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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅱ『ディヴィッド・ノーマンの残党編』
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22.覆面の襲撃者達⊕

 霧島麗奈が病室から飛び降りた数分後、香月は目の前の光景に言葉を失っていた。

病院に複数の覆面の男達が押し入り、次々と病室を物色している。病院内のあちこちで銃声と悲鳴と怒号が聞こえてくる。



挿絵(By みてみん)



「Where is the target? (標的はどこだ?)」

「Find it, sharpish.(早急に探せ)」


 男達は低い声で呟きながら病室を荒らし回っている。

 言語は英語のようだが、どこの国の人間かは判断がつかない。だが、比較的慣れ親しんだ発音に近いと考えると相手は英国人かもしれない。


(英国訛りか……人数は多そうだ)


 彼らが病室に入る度に銃声や爆発音が鳴る。香月は咄嗟に身を隠したが、このままでは見つかるのは時間の問題だろう。


(まさか……レナード・オルランドの手先か?)


 香月は冷や汗を流しながら考える。もしそうだとしたら非常にまずい状況だ。押し入ってきた男達の狙いはイヴの奪還か、それとも麗奈の遺体──または彼女が持っていた何かの回収か。事の重要性で考えるとイヴを狙っていると考えるのが妥当なのかもしれない。わからないが、どちらにせよこのまま放置する事はできない。


(どうする……?)


 香月は必死に思考を巡らせるが妙案は何も浮かばない。その間にも男達は次々と病室を荒らし回っている。


「Hey, you there! What d’you think you’re doing!?(おい、お前! 何をしている!)」


 その時、背後から声を掛けられた。振り返るとそこには覆面の男が立っていた。香月は咄嵯に身を隠そうとするが、その前に腕を掴まれてしまった。


「Stay put!(大人しくしろ!)」


 男はそう言って懐から拳銃を取り出した。香月は抵抗しようとしたが、その隙もなく後頭部に銃口を突きつけられた状態で拘束されてしまった。


「Oi! Detain this one!(おい!コイツを拘束しておけ)」


 リーダー格の男が指示すると他の男達が駆け寄ってきて香月を取り押さえようとする。

 香月は隙を付くと、男達を投げ飛ばしながら拘束から抜け出した。


(何だ……?銃を使っているという事は魔術師じゃないのか……? いや……)


 香月は覆面の男達を見ながら考える。確かに銃器は魔術師があまり好んで使う物ではない。レナードのような魔道具化した物ならともかく、恐らくは通常の銃器だ。

 だが、それでも魔術を使える可能性はある。それにこの手際の良さを考えると、ただの一般人たちとは思えない。やはりレナード・オルランドが関わっているのだろうか?


(どちらにせよ、まずはここから逃げるしかないか)


 香月は冷静に判断するとその場から離れようとするが、その前にリーダー格の男が立ち塞がった。


「Do you reckon you’ll let it get away?(逃すと思うか?)」


 リーダー格の男は低い声で言うと、香月に襲い掛かってきた。

 香月は咄嗟に避けるが、男はさらに追撃してくる。


「ちっ……!」


 香月は舌打ちすると、男の攻撃を避けながら反撃する隙を伺う事にした。だが、男の動きは非常に素早く、なかなか反撃の機会がない。


(仕方ない……)


 香月は覚悟を決めると、男の攻撃を避けながら懐に潜り込む。


Enhance(エンハンス)《肉体強化》」


 自在術式を意識せずとも発動させれる方の肉体強化魔術を発動させる。

 鳩尾に拳を思い切り叩き込んだ。男は呻き声を上げて倒れると動かなくなった。どうやら気絶したらしい。


「Oi! Are you alright?(おい!大丈夫か?)」


 他の男達が駆け寄ってくる。香月はそれに構わず廊下を駆けていく。


「Halt!(止まれ!)」


 背後から怒声が響き渡るが、無視して走り続ける。目指す方向はイヴが居るであろう、病室だ。今夜はもう遅いから少しの検査をして残りの検査は翌日に回して泊まっていく事になっていた筈だ。


