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【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅰ 『EVE誘拐事件編』
24/164

23.ディヴィッドとの決戦

「ハッ! 馬鹿がッ! まとめてぶっ殺してやるよ‼︎」

 

 そんな声と共にディヴィッドだった怪物は二人へと突っ込んできた。

 香月はそれを(かわ)し、ロナルドは十字架の大剣を振り上げて迎え撃った。

 

「おおおおッ‼︎」

 

 ロナルドが叫ぶ。

 ディヴィッドの振り下ろした爪とロナルドの剣がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が巻き起こった。

 

「ハッ! やるじゃねえか教皇庁(バチカン)(いぬ)がよォッ!」

 

 ディヴィッドが叫ぶ。

 ロナルドはそのまま力任せにディヴィッドを押し返し、口を開いた。

 

「貴様は未来(みら)を危険な目に遭わせた。(しゅ)御力(おちから)を借りて、貴様を断罪(だんざい)する!」

「ハッ! 教皇庁(バチカン)(いぬ)でありながら、吸血鬼という教皇庁(おまえら)にとっての(けが)れた肉体の奴が言う台詞(せりふ)かッ!」

「黙れ!」

 

 ディヴィッドが叫んだ瞬間、ロナルドは地面を蹴り彼との距離を一気に詰める。そして彼は十字架の大剣を振るいディヴィッドに斬りかかった。その斬撃は鋭く、的確にディヴィッドの太い首を狙っていた。しかしそれをディヴィッドは余裕を持って回避し、爪によるカウンターを放つ。

 

「チッ……!」

 

 舌打ちをしてロナルドが距離を取りつつ、再度剣を振るう。すると今度はディヴィッドは避けずにそれを受けた。

 ディヴィッドの爪とロナルドの剣がぶつかり合い、激しい衝撃波が起こる。その衝撃は凄まじく、二人は後方へと吹き飛ばされた。

 

「くっ……!」

 

 ロナルドが(うめ)く。

 ディヴィッドは体勢を整えながら言った。

 

「ハッ! 馬鹿がッ! まとめてぶっ殺してやるよ‼︎」

 

 そう言って彼は爪を振り上げて飛びかかった。しかし、それを読んでいたかのようにロナルドは(おご)かに呟いた。

 

(やみ)よ、(やいば)()せ」

 

 それが発動の(トリガー)だった。彼の周囲に闇色の霞が立ち込めると、それが瞬時に刃を(かたど)った。漆黒の刃が、まるで意思を持つかのようにディヴィッドを襲う。

 

「何ィ⁉︎」

 

 ディヴィッドが驚愕(きょうがく)する。

 しかし彼はすぐに体勢を立て直し、回避を試みたが遅かった。無数の刃はディヴィッドの身体を深々と切り裂いた。

 

「ぐがァッ……!」

 

 ディヴィッドの口から血が垂れる。

 だが、その血はすぐに止まり再生が始まった。それは驚異的なスピードで闇の刃に切り裂かれた肉を元通りにしていく。イヴの血を注入した効果なのだろうか、とんでもない再生能力をディヴィッドに与えていた。

 

 その様子を見たロナルドは即座に追撃を放つ。今度は十本以上の闇の刃を放つと同時に自身もディヴィッドへと接近し大剣で斬りつけた。

 

 ディヴィッドは爪で全ての闇の刃を相殺したが、ロナルドの剣は防げずに胸に大きな傷を負った。

 

「ぐぅぅ……ッッ!」とディヴィッドは呻き、地面に膝をつく。

「終わりだ」

 

 ロナルドが呟く。

 しかしディヴィッドはまだ諦めてはいなかった。彼は立ち上がると、鋭い牙をむき出しにして笑った。

 

「ハッ! 面白ェ! 良いぜ、続きと行こうじゃねえか‼︎」

 

 鋭い爪の生えた指先を広げ、掌をロナルドに向けたディヴィッドは、その構えた掌から魔術を放つ。

 

Storm Edge(ストームエッジ)ッ!」

 

