数式の亡霊Sheet7:文字化け
育美は定刻の五分前にやってきた。
「誕生日おめでとう!」
アキラ・エル・川口の三人でクラッカーを鳴らす…のだが、慣れない川口はタイミングが遅く、エルにいたっては初めてで勝手が分からず鳴らせなかった。
「さ、まずは乾杯といこう。とりあえずみんなシャンパンでいいかな」
ただの飲み会といわれればそれまでだが、育美にはみんなの心遣いが身に沁みた。
「えー、宴もたけなわではございますが本日のメーンイベント、ファイルのご開帳と参りましょう。育美さん、ご準備お願いします!」
おどけた調子で促すアキラ。
Macbookはすでにセッティング済だ。
「じゃあ、いきます!」
育美はファイルをダブルクリックした。
今日はダイアログメッセージの代わりに非表示だった2つのシートが表れた。
一つは誕生日を祝うメッセージ。
今までの事、そしてこれからの事…叔父からのエールにあふれている。
病魔に侵されてそう長くはない事も綴られていた。
プライベートな内容なためアキラと川口はオードブルに手を伸ばしたりグラスを干したりと、ガン見はしてませんアピール。
エルはそんなことはお構い無しだ。
「最後にSurpriseシートを見るようにと書いてあります」
そう告げると育美は別シートのタブをクリックした。
dMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMM} dMMMMMMMMMMMMMMMM` ,MMMMMMMMMMMMMMMM} dMMMM#…
こんな文字列が延々と続く。
「ん?なんやねんこれ?」
川口、似非関西弁モードだ。
「文字化け…ですかね」
ここまで来て期待値が上がった分、気落ちする育美。
「分かるか、エル?」
しばし沈黙のあと、アキラが尋ねる。
「おそらくは…私の考えが間違ってなければ、一つの操作で解決するかと思われます」