数式の亡霊Sheet6:誕プレ
9月23日。
普段の月曜日なら惰眠を貪ってる朝の9時。
アキラとエルは店内をバースデーパーティー仕様にするべく、飾り付けに精を出していた。
「なぁ、エル」
「?」
「そういやお前の誕生日っていつなん?」
出会った当初から極力詮索するまいと気を使ってたあまり、そんな事も知らなかった。
「この世界と暦が全く異なりますから、聞いても意味ないですよ」
「あー、でも向こうでも誕生日を祝うくらいはしてたんだろ?」
「人間はするんでしょうけど、私たち長命種のエルフは滅多にしませんね」
「え、何で?」
「例えば今日23日が誕生日だとして、毎月23日にお祝いします?」
「もの好きはするかもだけど、普通はしないかな」
「そういうことです。エルフが誕生を祝うとしたら百年に一度くらいでしょうか、覚えていればですが」
アキラはそれ以上深入りするのを止めた。
特に現在の年齢はこの先も絶対に聞くまいと強く誓った。
12時を少し回った頃。
飾り付けとオードブル、ドリンクの準備が整った。メインのローストチキンも後はオーブンで焼くだけだ。
裏の勝手口をノックする音が聞こえた。
「はぁい、今行きます〜」
鍵は開いてるがアキラが出迎えに行く。
ドアを開けると立っていたのは川口だった。
「何だグッさんか…どうぞ、入って」
「何だはないだろうw 本日はお招き頂き恐悦至極に存じ奉ります〜。…育美ちゃんはまだみたいだね」
「気が早いよ、グッさんw」
「はい、これ誕プレ。ちゃんと300万円に抑えたから。奥に隠しといて」
「300万は冗談だったけど、それにしても高価そうじゃない。ゴメン、何か気ぃ使わせちゃったね」
「うん、それさ…例のファイル、おそらくサプライズに間違いないんだろうけど、叔父さんは彼女に渡す前に亡くなってるだろ。もし準備途中で続きが何にも無かったら可哀想かなと思ってさ」
川口が神妙な顔つきでそう告げた。
「グッさん…あんた大人だね。さすがウチの常連だ」
「アキラさんもそう思って今日パーティーする事にしたんでしょ?」
「うん、まあね」
エルはこの時初めて気が付いた。
アキラがなぜあの時「今はダメだ」と止めたのかを。
あのファイルは次のアクションで隠されているシートが表示される様になっている。
ちゃんと中身が準備されていれば良いのだがと、エルは思った。