 ディヴィッドの掌から放たれた風の刃は、まるで暴風雨のようにロナルドに襲いかかった。

 香月の目からしても、以前よりもその勢いは増していた。

 

「クッ……ああああッッ!」


 ロナルドは顔を歪めて叫んだ。

 彼は大剣を振るい、その風圧を相殺しようとするが間に合わない。ディヴィッドの放った魔術は容赦なく彼の全身を切り刻んだ。

 

「ぐあああぁッッ!」

 

 ロナルドは悲鳴を上げる。

 鮮血と共に皮膚が裂け、肉が抉られていく。彼は必死に痛みに耐えつつ地面を蹴って後方へと飛び退く。

しかし、ディヴィッドはそれを許さないとばかりに追撃を放つ。

 

Storm Edge(ストームエッジ)ッ‼︎」

 

 再びディヴィッドの指先から放たれた風の刃がロナルドを襲う。

 ロナルドは咄嗟に十字架の大剣を盾にして防御したが、それでも大剣は風の刃の勢いに弾かれてロナルドの手を離れた。

 風の刃の嵐を完全には防ぎきれずに全身に裂傷(れっしょう)を刻まれる。

 

「ぐああッ!」

 

 ロナルドは苦痛の声を上げ、その場に倒れた。そんな彼の姿を見下ろし、ディヴィッドが口の端を(ゆが)ませる。

 

「ハッ! もう終わりか? お前は俺と同じで再生能力があるんだろ? この程度かァ⁉︎」

「くッ……!」

 

 ロナルドは悔しそうな表情を浮かべる。

 

「さァ、次はお前の番だァ!」

 

 ディヴィッドは叫び、香月に向かって突進してきた。その速度は凄まじく一瞬で距離を詰められる。

 

「くっ……!」

 

 香月は咄嗟(とっさ)に身を(かわ)す。しかしディヴィッドは執拗(しつよう)に彼を追い続ける。

 

「やるしかねえ……フルパワーだ」

 

 香月はそう呟いて、ディヴィッドの追撃(ついげき)(かわ)しながら、ありったけの魔力を身体中へ張り巡らせた。

 

Enhance(エンハンス)《肉体強化》ッッ‼︎」

 

 香月が魔術の発動の言葉を叫ぶ。

 次の瞬間、彼の身体の奥底からマグマのようなエネルギーが溢れ出した。それは全身を駆け巡り、力となって溢れ出す。出力フルパワーの肉体強化魔術だ。

 

「さらに、効果の(かさ)ねがけだッ!」

 

 そう言って、香月は足を広く広げて構えた。そして、咆哮(ほうこう)する。

 

「ウォォォォォォォォォォンンッッ‼︎」

 

 人狼化(じんろうか)の為の咆哮(ほうこう)だ。その咆哮(ほうこう)と共に、香月の身体が徐々(じょじょ)に大きく変化していく。全身から獣の毛が生えて骨格が変化し筋肉量が増えていく。爪や牙も鋭く尖っていく。

 やがて完全に人狼と化した彼はディヴィッドに向かって走り出した。

 

「ハッ! 馬鹿がッ! Storm Edge(ストーム・エッジ)ッッ‼︎」

 

 ディヴィッドが魔術を放つ。しかし、その攻撃は香月には届かない。彼の肉体を切り裂く前に、風の刃は霧散(むさん)した。

 香月が拳と蹴りの乱打で、無数の風の刃を打ち消していたのだ。

 

「面白ェなァ!」

 

 ディヴィッドはさらに速度を上げて香月に突進する。すると、その勢いのまま爪を振り下ろしてきた。

 香月はそれを紙一重(かみひとえ)(かわ)す。しかし次の瞬間には次の攻撃が襲いかかってくる。

 ディヴィッドの動きはまるで獣のようだったが、それ以上に香月のフルパワーの肉体強化魔術と人狼化の(かさ)ねがけの効果は凄まじかった。

 

「グルルァッ!」

 

