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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅱ『ディヴィッド・ノーマンの残党編』
42/164

1.プロローグ⊕

 その日、霧島悟史は血の気が引く感覚をおぼえた。それは普段通りの業務をしている中で突然の銃声とともに、梧史の勤める名労銀行栄町支店はパニックに陥ったからだ。

 

「動くな! 手を挙げろ!」

 

 鋭い声が響き渡る。それはまるで号令のように。

 振り返ると、そこにはツーブロックにした赤髪をオールバックの髪型にした男が立っていた。冷酷な目つきで、彼は銃を手に持っている。

 霧島はカウンターの裏で動けずにいた。いや、何故か思った通りに動く事ができなかったのだ。心臓の鼓動が耳の中で鳴り響き、息が詰まる。

 

「安心しろ! お前達からは何も奪わない! 貰うのはこの銀行の金だけだ!」

 

 カウンターの中へ入ってきた男の声がさらに鋭くなる。銀行員たちは恐怖に凍りついた表情を浮かべ、誰も動けないでいた。

 いや、男が号令のように放った言葉に従わされるように、身体が硬直して動かなかったのだ。霧島もその一人だった。

 

「金だ! 立て、お前が金庫を開けろ!」

 

 男は銃を持ち上げると、近くの同僚の豊島に銃口を向ける。彼女は震えながらも命令に従うように立ち上がる。

 男は彼女に問う。

 

「お前は暗証番号を知っているか? 答えるんだ」

 

 彼女は震えながら首を横に振る。その返答を見て、今度は男が霧島に銃口を向けてくる、そして再度同じ質問をして来る。

 男の指に嵌められた指輪がやけに気になってしまう、視線が吸い込まれるように何故かそれを見てしまう。

 

「お前は暗証番号を知っているか? 答えろ」

 

 答えられる筈が無い──

 

 そう頭では思っていても、まるで男の声に強制されるように霧島は首を縦に振っていた。まるでその言葉に勝手に動かされるように。

 


挿絵(By みてみん)



「そうか、ではお前とお前。ついてこい」

 

 その言葉に従って、二人は男について奥の金庫室へと行く。

 

「金庫を開けるんだ」

 

 その言葉に従うように、霧島は金庫の暗証番号を自分の意に反して口にした。

 それを聞き、豊島が暗証番号を入力しようと金庫に近づいて行く。イヤイヤと首を横に振るが、その身体は男の命令に従うように金庫の暗証番号を入力しようとする。

 金庫の暗証番号を入力する彼女の指が震えているのが見える。霧島も同じように震えていた。

 

 男の顔は見覚えがあった。先週、金山店に押し入った強盗犯と同じ容姿だ。その冷酷な態度と動きには、ただの強盗ではない何かが感じられる。

 

 手慣れ過ぎているのだ。まるで、何十回もこのような犯行を繰り返してきたかのような手際の良さだ。それに、まるで催眠術にでも掛けられたかのように身体が言う事を聞かない。

 

「早くしろ! 死にたいのか!」

 

 男が銃を振り回しながら叫ぶ。その声に反応して、金庫の暗証番号を入力する彼女の指が一層速く動いた。

 

「や……止めろ!」

 

 霧島は声が上手く出せないのを、かろうじて押し通して叫んだ。止めなければ、彼女が殺されてしまうかもしれないと思ったからだ。だが、そんな言葉も虚しく響くだけだった。

 

「フン……やればできるじゃないか」

 

 金庫が開く音が響き、男は満足げに微笑んだ。その瞬間、霧島にある考えが脳裏に浮かんだ。もしかしたらこれはただの強盗事件ではないのかもしれない、何かもっと大きな陰謀が、この男の背後にあるのではないか──

 

 男は彼女の頭を小突くように銃口を突きつける。彼女へ渡すようにアタッシュケースを放り投げると言う。

 

「金を準備しろ。詰めるんだ」

 

 彼女は頷くと、震える手で札束をアタッシュケースに詰めていく。銀行員たちは恐怖で誰も動けず、ただその様子を見ているしかできなかった。

 

「よし、もういいぞ」

 

 男はアタッシュケースを受け取り満足そうに言うと、霧島のほうを向いた。

 

「おい……お前」

 

 男が近づいてくる。霧島は恐怖で声も出なかった。

 

「この銀行には勿論監視カメラはあるな? 何処(どこ)に設置されている?」

「……は、はい?」

 

 霧島は震える声で呆然と聞き返した。男は苛立ったように舌打ちすると、叫んだ。

 

「監視カメラは何処(どこ)にある? 言え!」

 

 男は銃口をカウンターの下で座り込む霧島に突きつける。やはり、男の手にある指輪へ視線が不思議と吸い込まれてしまう。それを見ていると脳裏がぼんやりとしてしまう。

 

「え……えっと……そこと……」

 

 霧島は金庫室内の監視カメラのある位置を指差しながら混乱していた。

 男の言葉に身体が勝手に従ってしまうのもそうだが、この男は妙な事を聞く物だという思考も脳裏に浮かんでいた。

 銀行強盗をする場合、そういう物は下調べをしてから来る物の筈だ。

 男の言葉に従うように口が勝手に喋り出す。その行為を止めようとしても、何かに強制されているかのように勝手に言葉が口に出て来る。

 

「それから……金庫室の入り口、窓口とロビー、それに入り口のATMコーナー……」

「よし、十分だ」

 

 男は嬉しそうにニヤリと笑うと、霧島から銃口を外した。

 霧島は混乱した頭で考える。この男は明らかに下調べをせずに、この銀行を襲撃している。それどころか金を奪いに来ているのは確かだが──まるで自分が銀行強盗をする様子が監視カメラに納まってる事を確認しているかのような様子にも見えるのだ。

 

「おい、お前……」

 

 男の言葉に霧島は顔をあげる。男の目を見た瞬間、頭の中で警鐘が鳴り響いた気がした。男の目はまるで獲物を狙う肉食獣のように爛々と輝き、口元は極限まで吊り上っていた。

 

「お前らからは何も奪わないと言ったな。悪いが、気が変わった。一人くらい、犠牲者は作っておいた方が都合が良さそうだ。お前はここで死んでくれ」

 

 男は銃口を霧島に再び向けると、引き金を引いた。胸を貫くような痛みを感じたその瞬間、霧島の視界は真っ白に染まり、何も見えなくなった──

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