25.死
『……』
『……まだ意識がある?』
香月は徐々に意識が戻っていくのを感じた。しかし身体全体は重く、動かそうと力を込めようとも力が入らない。まるで身体全体に疲労感のような重さがのしかかっているように思える。
『イヴ……?』
声を出そうにも口が開かない。瞼は閉じたままで意識の中で自分が暗い水底に沈みこんでいくような、そんな錯覚に囚われる。
『ああ、俺死んだのか……』
肉体を乗っ取られたイヴに魔術を使われて、肉体は跡形も無いほどになった筈だ。
『……イヴ』
彼女の肉体を乗っ取られた人物は人をまた一人、また一人と殺めていくのだろうか? そんな疑問を頭に浮かべる。
今となってはそんな事すらももうどうでもいいことのように思える。
『結局、俺は誰も救えなかったな……』
香月は自嘲する。
『もう、どうでも良いか……』
それでも今はこの暗い水底に沈んでいたかった。もう何も考えたくないし感じたくなかった。
そうして、意識はゆっくりと底へ底へと沈んでいった。