 香月は野獣の雄叫(おたけ)びを上げ、ディヴィッドの懐に飛び込むように肉薄(にくはく)する。そして屈んだ姿勢からそのまま彼の腹を殴り上げる。

 ディヴィッドは後方へと吹き飛び、地面に叩きつけられた。しかしすぐに立ち上がり、再び襲いかかってくる。

 

「ハッ! まだだァッ!」

 

 ディヴィッドはそう叫ぶと同時に爪を振り下ろしてくる。香月はそれを腕で受け止めると、今度は逆に彼の腕を摑んだまま投げ飛ばす。いや、凄まじい力でデヴィッドの腕を引きちぎった。

 

「グギャアアアッッ‼︎」

 

 悲鳴を上げるディヴィッド。その(すき)に香月は追撃を仕掛けた。彼の腕を引きちぎった後、今度は爪をへし折り、さらに足を蹴り飛ばす。そしてバランスを崩したディヴィッドの首を摑んでそのまま勢いで地面に叩きつける。

 

「ぐがああぁッッ!」

 

 ディヴィッドは叫び、その裂け上がった口から血を吐き出した。だか、すぐに立ち上がる。

 

「ハアァ……、アアッ……」

 

 ディヴィッドが息を(あら)げていた。だが、彼の全身から流れていた血は(すで)に止まっていた。それどころか、引きちぎられた腕は既に再生を始めている。

 みるみると骨が伸び、剥き出しの肉が再生されていき、皮が張られ、あの悪魔のような色の肌が復活する。

 あの再生能力だ。しかし、その目は怒りに満ちている。

 香月はそんな彼の姿を見据えながら、静かに言った。

 

「もう、終わらせてやるよ」

 

 厳かに言う。拳を構えて、地を蹴った。

 

「オォアアアッッ!」

 

 ディヴィッドが叫び、香月に向かってくる。その速度は先程の比ではなく、更に速くなっている。一瞬で間合いを詰めてきたディヴィッドは爪で襲いかかる。しかし香月は軽く身を(かわ)しつつ反撃に出る。

 まず脇腹に拳を叩き込んだ。凄まじい衝撃音が響きわたると同時に、ディヴィッドの巨体がくの字に曲がる。

 だが、まだ終わらない。ディヴィッドは再びその爪で襲いかかってくる。

 

 頭を狙ってきた一撃を、香月は紙一重で避けつつカウンター気味に左拳でアッパーカットを叩き込み、それにすかさず凄まじい速さの右拳の乱打を浴びせかける。

 

「ガァッ……!?」

 

 まともに喰らい、()()ったディヴィッドにさらに追撃するように香月が身を(ひね)らせるように飛び上がった。そうして、空中で身体ごと回転させて、渾身(こんしん)の蹴りをディヴィッドの頭部に叩きつける。

 ディヴィッドの頭部の上半分が弾け飛び、その肉片は周囲に飛び散った。

 

 しかしそれでもなおディヴィッドは倒れない。香月は着地しすぐに追撃を仕掛けようと構えるが、そこで異変が起きた。

 

「フッ……」とディヴィッドが笑ったような声が聞こえたのだ。

 

 次の瞬間には、彼の頭部は完全に再生されていた。そして同時にディヴィッドの腕が香月の腕を(つか)んでいた。

 

(ひざまず)け」

 

 ディヴィッドが命令するように言う。その言葉を聞いた瞬間、香月の身体から力が抜けていくのを感じた。

 

「……ッ!?」

 

 香月は膝をつく。まるで全身の力を吸い取られたような感覚だった。いや、違う。これは──

 

「おいおいィ……魔術協会(ソサエティ)構成員(エージェント)(くせ)にプロファイリングしてないのか? それとも忘れてたのかァ? 俺の魔術師としての専門は、本来精神干渉魔術なんだぜェ……?」

 

 どういう事だ? と、香月は思った。魔術の発動の言葉はディヴィッドは発していない、だが、香月は彼の精神干渉の術中に居た。

 

