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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅱ『ディヴィッド・ノーマンの残党編』
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14.霧島麗奈との再戦⊕

「一体……何処(どこ)にいやがるんだ……?」

 

 香月は魔術人形達との戦闘を避けつつ商店街を駆け抜けていく。そしてようやく商店街の突き当たりへと辿り着いた時、彼は思わず息を飲んだ。そこには一人の女が(たたず)んでいたからだ。黒髪のロングヘアを巻き髪にしている女──霧島麗奈だ。彼女は不敵な笑みを浮かべつつもこちらを睨みつけてくる。

 

 彼女の周囲には同じ日本中部支部の構成員達が倒れていた。麗奈に襲われたらしかった。まだ息はあるようだが──

 

「くっ……、霧島麗奈……! テメェ……!」

 

 香月が思わずそう呟くと、彼女は不敵な笑みを崩さないまま口を開いた。

 

「ふふ……やっと来たわね。会いたかったわ」

「……っ! 皆をお前に殺させる訳にはいかねえ!」

 

 香月がそう叫ぶと、彼女は小さく笑った。

 

「ふふ、そうよね。貴方にとっては大事な仲間達だものね?」

「お前の復讐の相手は俺だろう⁉︎ 何故他の皆も巻き込んでここまでの事をする!」

 

 香月はそう言うと拳を握りしめた。そんな彼を見て霧島麗奈は笑みを浮かべると、ゆっくりと近づいて来る。彼女はそのまま右手を前に差し出してきた。

 

「わかってるはずよ。私はディヴィッドを死に追いやった貴方を、貴方達を許さない。だからこうして力を得た私はディヴイッドを殺した貴方達を殺しに来た」

 

 霧島麗奈はそう言うと、右手の甲を見せつけてきた。前に対峙した時にはなかった魔術刻印だ。この短期間で更に魔術刻印を増やしてきたようだ。



挿絵(By みてみん)


 

「貴方を殺す為に色んな魔術刻印を全身の隅々に至るまで彫ったわ。でも、ただ貴方だけを殺すのは意味がない。より貴方が絶望を感じるようにしなければ。だからまずは貴方の周りにいる仲間から順番に殺してあげる事にしたの」

 

 霧島麗奈はそう言うと、再び香月の方へと歩み寄って来る。香月は思わず後ずさりしてしまうが、何とか踏み止まった。

 

「させねえよ!」

 

 香月はそう叫ぶと麗奈に向かって駆け出した。そして、彼女の顔面目掛けて拳を放つ。しかし、彼女はその攻撃を軽々と受けてみせた。

 

「甘いわね」

 

 霧島麗奈は不敵な笑みを浮かべると、そのまま香月の腹部に蹴りを入れた。

 

「がっ……!」

 

 強烈な一撃だった。肉体強化魔術の効果は継続しているが、その効果を打ち破ってくる程に鋭い蹴りだ。

 恐らく、麗奈も肉体強化魔術を使っているのだろう。それにしても、魔道具で増幅されているのかその効果は絶大だ。

 

 香月は思わずその場に(うずくま)りそうになるが、何とか踏み止まる。だが、その瞬間を狙っていたかのように今度は回し蹴りを喰らってしまった。強烈な一撃によって吹き飛ばされるも、彼はすぐに立ち上がって体勢を立て直した。

 

「……っ! クソッ!」

「へえ……なかなか頑張るじゃない」

 

 霧島麗奈は余裕の表情でこちらを眺めている。そんな彼女に向かって香月は駆け出した。そして、渾身の一撃を繰り出すべく拳を振り上げる。だが、その時だった。突然、彼を(はば)むように目の前にわらわらと魔術人形の大群が押し寄せてきたのだ。

 

「なっ……!」

「あら、私の味方が来てくれたみたいね。なら貴方の大切な仲間達もここに加えてあげる」

 

 麗奈はそう言うとクスクスと笑ってみせる。香月は慌てて後退し魔術人形達との距離を取ると、周囲を見渡した。するとそこには倒れている仲間の姿が見えたのだ。

 

「さあ、立ち上がりなさい。私はデヴィッド・ノーマンの理想の代行者。彼の名の下に命じる、貴方達は目の前のあの男を殺すのよ!」

 

 麗奈がそう言うと、倒れていた魔術協会の構成員達がよろよろと起き上がる。精神干渉魔術を施されていたらしい。

 

