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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅱ『ディヴィッド・ノーマンの残党編』
53/164

12.教会にて⊕

 香月が霧島麗奈から襲撃を受けて一日が経った。

 

 香月はロナルドを連れて大須商店街にある教皇庁傘下の分教会に来ていた。こじんまりとした教会だ。

 

 その教会は、ゴシック調なデザインが施された建物だった。ガラス張りのファサードには自然光がたっぷりと降り注ぎ、白い壁とシンプルなインテリアが清潔感を醸し出している。教会の外は商店街の喧騒が続いているが、中に入ると静寂と落ち着きが広がっていた。

 

 中に足を踏み入れると、開放感のある空間が広がり、香月は一瞬その広さに圧倒された。ガラス越しに見える青空と緑の庭園が、訪れる者の心を和ませる。祭壇の前にはシンプルなベンチが配置されている。

 

 そこで保護されているイヴの様子を見に来たのだ。

 

「香月君! ロニお兄ちゃんも!」

 

 イヴは、二人が教会を訪れると笑顔を浮かべて出迎えてくれた。そんな彼女に二人は笑顔を向ける。

 

「怪我とかはなかったか? 悪いな、モデルの仕事で忙しい筈なのにまたこんな保護をされる状況になっちまって」

 

 香月がそう言うと、彼女は嬉しそうに首を横に振る。

 


挿絵(By みてみん)



「ううん、不謹慎かもしれないけど──こうやって香月君とまた関われるようになったから嬉しいんだよ」

「そうか……」

 

 彼女は満面の笑みで答えるが香月の方はというと、その言葉とは裏腹に浮かない顔をしていた。

 

「イヴ……俺は、できれば魔術の世界とは関係のない普通の生き方をして欲しいと思っている。でも、魔術の世界の奴らは君にそれを許さないらしい。俺達を襲ってきた霧島麗奈の裏に糸を引いてる勢力が居るらしいんだ。また君が狙われる可能性が出てきた」

「うん……分かっているよ。仕方ないよね、私が始祖人類の先祖返りだから……でしょ?」

 

 イヴはそう答えながらどこか寂しそうな笑みを浮かべる。

 

「あぁ……」浮かない顔のまま香月が返事をする。「あくまで可能性の段階の話だが、だが俺は君の普通を守りたいと思っている」

 

 そんな香月の言葉にイヴは嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとう、香月君……でも、私は大丈夫だよ。だって──」

 

 彼女はそこで言葉を止めると、少し間を置いてからこう続けた。

 

「ただ守られてるお姫様みたいな立場ってちょっと性に合わないけど、でもこうするしかないのも分かるからさ。不自由だよね、本当」

「イヴ……」

 

 香月が彼女の名を呼びながら視線を向ける。

 

「だから……私のできる方法で頑張ることに決めたんだ。また教皇庁の皆や魔術協会の皆から守られる事にはなるんだろうけど……私は自分の選んだ道を進みながら、自分の力を出し切ってみたい。だから、香月君にはこれからも私を守っていて欲しい」

 

 イヴはそう言うと、香月に笑顔を向けた。

 

「あぁ……もちろんだ。俺は君を守ると約束したからな。中部支部の方からも人を出してもらうつもりだ」

 

 香月はそう答えると彼女の頭を優しく撫でた。

 

「えへへ……」

 

 イヴが嬉しそうに微笑む。

 そこで香月のポケットからスマホの着信音が鳴った。彼はスマホを取り出して画面を見る。

 ジェイムズからだ。

 

「悪い、ちょっと電話だ」

「うん、分かった」

 

 香月はイヴにそう告げると、教会を出て少し離れたところで電話に出た。

 

『カヅキ、お前さん今どこに居る? 至急だ。大変な事になった』

「あぁ、今は大須の教会に居るが……どうした?」

『街中で、大量の人形が暴れている』

「何だって?」

 

 香月はジェイムズの言っている意味が理解できず、思わずそう聞き返していた。

 

『街中で人形が暴れてるんだよ。しかも、ただの人形じゃない。魔術で動くタイプの人形だ』

「魔術で動く……まさか」

『あぁ、そのまさかだ。魔術人形だよ。機巧魔術という人形に魔術で擬似的な魂を吹き込んだ存在だ。これらの人形は、術者の命令を忠実に実行するだけでなく、自らの判断で状況を分析し、最適な行動を取る』

「おいおい、そんなのが街中で暴れてるのかよ! しかも大量に⁉︎」

『かなりマズい状況だ。日本中部支部(ウチ)構成員(エージェント)を総動員して、現場の封鎖と人祓いの結界の展開、それと目撃者の記憶処理を急がせている。戦闘班も出動させている。お前は戦闘班の援護に入るんだ』

「分かった、今すぐ合流する」

 

 香月は電話を切ると教会に戻る。中に入るとイヴが不安そうな表情を浮かべて立っていた。

 

「香月君、何かあったの?」

「あぁ……実は……」

 

 香月は彼女に事情を説明した。

 イヴが不安げな表情をするのを一瞥し、香月がロナルドに向かって言う。

 

「すまない、ロナルド。この騒ぎのドサクサにイヴを(さら)いに来る奴が居ないとも限らない。だから……」

 

 香月はそこで言葉を止める。

 

「ああ、分かっている。検邪聖省から祓術師(エクソシスト)を招集する。未来(みら)は我々が守る」

 

 ロナルドがそう答えた。そして、彼は続ける。

 

「大神、貴様は貴様の成すべきことをするんだな」

「あぁ……分かった。感謝するよ、ロナルド」

 

 香月はそう言うと教会を飛び出した。そしてそのまま街の中心部に向かって駆け出した。

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