数式の亡霊Sheet8:アスキーアート
「これは文字化けじゃありません」
エルはそう言いながら、文字列を全選択する。
「フォントを等幅フォントに設定します」
何やら規則性が出てきた。
「全体像が見える様、フォントサイズを小さくします」
「これは!」
「QRコードか!」
川口とアキラがほぼ同時に声をあげた。
「そう、キュ…ページ召喚の魔方陣です」
エル、もうQRって言えるのにわざわざ異世界語っぽく言い直してるフシがある。
文字化けかと思われたそれは、QRコードを文字列のアスキーアートにしたものだった。
等幅フォントなら初めからちゃんと見られたハズだが、プロポーショナルフォントで表示されたので形が崩れてしまっていたのだ。
これがMacで開いたせいなのか、もともと叔父の画策だったのかは定かではないが。
そもそもQRの画像ではなく、アスキーアートにしたのは何故なのか?
単に叔父という人物の茶目っ気だったのかも知れないが、不合理なちぐはぐさを感じる。
「ここから読めるのかな?」
育美はスマホを取り出しながら、LINEのQRコードリーダーを立ち上げる。
読み取り枠にQRを捉えるとあっさりURLが読み取れた。
「入ります」
凛とした郁美の声に、川口は何故か昔観た任侠映画の女壺振り師を連想していた。
育美のスマホを覗き込みながら、エルが誰ともなしに尋ねる。
「NFT…って何ですか?」
飛び先はNFTのページだった。驚異的なスピードでITスキルを身に付けたエルだが、特定の一分野の知識がごっそり抜け落ちてる事がある。
「"Non-Fungible Token"非代替性トークン。つまり代替が効かないトークン…同じ事言ってるなw 要するに今回この場合は唯一性が保持されたデジタルアート、デジタル資産といってもいいけど、そのアートを育美ちゃんにプレゼントしたって事になるんじゃないかな」
意外なことに解説したのは川口だった。
「グッさん、アンタ一体何者なんだ?」
実はアキラも川口が何をしてる人なのか知らない。
以前、
「ちょっと人に説明するのは難しいんだよね。表に出ない裏の仕事というか…」
と言葉を濁してたから、てっきり裏稼業かと深入りしてなかった。
「まぁ投資に関してはアドバイザー的な事もしてるからね。仮想通貨とかNFTとか新しいのも学習しないとやっていけんのよ。広く浅くってやつだけどね」
「そっか…ゴメン」とアキラ。
「え?何で謝るの?」
「あ、いや、ここんとこ店来るのご無沙汰だったの、"別荘"とか行ってんのかなーとか思ってた…」
「別荘って…刑務所の事?酷っ!…ふははははは」
川口はあまりの勘違いに呆れて笑い出した。
「ねぇ、アキラさんって酷いよねぇ」
育美とエルの方に目をやると、二人とも胸元挙手で、
「私も」
「ごめんなさい」
と言った。
今度はちょっとヘコんだ。