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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅲ 『時の回廊編』
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11.リスタート2⊕

 意識を取り戻した香月が最初に見たのは、どこまでも続く白い景色だった。

 ここに来るのは二回目だ。どうやら、無事に成功したらしい。恐らく、時を戻ってやり直すには自分が死ぬ事が発動の条件になるのだろうという事はわかった。

 

「思った通りだ……。死ぬとやはりここに来るんだな……」

 

 香月はそう呟きながら周囲を見渡した。前回来た時と何も変わらない、ただ白いだけの空間が広がっていた。そして、そこにはやはり彼女の姿があった。

 長い銀髪、そして赤い瞳の幼い少女だ。

 

「よう、また会ったな……」

 

 彼女は相変わらず無表情で、空中に浮かぶ黒い立方体に座っていた。その赤い双眸が香月を捉えると、不思議そうに首を傾げる仕草をした。

 

「キミに聞きたい事があるんだ」

 

 そう言って香月は一歩前に出る。すると彼女は香月の目の前に降りてくる。

 

「……?」

 

 言葉が通じている様子は無さそうだ。だが、構わずに香月は続ける。

 

「俺は死んで、またここに戻ってきた。ここは何処なんだ? キミは誰だ?」

 

 彼女は答えない。ただじっと香月を見ているだけだ。それでも香月は続ける。

 

「キミが何者なのかは知らないが、この不思議な空間で何故かキミはここに居る」

 

 彼女は何も答えず、ただじっと香月を見つめているだけだ。だが、その赤い瞳は何かを言いたがっているように見えた。

 

「また、何度も顔を出す事になる……と思う。その時はまたよろしくな」

 

 そう言って香月は彼女に右手を差し出す。彼女はその手と香月の顔を交互に見るが、やがておずおずとその手を握った。

 

「ありがとうな」

 

 香月は笑顔でそう言うと、彼女の頭を優しく撫でた。すると、彼女は驚いたのか少し体を強張らせた。だが、すぐに力を抜いて身を委ねる姿勢になる。

 

「またな……」

 

 そう言って手を離すと、彼女は名残惜しそうに香月を見つめていた。しかし、やがて諦めたように小さく手を振ると、香月の背後の方を指さした。

 

「?」

 

 香月は振り返ると、そこには以前この白い空間に来た時に現れた大きな振り子時計があった。振り子時計から、ボーン……ボーン……と時報の音が鳴り始める。

 

「そうか。もう、時間か……」

 

 香月がそう呟いた直後、振り子時計の針が左回りに動き始めた。そして時を刻む音が徐々に早くなっていく。やがてその音はどんどん大きくなり、やがて耳を塞ぎたくなるような大音響になると同時に、香月の意識はそこで途切れた。


     ◆

 

 次に香月が目を覚ました時、そこはやはり陽子の魔術工房のベッドだった。

 

(……思った通り、戻ってるな)

 

 香月は上半身を起こすと自分の胸元をさすりながらそう呟く。自分の左胸にナイフを突き立てて自害したのは、自分が死亡する事でこの時間に戻ってくる確信があってこその行動だった。

 そして、その確信通りに戻った事を実感する。香月は目を閉じ、大きく深呼吸をした。

 

「さて……」

 

 目を開けた香月はベッドから降りると、ティーテーブルで紅茶を淹れている陽子の元へ向かう。

 

「おや少年、やっと起きたんだね? おはよう。生まれ変わった目覚めの気分はどうかな?」

 

 この陽子の台詞も三度目だ。

 

「ああ、いい気分だよ」

 

 香月はそう答えながら陽子の対面の椅子に座る。本当は良い気分などでは無い。

 何せイヴは自分の義父であるエドワードが何かしらの方法で肉体を乗っ取っているのがわかったからだ。

 

 陽子からカップを受け取り、紅茶を一口飲む。いつも通り美味しい紅茶だ。そして一息つくと、香月は陽子に言った。



挿絵(By みてみん)


 

「霧島麗奈についてなんだが──」

「彼女ならここから数日後に襲撃を仕掛けてくるよ」

「ああ」それは何度も経験した、そんな言葉を脳裏に浮かべながら香月は頷く。「それなんだがな、こちらから待つ必要は無いと思う」

 

 香月の言葉に、陽子は目を見開く。

 

「? それはどういう事かな?」

「麗奈が仕掛けてくるまで待つんじゃなくて、こっちから襲撃する」

 

 香月はそう言い切った。その目には、確かな自信があった。陽子がそれを吟味するように目を細める。

 

「……どうやって? 彼女の居場所がわかると言うのかな?」

「ああ、霧島麗奈のアジトに心当たりがある」

 

 心当たりがあるどころではない、その場所はハッキリとわかっている。前回のやり直しで麗奈のアジトの場所ははっきりとわかっているのだ。しかし、その点は誤魔化す事にした。未来から戻ってきているという話をおいそれと簡単に言うべきではないという判断だ。

 

「ふーむ?」

 

 陽子はそう言って顎に手を当てると、何かを思案するように天井を見る。そして、呟くように言った。

 

「いいよ、少年。君のその案に乗ってみようじゃないか」

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