「Move out of the way!(そこをどけ!)」


 男達が追ってくる気配を感じる。香月は速度を上げながら廊下を駆け抜けていく。やがて目的の病室が見えてきた。香月は勢い良く扉を開くと中に飛び込む。

 部屋の中にはイヴが居た。彼女は驚いたようにこちらを見ている。その手には携帯電話が握られていた。恐らく誰かと連絡を取っていたのだろう。マネージャーあたりだろうか。

 だが、そんな事はどうでも良かった。今は一刻も早くここから立ち去る必要があるのだ。


「早くここから出るぞ」


 そう言って香月はイヴの手を掴むと走り出す。だが、その時、背後から「Stay put(動くな)」という声が聞こえた。振り返るとそこには覆面の男が立っていた。


「You… who the bloody hell are you?(貴様……何者だ?)」


 男が訝しげに聞いて来る。香月は答える事なく、男に向かって駆け出す。


「ちっ!」


 男は舌打ちすると、香月に向かって発砲した。銃弾が肩を直撃するが構わずに突進する。そして男の懐に入り込み拳を叩き込むと男は倒れた。


「…! You git!!(……っ!この野郎!!)」


 他の男達が一斉に襲いかかってくる。香月はそれを避けながら反撃する。一人、また一人と気絶させていくが、突然背後に気配を感じた。振り返るとそこには別の覆面の男が居た。男は拳銃を向けてきていた。


(しまった……!)


 香月は咄嵯に身を隠そうとするが間に合わず、銃弾を腹部に撃ち込まれた。衝撃で吹き飛ばされ壁に激突し倒れ込む。


「香月君!」


 イヴの叫ぶ声が聞こえる。

 香月は立ち上がろうとしたが、体に力が入らない。どうやら先程の攻撃で内臓をやられたようだ。


「イヴ!逃げろ!」


 香月は必死に叫ぶが、イヴは動かない。覆面の男達に囲まれるイヴを見て香月の中で怒りが込み上げてくる。


(くそっ……!)


 香月にはどうする事もできなかった。ただ見ている事しか出来なかったのだ。やがてリーダー格の男がイヴの腕を掴むと無理矢理立たせた。そしてそのまま引き摺るように連れ去っていく。


「待て……!」


 香月は手を伸ばすが、届くはずもない。イヴは男達に連れられていく。


「Target secured. We’re pulling out!(標的を確保。撤退するぞ!)」


 リーダー格の男が叫ぶと、他の男達がイヴを連れて病室から出て行く。


「クソッ、待て……っ!」


 香月は必死に起き上がろうとするが、体に力が入らない。

 その時だった。病室の入口から影が床を這うように伸びてくると、イヴを避けるように男達だけを刺し貫いた。

 覆面の男達は悲鳴を上げる間もなく倒れ伏す。


「不甲斐ないな、大神」

「ロナルド……!」


 影の中から現れたのはロナルドだった。イヴを抱きかかえると、香月を見た。


「大丈夫か?」

「何とかな……」


 香月は力なく答えると、ゆっくりと立ち上がった。腹部を抑えているが出血は少ないようだ。自在術式で回復魔術を剽窃する。


「……っ!」


 腹部の痛みが引いていき、出血が止まった。体内に入ってしまった鉛玉は二の次だ。今はともかくイヴを無事に安全な場所まで連れて行かなくてはならない。


「……助かったぜ、ありがとうな」

「フン、未来の為にやった事だ。貴様の為になどではない」

「ハッ、そうかよ……」


 香月は苦笑を浮かべながら呟く。そしてイヴに視線を向けると、彼女は不安そうにこちらを見ていた。


「大丈夫か?」

「うん……大丈夫だけど……」

「どうした?」

「……私のせいでこんな事になっちゃったんだよね?ごめんなさい……」


 イヴは俯きながら言った。その瞳には涙が滲んでいるのがわかる。そんな様子を見てロナルドが口を開いた。


「気にするな、未来が気に病む必要は無い」

「……でも……!」


 イヴはさらに言い(つの)ろうとするが、それを(さえぎ)るように香月がかぶりを振った。


「イヴのせいじゃない。悪いのはお前を狙ってる連中だ」

「……でも……」


 イヴはまだ納得していないようだった。そんな彼女の肩にロナルドが手を置くと、安心させるように言った。


「心配いらないさ、我々がいる限り未来に危害は加えさせないよ」

「……本当?」

「ああ、約束する」


 ロナルドは力強く頷く。考え込むように、香月が言葉を漏らす。


「……しかし、相手の正体が分からないな。動きを見る限り、軍隊経験者のように見えるけどよ……」

「ああ。だが、一つだけ確かな事がある」


 香月の言葉にロナルドが頷いた。そうして言葉を続ける。


「奴らは我々の敵だという事だ」

「そうだな……」


 香月は同意するように呟いた。覆面の男達の正体はまだ分からないが、少なくとも友好的な存在ではない事は確かだろう。


「ここを脱出しよう。詳しい事はそれからだ」

「ああ……」


 ロナルドの言葉に香月は頷いた。

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