表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章完結】現代魔術は隠されている  作者: 隠埼一三
Episode Ⅵ 『遺志を継ぐ狩人編』
164/164

1.プロローグ

 それは海外のとある匿名掲示板群に、突如として現れた投稿だった。


「こんばんは或いはおはようございます。この世界には、人知れず隠された秘密が存在します。

 我々はその秘密を探求し、陰謀を打破する勇気ある仲間を求めています。

 この画像に隠されたメッセージを解読できる者は、その道標を辿ることになるでしょう。幸運を。3301・51419」


 英語で綴られた文面には、一見ただの夜景写真が添付されていた。だが、画像に散りばめられた数字は明らかに暗号めいており、人々は謎を直感した。


 それは2010年代初頭、インターネットを騒がせた「未解決の暗号挑戦」を思い起こさせるものだった。いわゆる、シケイダ3301だ。

 当時、その正体は諜報機関の採用試験か、ハッカー集団の仕業か、あるいは秘密結社の存在か──結局は解明されぬまま、ネットの伝説として語り継がれていた。


 そして今回の投稿もまた「その再来」と騒がれ、世界中の掲示板で転載される。だが、解読に成功する者は現れず、やがて人々の関心は薄れ、ただの悪戯だと忘れ去られていった。


 ……はずだった。


 ある日、とあるゲーム実況者の配信中に事件が起きる。突如としてPCがハッキングされ、画面に「謎のアンサー」と思しき画像が表示されたのだ。以降、配信画面に「自作の暗号画像」を差し込む行為がブームとなり、便乗した目立ちたがりが群がった。


 その中で、日本の動画投稿SNSに投稿された一本の切り抜きが、大きな注目を集める。


 ある個人勢の日本人女性VTuberが、配信中に──冗談めかして或いはごっこ遊びに見せかけて本当だったのか──「最初のアンサー」を模倣するかのような演出をしたのだ。そこに映し出された画像には、日本語でこう記されていた。


「狼か、あるいは月か。貴方に告げる。夜の花々には貴方を見つける方法がある。私達は今、太陽と夜を追っている。待っていなさい。これが3301・51419に対する私達のアンサーだ。──1052167・11014」


 投稿は瞬く間に拡散される。しかし直後、元配信アーカイブと動画は削除され、VTuber本人は活動休止を宣言。以降、消息は途絶えた。


 最後に残された数字列──それは「ポケベル語」で「どこにいるの? 会いたいよ」を意味していた。


 不可解な失踪と、謎めいた暗号。そして、まるで明確なメッセージのある末尾のポケベル語。

 海外掲示板でも熱狂的に議論が巻き起こった。


「これも暗号なのか? 末尾の数字が最初のアンサーにちょっと似てるけど日本語だし、おふざけにしか見えないな」

「ただのネタだろ。だが活動休止の理由は不可解すぎる」

「『夜の花々』……『太陽と夜』……何を指してる?」

「1052167・11014は日本のポケベル暗号らしいぞ!」

「本当に暗号か? これはただのメッセージじゃないのか?」


 議論は錯綜し、混沌を極めた。

 そんな中、一人のアメリカ人の自称天才が投稿に挑み、ついに一つの答えを導き出す。


「情報を集めて考えてみた。『狼か月か』──これは十年前から続くMMORPG『ムーンウルフ』を指しているはずだ。そして『1052167』『11014』は、日本のポケベル語でそれぞれ『どこにいるの』と『会いたいよ』を意味する。恐らく、最初の投稿の写真に写された場所を探せ、そこに何かがあるという解釈をして良いのではないだろうか。そうに違いない」


 その投稿は一見支離滅裂な物にも見えた。だが、馬鹿馬鹿しいと嘲笑する者、面白半分に煽る者、そしてただ静かに見守る観客を巻き込み、異様な盛り上がりを見せていった。

 彼は画像に仕込まれた暗号を解読し、その指し示す場所を特定した。

 そこに隠されていたものを目にした瞬間、彼の投稿により始まったムーブメントは大きく展開を変えた。


 ニューヨーク・タイムズスクエアの片隅。夜には閉鎖される小さなスペースのベンチ。その座面の裏に、ひっそりとUSBメモリが貼り付けられていた。

 それはスパイ映画に出てくる「デッドドロップ」さながらの仕掛けであり、誰にも気づかれず、しかし誰でも手に取れる場所に置かれていた。


 指先に伝わる冷たい金属の感触。埃をかぶった表面には『21104・0106』という数字が刻まれているだけで、他に説明はない。


(これも暗号か……?)


 彼はその場でノートPCを開き、慎重に接続した。

 現れたフォルダには、ただ一つのファイル。名前は「READ_ME_FIRST.txt」。


 開くと、そこには短い英文が記されていた。



“If you are reading this, you have already taken the first step.

Secrets lie hidden in plain sight.

The path you seek begins where the light touches the shadow.

Follow carefully, and you may understand what others cannot.

3301・51419”



 翻訳すればこうだ。


「よく見つけたね。これを読んでいるということは、すでに最初の一歩を踏み出したということだ。秘密は人目に触れる場所にこそ隠されている。

 君が求める道は、光と影が交わる場所から始まる。注意深く進めば、他の者には理解できないものを知るだろう。──3301・51419」


 短い文章だったが、その余白の向こうに無限の謎が潜んでいるようだった。

 さらにフォルダには『ムーンウルフ』のゲーム画面が添付されていた。だがそこには実際のプレイでは表示されない数字が散りばめられており、ゲーム内のマップ番号や座標を思わせるものだった。


 謎を解き進める中で、彼はついに辿り着く。

 十年以上存在が確認されながら、正式には誰一人入手できなかった最強の隠し武器。その入手方法が、初めて明らかになったのだ。


「これが……『ムーンライトブレード』……ついに見つけたぞ……!」


 その発見は掲示板で瞬く間に拡散され、やがて海外大手ゲームサイトに取り上げられた。

 ニュースは海を越えて日本にまで届き、一大ブームを巻き起こした。さらには、世界的に有名なあの『モンスター収集ゲーム』にまで──似た現象を引き起こすことになる。


 ちなみに、実のところこれは全くの不正解だったりする。どうやってやったのかというレベルの事柄さえあるが、これは『作為的に用意されていたハズレ』のひとつだったのだ。


 そう、この騒ぎのすべては、真相を覆い隠すためなのかそうでないのか──誰かが遊びで仕組んだ回りくどいカバーストーリーにすぎなかった。

 いや、それはむしろ、愚か者の反応を眺めて楽しむための、巧妙な暇つぶしに過ぎなかったのかもしれない。


──ともかく、真の答えは別に存在していたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