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別れの宴はかくも楽しく


「バグ! ゴブモモモモ……ヒュルル」

「おっ? 遂に燃料が切れたか?」

「さすが新古車だね。車体が死ぬ前にガス欠が先だったか」

「みゃあ、いつの間にか空港へワープしてるミャ」

「ということはとうとう10万人の転生を終えたんだな!?」


 まだまだ動きそうな、けれど前面が血まみれになったガス欠トラックはいつの間にか空港へ戻ってきていた。


 10万人という大人数なのでいちいち数えてなどいなかったが、きっとこれは達成したということで間違いないだろう。それに思ったよりトラックが長持ちしたから10万人以上はひけたはずだし。


 ともかく俺たちはトラックから降り、マキマキおじさんへ話を聞くことにした。


「ふぉっふぉ、お疲れ様じゃ。遂に目標達成しちゃったのぅ!」

「感慨深いな。何ヶ月も掛けての計画がようやく終わったなんて」

「俺とイブの頼みを引き受けてくれてみんな本当にありがとう。この礼は必ず返すからな!」

「そうだそうだ、私達の故郷へ帰ったら今度はこっちがもてなしてやるぞ!」

「それは楽しみね〜! あっちだとあたしの体が強くなるし、早速明日にでも行きましょ!」

「そうじゃな、せっかく自由に行き来できるんじゃし」


 わいわいと大仕事を終えた充足感にみんな酔いしれながら、楽しそうに昨夜のうちに用意していたパーティーの席へ着く。


 すっかり俺たちの生活拠点と化したこの空港には今やガスコンロや発電機が置かれ住むことに不便は無くなった。


 さすがにもうトラックを何百台もストックすることは無いだろうからしばらくは来ないと思うが、ここはいつでも来れるし最高に海が近いからみんな気に入っている。


 そのお気に入りの場所からしばらく離れる、という事もあり少しでも楽しもうと大賑わいを見せた。


「みゃん〜! 魚を焼くんだミャ! 野菜なんていらないみゃ」

「あ〜、ネギをアミの下に落としたな! この俺が馬主で地主で農家な人からおすそ分けされたネギが〜!」

「うひょひょ、シークァァァァを焼いたらうまいのかのう」

「シークワーサーはスライスしてお肉の上に乗せたらいいんじゃないかな……」

「おいエシャーティ、この冷えた茶色の三角はなんだ?」

「焼きおにぎり! あたしも食べたことないけど、バーベキューで人気らしいから冷凍のを買ってみたの」


 そう、今俺たちは空港の展望デッキで優しく吹き付ける潮風にくすぐられながらバーベキューを楽しんでいる。


 みんなが直感で調理に参加できて、好きなものを食べられて、さらにこの海が望める展望デッキを最高に活用できる。これほどまでにパーティーにふさわしいものはそうないんじゃないだろうか。


 アミが食材でギッシリと埋め尽くされ、みんなそわそわと焼き上がるのを待つ様子はまるで子供のようだ。


「つんつん、つんつん」

「シャケをつついても出来上がらないぜ。気長に待とう」

「みゃあ〜、もう食っていいんじゃにゃいかみゃ? そもそもシャケって刺身でも食えるミャ」

「我慢したほうがうまいぞ〜。まっ、まだまだ食材はいっぱいあるけどさ?」

「……ガマンするにゃ!」

「よしよし、感心だ」

「にゃあ〜ご!」


 段々と皮が香ばしくなってきたので一度ひっくり返してピンクの身を焼き始めると、シャケと醤油のふんわりとした香りがただよった。


 それを見た他の奴らも負けじとニワカに己の食材を転がし始める。串に刺さったネギを、上にシークワーサースライスの乗った肉を、そしてホカホカの焼きおにぎりを!


「クルクルクルクル……ああ、僅かな焼き目がうまそうだ!」

「よしっ、お肉もあとちょい焼けばイケるね!」

「ぬわぁぁぁぁワシの乗っけてたシークァァァが肉を返したときに墜落したぁぁぁ」

「おいエシャーティ、アミにお米がひっついてバラバラになっちゃうぞ!」

「ど、ど、どうしよー!?」

「スプーンですくうといいぞ」

「なるほど! ありがとね!」


 エシャーティたちに濡らしたスプーンを渡すと無事に焼きおにぎりを回収できたようだ。冷凍の物なのでもう食べられるようだ。


 うむ〜、羨ましいがバーベキューの出鼻で焼きおにぎりとは少し変わっているな……


「ふっふっふ、どんな味がするのかな。ぱくっ」

「もぐもぐ……むっ、醤油のスモーキーな香りと米の旨味が合わさってうまい! そしてちょうどいいサイズでありがたい!」

「おいしいじゃないの! ふわ〜、しっかり味が濃くてチューハイがまたおいしいじゃないの!」

「そうだな! レモンサワーがうまい! グビグビ」

「うわぁ〜、羨ましいなぁ、ボクたちもそろそろ食べよう!」

「みゃみゃみゃみゃみゃ、もう喰うニャ待てないニャ、ひょいっ!」

「よーしよし、俺の肉もいい具合に焼けてるな」


 エシャーティたちが食べるのを皮切りに俺たちも一斉に手を付け始めた。


 取皿に肉やらシークワーサーやらネギやら他の人が焼いてたものも少し頂いて、ビールやらチューハイやらも景気よく開けちゃって、まだ一口も食べてないのにゴキゲンだ。


 それぞれ焼き上がった物を口に含み、無言で酒を流し込む。そして余剰なアルコールを鼻から抜けさせながら景観百景とやらにも選ばれた美しい海を、そして晴れやかな空を見る。


