があって、見た目以上に地下の空間ができていた。これはもしかすると、竜族の集落があった場所まで延びているんじゃないだろうかと推察した。それをガークに言うと、一笑された。

「ならば我々がわざわざ遠回りをして崖を下らなくとも、集落の一角に入口を作ればよかろう」

 長老の身柄は集落から遠ざけておく必要があるのだと、ガークは言った。



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