「この野郎……!」

「ふふ……さあ、もっと無様に踊って? 貴方をなぶり殺すまで終わらないから」

 

 霧島麗奈は余裕の表情でこちらを眺めている。そんな彼女を睨み付ける香月だったが── その時だった。彼の耳に聞き慣れた声が響いたのだ。

 それは、彼がよく知る声だった。

 

『カヅキッ! 耳を塞いで!』

 

 声の方へ視線を向けるとそこには一人の少女が立っているのが見えた。ショートカットの金髪に無表情な青い瞳が特徴的な少女だ。彼女は不安そうにこちらを眺めている。その少女はクレアだった。

 

「クレア!?」

『カヅキ、耳を塞いで! 早く!』

 

 急かすように伝声魔術で直接耳に届けてくるクレアの声に言われた通り、香月が耳を塞ぐ。すると、クレアが何かを呟いた。

 次の瞬間、周囲に耳をつんざくような轟音が響き渡ったのだ。

 

 そうして、魔術人形と操られた構成員達の群れの中で構成員達だけが気を失うようにバタバタと倒れ出した。

 

「これは……⁉︎」

 

 思わず、香月は驚いた。

 クレアが使った魔術は恐らく内耳の中にある蝸牛や前庭器官に強い音波を叩き込むと平衡感覚が麻痺するという効果を利用した物のようだった。

 

『ボクの音の魔術、音響炸裂(ソニックブラスト)だよ。協会の皆には申し訳ないけど、一時的に動けない状態になって貰った。目が覚めて起きた時に頭ガンガンするかもだけどね』

「お前、いつの間にそんな……」

『まさか、学会で音魔術の第一人者とまで言われてるボクがただ音を出すだけの魔術で終わらせる訳が無いでしょ? 色々研究を進めてるのさ』

 

 クレアはそう言うと小さく微笑んだ。そしてそのまま倒れている構成員達を見ると胸が動いていたり呻いていたりする様子が見えた。どうやら全員生きているようだ。

 

「皆無事そうだな……」

『安堵している場合じゃないよ。まだこの騒動を起こした張本人が残ってる』

「そ、そうだったな」

 

 そうやり取りをし、二人は麗奈に向かって身構える。

 

「へえ……やるじゃない」

 

 霧島麗奈の声だ。彼女はいつの間にかすぐ近くまで来ていたらしい。そして、その傍らには魔術人形達も控えていた。

 

「まさか、私の精神干渉魔術をあんな方法で相殺するなんてね。これは風魔術かしら? それとも音の衝撃波?」

 

 そんな麗奈の言葉にクレアは無表情のまま答える。

 

『悪いけれど、ボクの音魔術に関して高説垂れてる時間があるほど暇じゃないよ。この騒ぎの元凶は貴方だよね? だったら、ボクのするべき事は一つ。カヅキと一緒に貴方を倒す事だ』

「あら、威勢がいいわね。嫌いじゃないわよ、そういうの」

 

 霧島麗奈はそう言って笑みを浮かべるとゆっくりと歩き出した。そして右手を前に出すと指をパチンと鳴らす。その瞬間、彼女の周囲を取り囲んでいた大量の魔術人形達が一斉に二人へ襲いかかった。

 

「いくぞ、クレア!」

『うん!』

 

 二人はそう声を掛け合うと一斉に駆け出した。香月が一体目の魔術人形を殴り飛ばすと同時にその背後にいた別の魔術人形に回し蹴りを入れる。そしてそのまま二体の魔術人形を同時に蹴り飛ばしながら麗奈へと迫る。

 

 だが、そんな香月の前に三体の魔術人形が立ち塞がる。彼は舌打ちをすると目の前の魔術人形に向かって拳を振り抜いた。しかし、その攻撃はあっさりと受け止められてしまう。

 

「へえ、人形の(くせ)に意外と良い(ちから)してんじゃねえか」

 

 香月はニヤリと笑うとそのまま目の前の魔術人形を思い切り蹴り飛ばした。その隙を狙っていたかのように背後から別の魔術人形が飛びかかってくる。だが、彼はそれを予測していたかのように身を翻すと後ろ蹴りを放つ。

 

「オラァッ!」

 

 強烈な一撃を受けて吹き飛ぶ魔術人形を尻目に、今度はクレアが三体もの魔術人形を相手に戦っていた。彼女は一体目の攻撃をかわすと二体目の腕を掴むと人形の力を利用するように投げ飛ばし、

