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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
幕間「姫咲かりんはジェイムズが欲しい」
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後編

「──で? 意識を取り戻して気がついたら役所で婚姻届を出す一歩手前だったと?」

 

 時は進んで、その五日後の事である。ジェイムズが五日ほど行方不明な上に音信不通になっていた時の事を、彼が満月亭で話していたのを聞いていた香月は苦笑いしながら言った。

 

「ああ……。かりんと姫咲の御当主にまんまと()められたよ……。まさか姫咲の者総出で一芝居を打っていたなんて……命拾いをした気分だよ」

 

 ジェイムズが深いため息を吐く。香月は苦笑した。

 その時のかりんの魅了の魔眼はかなり強力に魔力を注ぎ込んだ物だったらしく、それを不意打ちで術中に落ちたジェイムズは四日間かりんに魅了されておりその記憶がなかったらしかった。

 

「あはは、それは災難だったな」

 

 そんな話をしていると、不意に満月亭の扉がノックされる音が鳴った。ノックの音は四回、恐らく協会の構成員だろう。


「開いてるよ」


 その合言葉と共にドアが開く音がした。まず入ってきたのは、かりんであった。どうやらジェイムズを探しているらしい。彼女はジェイムズを見つけるや否や駆け寄ってきた。

 

「ほら、噂の主の登場だな。ジェイムズ」

 

 カウンター席から、かりんの姿を見て香月が笑みを浮かべながら言う。ジェイムズが入り口の方を見てみると、かりんの後に続いていそいそとあおいも中に入って来ていた。

 

「おう、かりん。それにあおいさんも」

 

 ジェイムズは入ってきた二人に軽く手を挙げて応えた。かりんは両手に大きな紙袋を持っていた。その隣でバツの悪そうな顔で、かりんを促すように肘でつつくあおいの姿もあった。

 

「ジェイムズ! はい、これ!」

 

 かりんはジェイムズの前まで来ると紙袋を差し出した。受け取って中身を見ると中には高級菓子店の焼き菓子やケーキ、それにジェイムズの好きなウイスキーが大量に入っていた。

 袋の中を見、ジェイムズが口を開く。

 

「かりん。これは……?」

 

 聞かれ、かりんが目を逸らして頬を指でかくような仕草をした。

 

「私なりにジェイムズに悪い事したなぁって、反省したの。だから、ちょっとしたお詫び……」

 

 かりんが珍しく、普段のホワホワとした喋りじゃなくて真面目な喋り方をしている。それが面白くて香月はつい顔がニヤケそうになるがそれを我慢する。

 かりんの言葉にジェイムズが一つ嘆息した。

 

「おいおい、そこまではしなくて良いんだぞ。俺は気にしてない。だいたい、かりんが魅了の魔眼を使ってくるのはいつもの事じゃないか」

 

 ジェイムズがそう言うのに、かりんがかぶりを振る。

 

「ううん。さすがに婚姻届はジェイムズが納得してくれたらが嬉しいもん。だから、魅了で無理矢理させようとしたの反省はしてる」

「そうか……」

 

 ジェイムズがそう言うと、かりんはニコリと笑った。

 

「それにね、私分かったの。魅了で無理矢理結婚させても意味ないんだって」

「ほう? それはどうしてだ?」

 

 ジェイムズに聞かれ、かりんは少し考えるような仕草をしてから答えた。

 

「だって、魅了の魔眼を使うと〜、ジェイムズは私に凄いデレデレしてくれるでしょ? でもそれって本物じゃないと思うの。私はその……ちゃんとジェイムズに私の事を見て欲しいから……」

 

 そのしおらしい態度に思わずジェイムズがドキッとした顔をした。それを誤魔化すようにジェイムズは咳払いをすると、かりんに言った。

 

「そうか……分かったよ。そういう事なら受け取らせて貰おうかな」

 

 かりんは嬉しそうに微笑むと言った。

 

「だから、婚姻届はお互いに納得した時に出しに行こ。だから、だいたい一ヶ月後(・・・・)くらいに色々と報告するから……色々待ってて欲しいな」

 

 その何かしら意味ありげな言葉に、ジェイムズはポカンとしていた。香月もそれを見てポカンとしていた。香月の隣のカウンター席に座っていたクレアだけが、どういう意味かわかったように目を丸くしていた。

 それを見て、香月がクレアに聞く。

 

「よくわからないんだが……これ、どういう意味だ?」

『一ヶ月後に報告……ってのがミソだね。言い換えるとだいたい四週間後……ああ〜なるほど〜そんな手があるんだなぁ〜……』

「?」

 

 一人納得するクレアに香月は意味がわからず首を傾げていた。

 一方、発言の後に顔を赤らめてもじもじしているかりんの様子を見て、ジェイムズが何かを察したのか声を上げた。

 

「まさか……魅了の術中にある時に俺、かりんに何かしたのか……?」

 

 一度唾を飲み込んで、真剣な口調でジェイムズがかりんに問う。かりんはますます顔を赤らめてもじもじしたまま、こくんと頷いた。

 

「あ、うん……。ジェイムズが私の事本当はすごく好きって……」

 

 かりんの言葉を聞いて、ジェイムズは絶句した様子だった。そして冷や汗を流しながら言った。

 

「まさか……俺、かりんに結婚してくれって言ったのか……?」

 

 そんな様子のジェイムズを見て、かりんは思わず笑ってしまってニコッと笑顔になって言った。

 

「もう〜、ジェイムズ。違うよぉ〜」

「……違う、のか?」

 

 訳がわからないと言った顔で見るジェイムズに、かりんは照れながら言った。

 

「思い出しただけでニヤけちゃうけど……ジェイムズにはやっぱ教えてあげない♪ でも四週間後に検査(・・)したのを報告するから、婚姻届を一緒に出す覚悟はしといてね♪」

「……?」

 

 かりんのその言葉にしばらくジェイムズが考え込んでいたが、その言った言葉から思い浮かぶ連想できるワードが脳裏に浮かんで、ガクガクと震え出した。愕然と頭を抱えてその場に崩れ落ちた。

 

「マジでか!? やっちまったのか俺!」

「うん……魅了にかけた後は別に何にも命令とかしてなかったんだけど、あの後すっごくいっぱい……一晩中どころか、三日三晩……」

 

 それだけ言って、かりんがますます頬を赤らめる。その様子を見ながら、香月がクレアに聞いた。

 

「なあ、あの言葉の意味って……」

『言わせるなよ恥ずかしい……。まあ、四週間後はお楽しみにって事だよ』

「?」

『ボクも魅了の魔術勉強しようかな……』

 

 そんな独り言をクレアがポツリと言う。

 香月はそんな満月亭の様子をカウンター席から眺めながら、首を傾げるしかなかった。

TIPS:「四週間後」


 非常に大人向けな内容になってしまうのでここでの解説は避けますが、もう本当ジェイムズはかりんの魅了の魔眼の術中に落ちて何をしたんでしょうかね……。

 よくわからない人は大人になってからわかるんじゃないでしょうか。早く大人になーれ。

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