数式の亡霊Sheet9:23日
プレゼントされたデジタルアートは育美が推してやまない漫画『君との小指と薬指』の描き下ろしイラストだった。
「グッさん、ひとつ質問いいですか?」
アキラまで胸元挙手をやり出した。
「なんだね、アキラくん」
教授モードの川口。
「イラストのプレゼントなら、単にUSBメモリか何かにコピーして渡せばよかったんじゃない?何でこんな回りくどい事したのかな?」
「これは憶測だけど…」
川口が素に戻って答える。
「まず一点、これが単なるコピーではなく唯一無二の作品であると証明すること。もう一点は…転売がしやすい事ことかな。」
「転売なんてするわけないじゃないですか」
育美が静かにつぶやく様に言った。
「そうだよね。そんな事出来ないよね」
やっぱり一言余計だったなと反省する川口。
「でも…資産価値があるなら相続税とか、遺族の叔母さんや従姉妹とも相談しないと…」
「あぁ、そのへん心配なら相談にのるよ。ウチに詳しい弁護士いるから」
川口は反社どころか、顧問弁護士を抱えるほどの経営者だった。
「という事で一件落着とあらためて育美さんの誕生を祝して、乾杯といこうか」
アキラが音頭を取る。
「乾杯〜!」
「そうだ、私からもプレゼントがあるんだった、アキラさん、お願い」
アキラが川口から預かっていた包みを持ってきた。
「えっ、そんな、こんなにしていただいて…」
育美は感極まって涙ぐんでしまった。
「まぁまぁ、叔父さんのプレゼントに比べたら全然たいしたもんじゃないから…ほら、開けてみて」
育美が包みをほどくと、中からタブレット端末が現れた。
「魔道具…」
エルがつぶやく。
「全然大したもんじゃねーか。下心とかねーだろーな」
アキラも茶化しながらとはいえ、念のため釘を刺す。
「ないない。それ型落ちだし。仕事柄まとめて購入するんだけど、未使用のが余ってただけたから…」
「ふーーん、そうなんだ」
まだどことなく疑心暗鬼な口調で迫るアキラ。
「そうだ、まだ余ってるのあるけど、どう?エルちゃんも欲しい?」
なぜかアキラではなく、エルを巻き込む川口。
「魔道具…欲しい」
「エルちゃんにも一応誕プレの前倒しって事で、ねっ。ちなみに誕生日いつ?」
大した事ないアピールに必死な川口。
半ば呆れ気味のアキラが割って入る。
「あーエルの居た異世界は暦が…」
「23日」
「えっ、エル?」
「この世界で初めてアキラと出会ったのが3月23日。だからこの世界での誕生日は23日。今日はちょうど半年の記念日」
「ちょっ、エル、おま…さっき…」
アキラの狼狽ぶりがマックスになる。
「お、おう、だったら明日持ってくるわ!二分の一誕生日おめでとうエル!」
「くぅ〜、尊い〜」
貰ったばかりのタブレット端末で悶絶しながらエルとアキラを写真に納める育美だった。