Aero Blast(エアロブラスト)!」

 三体目の拳を避けると風魔術でその全てを吹き飛ばした。

 

 そして、そのまま身を(ひるがえ)して四体目の魔術人形の腹部に手を当てて魔術を発動する。

 

Resonant(レゾナント) Collapse(コラプス)

 

 それは共振により対象を振動破壊する魔術だった。魔術人形は内部から破壊され、損傷のある箇所から黒い霧を吹き出すとその動きを止めた。

 

『カヅキ! まだ来る!』

 

 クレアの言葉に香月は頷く。すると今度は背後から魔術人形が襲いかかってきた。

 だが、彼はそれを予測していたかのように振り向きざまに跳び回し蹴りを放つ。

 

「このっ!」

 

 次々と襲いかかる魔術人形達に香月とクレアは苦戦を強いられていた。

 

『カヅキ、このままじゃ(らち)があかない!』

「わかってる! だが、こいつら思ったよりも強いな……!」

 

 そうこうしているうちにも新たな敵が次々と現れてくる。このままではジリ貧だ。何か手は無いか──そう思った時だ。

 突然、麗奈が笑い出した。

 

「ふふ……あははは! 凄いわね、貴方達。まさかここまでやるとは思わなかったわ」

「余裕のつもりか?」

 

 香月がそう尋ねると彼女はニヤリと笑ってみせた。

 

「いいえ、違うわよ? だってもう目的は達成したもの」

「何……?」

 

 そんな麗奈の言葉に(いぶか)しげな表情を浮かべたその時だった。

 

『カヅキ! 何か様子がおかしいよ!』

 

 クレアの叫ぶような伝声が耳の奥で響く。それと同時に麗奈の体から黒い霧のようなものが漏れ出したのだ。

 

「これは……」

『あの魔術人形達と同じ……?』

 

 困惑する二人を前に、麗奈が妖艶に笑みを浮かべる。

 

「ふふ……そうよ。これは私の姿を模した魔術人形。でもただの魔術人形じゃないわ。私の分身、いや……人格すら再現した上位互換ってとこかしら」

「上位互換だと?」

「そう。まあ、この個体も目的は済んだから用無しなんだけれど。だから、これは貴方達への置き土産」

「何を言ってやがる……?」

 

 香月がそう呟くと麗奈の姿をした魔術人形は再び笑みを浮かべた。

 

「ふふ、まだわからないかしら?」

 

 彼女はそう言うと右手を前に差し出した。そしてそのままパチンと指を鳴らすと、その背後にいた魔術人形達が一斉に動き始めたのだ。

 

「なっ……!?」

『か、カヅキ……!?』

 

 一斉に飛びかかってきた魔術人形達は香月とクレアを取り押さえるとそのまま地面へと押し倒す。そして、そのまま身動きが取れないように手足を拘束してきたのだ。

 

「くそっ……離せ!」

『カヅキ!』

 

 二人は必死にもがくが魔術人形の力は強くビクともしない。すると、麗奈の姿をした魔術人形はゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

「ふふ……無様な姿ね。そしてもうお終い」

 

 彼女はそう言うとクスクスと笑う。そしてそのまましゃがみ込むと二人を覗き込んできた。

 

「くっ……何をするつもりだ!」

「もちろん、貴方達を殺すのよ。殺すと言っても殺すのは私じゃないけどね」

 

 彼女はそう言うとゆっくりと立ち上がる。そして、一本のナイフを取り出すと自らの胸に突き刺した。

 

「な、何を……」

 

 香月が驚いていると彼女はニヤリと笑う。

 

「ふふ……言ったでしょう? これは分身だって」

 

 麗奈の姿をした魔術人形はそう言うとニヤリと笑った。そして、それと同時に彼女の体から大量の黒い霧が放出されたのだ。それはまるで血液のようでもあった。麗奈の分身体に込められた魔力だ。

 

「な、何を……!?」

『カヅキ! 気をつけて!』

 

 クレアが叫んだ瞬間だった。その黒い霧は周囲の空気と混ざり合うように辺り一面に広がっていく。

 やがて視界が覆われた時、その魔力は急速に収束し、そして周囲の全てを吹き飛ばすように爆発を起こした。

 

「クレアッ!」

『カヅキッ!』

 

 二人の叫び声が響くと同時に辺り一面に爆発音と衝撃が走る。そして、周囲にいた魔術人形達も建物も爆風に吹き飛ばされた。

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