 手前に視点を移せば、今度は楽しげにメシをかっ喰らうみんなの姿が見れる。


 なんて輝かしい光景だろう。この輝きを放つ人たちと俺は同じ場を過ごしているのだ。


 その誇らしさを踏まえてもう一度肉を口に運ぶと、もうたまりませんよ。


「ああ、肉がうんめぇ〜……」

「おじちゃんが海を見にゃがら肉を食ってるミャ」

「アグニャも見てみろ、あのキレイな景色を。シャケが幾分かうまく感じるぜ」

「みゃん〜。海よりも醤油で香ばしく炙られてるホタテのほうがおもしろいみゃ!」

「なにっ、ホタテか! それは海よりおもしろいな! どれどれ……」

「ジュワァァァァン」

「ひょー!! おい、まだあるのか!?」

「あるわよ〜。焼く?」

「おいおい、ちゃんと殻を開けたり身を切り離したりしてるじゃねえか! 誰だこんな気の利くことしてるやつ!」

「私だが。下ごしらえを済ませるのは女騎士の務めだ!」

「そ、そうなのか? とにかくありがとな!」


 女騎士と下ごしらえの関係性はいまいち分からんが、恐ろしいほどキレイにホタテの身が切り離されていて素晴らしい!


 これをアミに乗せて醤油とバターを突っ込んで焼くのはずっと夢だったんだ。


 あー、クソ、アグニャのホタテがプリップリとした身がよぉ、どんどん白く炊きあがっていってたまらねぇよ。


 あんな究極海鮮物を隣でツンツンされながらホタテ焼くの、目に毒だぜ!


 うわぁ〜、イブがそろそろ食べどきだぞって教えちゃった。そうなのか、あれが食べどきか。覚えたぞ。さすがはこの中でも女の子女の子してるイブだな〜、やっぱ料理に関する事は詳しいのか!


「はぐはぐ。うみゃっ! うみゃみゃ!」

「大丈夫かアグニャ、お前……猫舌じゃないのか?」

「え、なにボケたこと言ってんだミャ? 猫舌なわけないミャ。猫背ではあるけど……」

「なにっ!? ネコなのに猫舌じゃないのか!?」

「みゃあ。ホックホクのさかにゃもうみゃみゃ!」

「信じられん……が、そういえば今まで特に問題なく俺たちと同じもの食ってたしな」


 アッチアチのホタテの貝柱をものの一口で食べてしまったアグニャは、濃厚なミルキーさを味わうようにチビリとコークハイを傾ける。


 するとゾワワワと炭酸の刺激に合わせてしっぽがぷるぷるし、キマッているのが明らかだ。


 なんてウマそうにホタテを食ってくれるんだ、もう待ちきれねえ! 俺も醤油バターホタテを喰うぞー!


「うおおおおお! ガブリ!」

「うおおアアアッチィィィ!」

「おじちゃん、猫舌なのかみゃ」

「猫舌は舌の先端を下の前歯の裏につけるよう意識して食べると少しマシになるわよ!」

「なるほど……さすがエシャーティ、よく知ってるな」

「でもヤケドしちゃ本末転倒だから気をつけるのよ!」

「みゃん〜。イカ焼きもうみゃみゃ!」


 ……おいおいおい、それもうまそうじゃねえか。


 くそっ、なんだってアグニャはうまそうに焼くんだ。ネコのくせになかなか火の扱いがうめえじゃねえか。


 もしかしてイブたちと一緒に生活してる間に色々と覚えたのだろうか?


 だとしたら……


「うおおおおお! 偉いぞアグニャァァァァ! 賢すぎるぞアグニャァァァァ! すっごいなアグニャァァァァァァ!! アグニャは最強にゃんころだァァァァァァァ!!」

「おじちゃん、飲みすぎだミャ」



マキおじ「ハッ……シークァァァァの絞り汁をかけるとどれも美味しくなる!?」

ゴロ「そりゃまあ柑橘類だしサッパリするだろうね」

マキおじ「ということはこのシークァァァァカクテルにシークァァァァをシークァァァァすると……」

ゴロ「ちょっと待って、ワケ分からないよ?」

マキおじ「ほれ! これを見ぃ!」

イブ「きゃー! グラスにシークワーサーのスライスが刺さってておしゃれ〜!」

エシャーティ「すごく涼しげな緑がハイセンスじゃない! ねえ、あたしたちにも作ってよ!」

マキおじ「ほっほ!? 100話を前にしてようやくワシにモテ期が!?」

ゴロ「ほー……あ、めっちゃおいしい」


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