「おやァ……? どうして精神干渉の術中にあるんだって顔をしているなァ。答えは簡単だぜ。ココさ」そう言って、ディヴィッドは心臓の辺りをその爪先で示した。「ここの中に、俺特製の精神干渉魔術の魔石が埋め込んであるのさ。第三世代魔術は魔力を注ぎ込むだけで発動するからな……、これなら実質ノーモーション。気付かぬ内に術中って訳だ。これで魔眼並の使い方ができるって寸法さ。外科手術にはちょいと金がかかったけどなァ」

 

 ディヴィッドが笑う。その笑みは狂気を(はら)んでいた。

 発想が狂っている。いや、ある意味魔術師としては正しいと言う者も出現しかねない。

 

 魔道具を使っての発動である第三世代魔術が持つ弱点は「魔道具を奪われる」事だ。それが起きにくい点でも、合理的な使い方だからだ。

 奪われる可能性があるとしたら、心臓を狙って殺された時なのだ。

 

「えーと、お前は何て言ってたっけなァ……」ディヴィッドが考える素振りを見せ、しばらく考えていると思い出したように言った。「ああ、そうだ。終わらせてやるよだったなァッ!! そっくりそのままお返ししてやるよォッッ!」

 

 叫んだ瞬間、彼の腕を掴む香月の腕に力が入った。そして次の瞬間には凄まじい力で地面に叩きつけられる。

 

「うぐっ……ッ!」

 

 肺の中の空気が全て吐き出され、一瞬呼吸困難に(おちい)る。だがディヴィッドは容赦(ようしゃ)しない。香月の首を(つか)み持ち上げる。

 

「ハッハァァッ!! 死ィねやァッ!!」

「うッ……ぐっ……がァッ……!!」

 

 首を絞め上げられながら香月は必死に抵抗するが、ディヴィッドの腕を払う事すらままならない。人狼化の変身が解け、膨れ上がっていた筋肉は(しぼ)み人間の姿を取り戻していく。

 

 時間切れだった。フルパワーの肉体強化魔術と人狼化の重ねがけは香月の切り札だったが、人狼化した身体を極限まで強化して人知を超えた力を発揮できる反面、魔力の消耗が激しいのだ。

 

 しかし彼は諦めていない。歯を食いしばり、足をばたつかせる。

 そしてディヴィッドの腕を両手で摑み、爪が食い込む程強く力を込めた。

 

「ハッ! 無駄な足掻(あが)きをォ‼︎」

 

 ディヴィッドは(わら)い声を上げると更に締め付けを強くする。香月は痛みに(もだ)えるがそれでも抵抗をやめなかった。しかし、やがて限界が訪れる。意識が薄れ始め、視界が霞んでいったその時だった── 突然、ディヴィッドの動きが止まったのだ。

 

「なッ……⁉︎」

 

 驚いたのはディヴィッドの方だった。

彼が手の力を(ゆる)めた訳ではない、香月が動いた訳でもない、では誰が?

 

「ふぅ……なんとか間に合ったようだな」

 

 そう言いながら現れた男。彼はディヴィッドの腕を(つか)むと力を込める。ディヴィッドの腕に亀裂が入る音が聞こえた。そして次の瞬間には彼の腕が千切れ飛んだ。

 

「ぐああぁッ‼︎」

 

 ディヴィッドの叫び声が上がる。

 その隙に香月は距離を取る事ができた。咳き込みつつその男の名を呼んだ。

 

「二階堂さん! 助かったぜ」

「危ない所だったな、大神。イヴさんは無事に保護した。それに増援は呼んである。後から来る一条から手当てを受けるんだ」


「いや」香月がかぶりを振る。「まだやる。まだやれる……」

 

 そう言って、香月がヨロヨロと立ち上がる。

 

「いや、無理だ。今のお前は満身創痍(まんしんそうい)だ」

 

 二階堂は香月の肩を掴んで言った。しかし彼はその手を振り払うと、再びディヴィッドに向かっていく。

 その姿を見た二階堂が叫んだ。

 

「やめろッ! そんな状態で勝てる相手じゃない!」

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